この間録画しておいた鉄道ひとり旅を見ていたら、房総半島を巡る旅だったので、昔のことを思い出してひとときノスタルジーに浸ってしまった。当時38歳くらいで、それまで私はバイクに乗りあちこち走り回っていたが一念発起し、車の免許を取りスズキのオープンカー「カルタス」を購入して、毎週の休日ドライブにはまっている時だった。房総半島一周ドライブは、私がよく行っていたドライブコースの一つである(もう一つは伊豆半島一周)。房総半島は春・夏・秋と気候も温暖で、道は分かりやすく車もまばらで、運転免許取り立ての私にはお誂え向きのドライブコースだった。何より半日走っても信号が無いという(ちょっと嘘っぽい)、走り好きには絶好のコースの一つである。そんな房総半島の懐かしいスポットをたどりながら、あの日の私をもう一度取り戻してみたい。
1、出発
当時私は北千住の西側、隅田川の近くの「墨堤通り沿い」にあるマンションに住んでいた。6階のリビングの窓からは朝焼けの富士山の神々しい姿がはっきり見えて、さわやかな気分が味わえたものである。そこを朝早く夜明けと共に出発して、京成関屋駅の脇を通過。いまは何処をどう走ったか記憶が定かではないが、確か堀切橋から立石通りを通過、奥土橋を抜けてそれから国道14号をひたすら南下した、と思う。幕張を過ぎる頃にはようやく空も明るくなり始めて、新検見川を通り千葉の駅前の朝のラッシュを車のフロントガラス越しに横目に眺めながら、これから始まる休日ドライブの開放感を体いっぱいに感じていた。千葉を過ぎて357号から16号に入る少し前の道幅が広くなっているあたりで車を寄せ、手動で屋根を開けてオープンにするのがいつものやり方である。
2、千葉のファミリーレストラン
一度、真っ直ぐ南下せずに左折して千葉街道を51号線のほうに行ったことがあった。ちょっと走って直ぐの所にファミリーレストランがあり、朝早く出てきたのでコーヒーを飲みたくなり寄ってみた。店内はまずまずの混みようで、私はタバコを吸っていたのでカウンターを選んだ。早速コーヒーを頼んでタバコをくわえて火を付け、天井に登っていく煙を眺めながら「自由って楽しい!、の気分」を存分に味わっていたら、制服の前掛けをつけたアルバイトのウェイトレスがコーヒーを持ってきた。彼女の顔は覚えていないがとにかくミニスカートが可愛くて、前屈みになると肉感的な脚が危険な魅力を撒き散らしている。私はコーヒー一杯を飲む間ずっとチラチラ盗み見をしていたが、あの子は今どうしているだろうか。スカートは短けりゃいいと言うもんじゃないが、艶めかしい脚というのも確かに存在するのである。その日は佐倉・酒々井と過ぎて印西にある抜け道沿いのお気に入れの喫茶店に立ち寄り、又してもコーヒーを飲んで天王台あたりから6号線で帰った。その店はその後一回だけ寄ったが、ルートが16号を南下するにしたがい結局行かなくなってしまった。いくらミニスカートから見える脚が危険な魅力に満ち溢れているとしても、こんな遠距離で毎週入り浸るほど馬鹿じゃなかったのである。だがこれが自宅から15分の場所に在ったらどうかというと、それはまあ今回の旅と関係ないのでひとまず黙っておくことにして、後は皆さんのご想像にお任せしよう。
3、海水浴場のトイレの上で日光浴
16号から127号に入り、ひたすら南下すると上総湊を過ぎた辺りで海岸線に出る。この近辺に小さな海水浴場があって、春がまだ終わって直ぐの5月の連休などには、コンクリート造りの公衆トイレの屋根に展望台がついていて、そこに寝そべって何をするでもなく甲羅干しなぞをして半日を過ごしたりした。海は穏やかで人影もなく、遠い水平線に陽の光がキラキラ反射してやけに眩しかったのを覚えている。私がうたた寝をしていると若い男がやはり肌を焼こうというのか展望台に上がってきて、しばらくあちこちと眺めていたが、私が寝たまま動かないので諦めて下りていった。その後はまた静かな波の音だけが聞こえて、じりじりと照りつける太陽が無情に肌を焼いていく。結局この日だけで真っ赤に日焼けした。初夏の季節外れの日焼けは後になるとペロペロ剥けて汚くなり、痛くて懲り懲りしたのでその後は焼いていない。
4、エロ本の自動販売機
127号は海岸に出るとしばらくトンネルが多くなってきて、海は背の高い雑草の崖のさらに下の方に隠れて見えなかった。最初のトンネルを過ぎてすぐ先程の海水浴場があるのだが、その入り口(といってただ駐車場があるだけだが)の側に夜煌々と明るくライトのついたエロ本の自動販売機が置いてあった。こんな所で売れるのかなと思い陳列棚を見ると、何やら刺激的な写真と文句が書いてある。時代はまだ昭和の終わり頃で、箸が転んでも妄想をたくましくする若さがあったのだ。旅の恥はかきすてと思ったかどうかしらないが、ついつい500円払って買ってしまった。中身は皆さんご想像の通り、しょーもないガセもんである。そんなことは買わなくても先にわかりそうなものだが、それを又買ってしまうのが男のサガである。答えが分かりきっていただけに何とも無性に自分の愚かさに腹が立ち、むやみと爆走して憂さ晴らしした。事故が起きなかっただけ目っけもんである。千葉の道路は真っ直ぐ伸び、海岸沿いの陽気な景色がくるくると目まぐるしく変化して、いつの間にかエロ本のことは忘れていた。後で家に帰ってから思ったことだが、こんな本買うんじゃなかった!、である。
4、金谷のフェリーと鋸山ロープウェイ
休日の昼過ぎ、燦々と照りつける太陽を浴びて内房なぎさラインを快走することしばし、久里浜・金谷間のフェリー乗り場の脇を通った。ここは滅多に出くわさない信号があるので記憶に残っているのだ。信号待ちをしていると都会ぐらしのせわしなさが蘇ってくる。信号が青になって我に返って又走り出すとすぐ、鋸南町の切り立った壁のような崖とロープウェイ駅の看板が目に入る。私は観光地には興味がないので勿論あっさり通り過ぎるが、それにしてもスペクタクルな景観である。普通の人は一度はロープウェイに乗り、山頂からの雄大な景色を見てみたいと思うのだろうが興味がないのだから仕方がない。その代りちょっと先の名鐘岬に、音楽と珈琲の店「岬」というのがあった。旅行で一番楽しいのが地元の人がこじんまりとやっている喫茶店に寄って、ボーッとコーヒーを飲むことである。お客は少ないほど良い。日がな一日何するともなくタバコを燻らしてコーヒーを飲み、店主がカップやグラスを洗っているのを見たり、大きな瀟洒な窓から海に出入りする釣り船や、あるいは山道のくねくねした合間から水田と遠い山並みに鳥が飛んでたりする景色をゆっくり眺めるのが、旅の醍醐味だと思っている。地元の人としゃべったりする交流は、あってもいいが無くても構わない。私は時の旅人、空に浮かぶ泡沫の雲である。そういえば、千葉房総は、どちらかと言えば人と出会うことが少ないように思う。そんな所が南国風の気候と相まって、房総半島の好感度を上げているのかも知れない。まあ人けがないのが魅力と言うんじゃ、地元の人にはしてみればお金にならないけど。
5、富津から内陸へ入る
ようやく険しい海岸沿いから長閑な田園風景の広がる内陸へとルート変更だ。といっても127号が曲がっていて、那古海岸をスルーして館山の方に行くのだが。この道沿いに曲がってすぐ「道の駅とみうら」がある。大きな建物で駐車場も広く客の入りも良いのだが、私は道の反対側にある小さな喫茶店のほうに車を停めた。庭の草木が茫々と茂っていていかにも偏屈な店主のやってうる店といった構えだが、中に入ればフランス仕込みのスイーツなぞ揃えていて、結構おしゃれな店である。が、私の好みではなかった。こんな富津くんだりに洒落た店を出すなんて似合わないぜ、と毒づいたが、会社の千葉在住のF君によると富津は意外とサーファーが集まっていて、流行に敏感な若者の町だそうである。中心は海の近くに友人たちと共同で一軒家を買い、夏の間サーフィン三昧をして面白おかしく暮らして、春秋冬は東京に戻ってしっかり働くという、案外健全な連中だそうだ。そういう季節感のある生活というのは素晴らしいな、なんて車を走らせながら思った。道路には背の高いヤシの並木が私の行く手を「いらっしゃい!」と祝福してくれている。そうだ、これからいよいよ房総のフラワーロードに入っていくのだ!。真夏の強烈な光の中に美しく咲き乱れているユリ・ニチニチソウ・ひまわり・千日紅・百日草・あじさい・ポーチュラカなど、道の両脇を彩り咲き誇る花々の甘い香りに包まれて生き返った気分になった。アクセルを踏み込むと、夏の海の館山北条海岸はもうすぐである。
1、出発
当時私は北千住の西側、隅田川の近くの「墨堤通り沿い」にあるマンションに住んでいた。6階のリビングの窓からは朝焼けの富士山の神々しい姿がはっきり見えて、さわやかな気分が味わえたものである。そこを朝早く夜明けと共に出発して、京成関屋駅の脇を通過。いまは何処をどう走ったか記憶が定かではないが、確か堀切橋から立石通りを通過、奥土橋を抜けてそれから国道14号をひたすら南下した、と思う。幕張を過ぎる頃にはようやく空も明るくなり始めて、新検見川を通り千葉の駅前の朝のラッシュを車のフロントガラス越しに横目に眺めながら、これから始まる休日ドライブの開放感を体いっぱいに感じていた。千葉を過ぎて357号から16号に入る少し前の道幅が広くなっているあたりで車を寄せ、手動で屋根を開けてオープンにするのがいつものやり方である。
2、千葉のファミリーレストラン
一度、真っ直ぐ南下せずに左折して千葉街道を51号線のほうに行ったことがあった。ちょっと走って直ぐの所にファミリーレストランがあり、朝早く出てきたのでコーヒーを飲みたくなり寄ってみた。店内はまずまずの混みようで、私はタバコを吸っていたのでカウンターを選んだ。早速コーヒーを頼んでタバコをくわえて火を付け、天井に登っていく煙を眺めながら「自由って楽しい!、の気分」を存分に味わっていたら、制服の前掛けをつけたアルバイトのウェイトレスがコーヒーを持ってきた。彼女の顔は覚えていないがとにかくミニスカートが可愛くて、前屈みになると肉感的な脚が危険な魅力を撒き散らしている。私はコーヒー一杯を飲む間ずっとチラチラ盗み見をしていたが、あの子は今どうしているだろうか。スカートは短けりゃいいと言うもんじゃないが、艶めかしい脚というのも確かに存在するのである。その日は佐倉・酒々井と過ぎて印西にある抜け道沿いのお気に入れの喫茶店に立ち寄り、又してもコーヒーを飲んで天王台あたりから6号線で帰った。その店はその後一回だけ寄ったが、ルートが16号を南下するにしたがい結局行かなくなってしまった。いくらミニスカートから見える脚が危険な魅力に満ち溢れているとしても、こんな遠距離で毎週入り浸るほど馬鹿じゃなかったのである。だがこれが自宅から15分の場所に在ったらどうかというと、それはまあ今回の旅と関係ないのでひとまず黙っておくことにして、後は皆さんのご想像にお任せしよう。
3、海水浴場のトイレの上で日光浴
16号から127号に入り、ひたすら南下すると上総湊を過ぎた辺りで海岸線に出る。この近辺に小さな海水浴場があって、春がまだ終わって直ぐの5月の連休などには、コンクリート造りの公衆トイレの屋根に展望台がついていて、そこに寝そべって何をするでもなく甲羅干しなぞをして半日を過ごしたりした。海は穏やかで人影もなく、遠い水平線に陽の光がキラキラ反射してやけに眩しかったのを覚えている。私がうたた寝をしていると若い男がやはり肌を焼こうというのか展望台に上がってきて、しばらくあちこちと眺めていたが、私が寝たまま動かないので諦めて下りていった。その後はまた静かな波の音だけが聞こえて、じりじりと照りつける太陽が無情に肌を焼いていく。結局この日だけで真っ赤に日焼けした。初夏の季節外れの日焼けは後になるとペロペロ剥けて汚くなり、痛くて懲り懲りしたのでその後は焼いていない。
4、エロ本の自動販売機
127号は海岸に出るとしばらくトンネルが多くなってきて、海は背の高い雑草の崖のさらに下の方に隠れて見えなかった。最初のトンネルを過ぎてすぐ先程の海水浴場があるのだが、その入り口(といってただ駐車場があるだけだが)の側に夜煌々と明るくライトのついたエロ本の自動販売機が置いてあった。こんな所で売れるのかなと思い陳列棚を見ると、何やら刺激的な写真と文句が書いてある。時代はまだ昭和の終わり頃で、箸が転んでも妄想をたくましくする若さがあったのだ。旅の恥はかきすてと思ったかどうかしらないが、ついつい500円払って買ってしまった。中身は皆さんご想像の通り、しょーもないガセもんである。そんなことは買わなくても先にわかりそうなものだが、それを又買ってしまうのが男のサガである。答えが分かりきっていただけに何とも無性に自分の愚かさに腹が立ち、むやみと爆走して憂さ晴らしした。事故が起きなかっただけ目っけもんである。千葉の道路は真っ直ぐ伸び、海岸沿いの陽気な景色がくるくると目まぐるしく変化して、いつの間にかエロ本のことは忘れていた。後で家に帰ってから思ったことだが、こんな本買うんじゃなかった!、である。
4、金谷のフェリーと鋸山ロープウェイ
休日の昼過ぎ、燦々と照りつける太陽を浴びて内房なぎさラインを快走することしばし、久里浜・金谷間のフェリー乗り場の脇を通った。ここは滅多に出くわさない信号があるので記憶に残っているのだ。信号待ちをしていると都会ぐらしのせわしなさが蘇ってくる。信号が青になって我に返って又走り出すとすぐ、鋸南町の切り立った壁のような崖とロープウェイ駅の看板が目に入る。私は観光地には興味がないので勿論あっさり通り過ぎるが、それにしてもスペクタクルな景観である。普通の人は一度はロープウェイに乗り、山頂からの雄大な景色を見てみたいと思うのだろうが興味がないのだから仕方がない。その代りちょっと先の名鐘岬に、音楽と珈琲の店「岬」というのがあった。旅行で一番楽しいのが地元の人がこじんまりとやっている喫茶店に寄って、ボーッとコーヒーを飲むことである。お客は少ないほど良い。日がな一日何するともなくタバコを燻らしてコーヒーを飲み、店主がカップやグラスを洗っているのを見たり、大きな瀟洒な窓から海に出入りする釣り船や、あるいは山道のくねくねした合間から水田と遠い山並みに鳥が飛んでたりする景色をゆっくり眺めるのが、旅の醍醐味だと思っている。地元の人としゃべったりする交流は、あってもいいが無くても構わない。私は時の旅人、空に浮かぶ泡沫の雲である。そういえば、千葉房総は、どちらかと言えば人と出会うことが少ないように思う。そんな所が南国風の気候と相まって、房総半島の好感度を上げているのかも知れない。まあ人けがないのが魅力と言うんじゃ、地元の人にはしてみればお金にならないけど。
5、富津から内陸へ入る
ようやく険しい海岸沿いから長閑な田園風景の広がる内陸へとルート変更だ。といっても127号が曲がっていて、那古海岸をスルーして館山の方に行くのだが。この道沿いに曲がってすぐ「道の駅とみうら」がある。大きな建物で駐車場も広く客の入りも良いのだが、私は道の反対側にある小さな喫茶店のほうに車を停めた。庭の草木が茫々と茂っていていかにも偏屈な店主のやってうる店といった構えだが、中に入ればフランス仕込みのスイーツなぞ揃えていて、結構おしゃれな店である。が、私の好みではなかった。こんな富津くんだりに洒落た店を出すなんて似合わないぜ、と毒づいたが、会社の千葉在住のF君によると富津は意外とサーファーが集まっていて、流行に敏感な若者の町だそうである。中心は海の近くに友人たちと共同で一軒家を買い、夏の間サーフィン三昧をして面白おかしく暮らして、春秋冬は東京に戻ってしっかり働くという、案外健全な連中だそうだ。そういう季節感のある生活というのは素晴らしいな、なんて車を走らせながら思った。道路には背の高いヤシの並木が私の行く手を「いらっしゃい!」と祝福してくれている。そうだ、これからいよいよ房総のフラワーロードに入っていくのだ!。真夏の強烈な光の中に美しく咲き乱れているユリ・ニチニチソウ・ひまわり・千日紅・百日草・あじさい・ポーチュラカなど、道の両脇を彩り咲き誇る花々の甘い香りに包まれて生き返った気分になった。アクセルを踏み込むと、夏の海の館山北条海岸はもうすぐである。
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