アルビン・トフラー研究会(勉強会)  

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アルビン・トフラー ハイジ・トフラー 共著 富の未来(下)010

2012年04月05日 23時09分06秒 | 富の未来(下)
第48章 アメリカの国内情勢を抜粋紹介します。

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2006.6.7 REVOLUTIONARY WEALTH 富の未来(下)
第10部 地殻変動 P.283~P.309

第48章 アメリカの国内情勢
 革命的な富に基づく新しい生活様式はまだ、アメリカで完成の途上にある。モジュールのように素早く着脱される職、ギラギラで派手派手、そしてスピード。
 商業主義、1日24時間週7日の娯楽、そしてスピード。
 大気の浄化、テレビの醜悪化、学校の腐敗、そしてスピード。
 医療制度の破綻、平均寿命の伸び、そしてスピード。
 完璧な火星着陸、情報過多、複雑化、人種差別軽減、超高機能食品、天才少年少女、そしてもちろんスピード。
 この複雑さに、アメリカ社会の数々の矛盾がくわわる。バイアグラのCMと中絶反対のデモ。自由市場とアメリカ企業に有利な関税や補助金。外国語が下手で、他国文化に無関心なアメリカ人の偏狭さとグローバル化の大合唱。
 この騒々しい混乱ぶりをどう理解すべきか、外国人には分からない。(中略)
 アメリカについては、世界でもっとも強力な国だというだけでなく、社会と経済に関する世界最大の実験場でもあるという観点から眺めてゆくと理解しやすくなるかもしれない。~同時にアメリカは富の基礎的条件の深部にある3つの要因のすべてでも、実験を行っている。スピード、スピードというのはそのためだ。
 目の回る忙しさから逃れたいという人がこれほど多いのはそのためだ。
 機械がもっと速く、人はもっとゆっくりと動く必要があるのはそのためだ。
 アメリカは空間についても実験を進めており、空間をどう区切るべきかを実験している。経済的な境界の壁が低くなっている点をみればいい。そしてもちろん、何よりもでーた、情報、知識から富を生み出す無数の方法を実験している。
 アメリカは失敗が許される国であり、失敗からときに、経済的、社会的に価値の高い突破口が開かれる国である。~大実験場ではいくらでも失敗できる。失敗するリスクを恐れていては、未来を追及することができない。そしてアメリカは未来を追及しているのだ。(以下略)

波の戦争
 アメリカをはじめとする豊かな民主主義国では、波の衝突は通常、貧しい国での衝突のように激しくはならない。それでも衝突があるのは確かだ。エネルギー政策、輸送、企業の規制、そして何よりも教育など、さまざまなレベルにあらわれる。(中略)
 アメリカは先進的な知識経済を築くために急速に動いている。だが、工業時代に作られたエネルギー・システムの重荷を負わされている。世界有数の規模と政治力をもつ企業がこのシステムを守っており、基本的な変化を求める国民の不満の高まりを押さえつけている。この戦いは通常、そうは呼ばれていないが、実際には第二の波と第三の波の戦争の一例なのだ。

240億時間
 同時に、これと関連する衝突がアメリカの輸送システムをめぐって起こっている。(中略)この巨大なインフラは大衆社会に対応して作られたものである。つまり、大量生産、都市化、そして大量の労働者が同じ時間に同じコースを行き来する必要をもたらす仕事のパターンを背景としている。2000年には、1億1900万人のアメリカ人が通勤のために年間240億時間を浪費したと推定される。(中略)アメリカのインフラの主要な要素、そしてそのサブ・システムは同期がずれており、工業時代の既得権益集団と革命的な富の体制を発展させる画期的なイノベーションを起こそうとする集団の間で主導権争いが続いている。ここにも波の衝突がある。
 同様の衝突が経営慣行をめぐるさまざまな戦いにもあらわれている。~以上にあげたのはごく一部にすぎず、アメリカのほぼすべての制度で現在、技術と社会の高速の変化に対応する試みをめぐって、静かな波の戦争が起こっている。そのなかでアメリカの教育制度をめぐる戦いほど、重要な意味をもつものはない。

将来を盗む
 アメリカが世界の富の革命で最先端の地位を維持するためにも、
世界大国の地位を維持するためにも、 
貧困を減らすためにも、
工場型の教育制度を新たな制度に置き換える必要がある。改革では不十分なのだ。 
(中略)
 おそらく、アメリカの波の衝突でもっとも大きなコストを負担するのは、5千万人に近い子供たちであろう。子供が強制的に通わされている学校では、いまや存在しなくなった職につくための教育が行われており、その点ですらあまり成功していない。子供の「将来を盗む」ような教育が行われているのだ。(以下略)

名前のない連合
 いまでは大衆教育制度は評判が地に落ちているが、それが作られた時点には、工業が発達する前の時代の現実から前進したものであった。当時、学校に通うのは子供のうちごく一部にすぎず、貧乏人の間では読み書き計算できる人がほとんどいなかった。工業時代に入ってからも、子供をできるかぎり早く低賃金の工場で働かせるのではなく、学校に通わせるまでに、何世代もの時間がかかっている。
 いまでも何千万人もの子供が工場型の学校に通っているのは、少々考えにくい組み合わせの努力が作った連合、名前のない連合が、それを望んできたからだ。(中略)要するに企業にとって、工業時代の大量生産経済を築くために、画一的な教育で若い世代をマス化することが決定的な意味をもつようになったのである。
 20世紀に入って工業経済がさらに発展すると、大規模な労働組合が結成されて労働者の利益を守るようになった。労働組合は通常、公教育を強く支持した。子供たちがしっかりした教育を受けて良い生活を送られるようになることを組合員が望んだからでもあるが、それ以上に公教育を支持する裏の理由、おそらくそうとは意識していない理由があった。労働力人口が少ないほど、職をめぐる競争は緩くなり、賃金は高くなる。労働組合は児童労働の禁止を求めて戦い抜いただけでなく、義務教育期間の延長を求める運動を展開し、何百万人、何千万人もの若者を長期にわたって労働市場から排除することに成功してきた。その後に教員の大規模な労働組合が生まれ、工業時代向けに設計された公教育制度を自己利益のために強く支持するようになった。
(中略)
 サー・ケン・ロビンソンはこう語る。「公教育の仕組みはほぼすべて、工業主義の必要とイデオロギーによって作られており、労働力の需要と供給に関する古い想定に基づいている。この制度の特徴は段階性、体制順応、標準化・・・・である」

変化を求める力
 いま、新しい波の衝突が起ころうとしている。これはアメリカだけの現象ではない。今後の衝突では、既存の工場型教育機関を守ろうとする勢力と、これに代わる新しい教育制度を築こうとする運動がぶつかることになる。教育の一新を求める運動は力をつけてきており、4つの主要な勢力で構成されている。
 第一が教師である。既存の教育制度では通常、教育は機械的で、教科書と標準的な試験にしばられていて、教師と生徒の創造性をすべて奪い去ってしまう。いまの学校には燃え尽きた教師が何百万人もおり、現状に甘んじながら引退できる日を待っている。(以下略)
 第二が両親である。両親にも、古い連合から離反する動きが明らかにあらわれている。(中略)工業時代の学校制度が荒廃して、知識経済の必要に対応できなくなると共に、親の抵抗が強まっていくだろう。(以下略)
 第三が生徒である。何世紀か前の大衆教育を求める運動では、子供たちはたいした力になっていない。だが、いまの子供は工業時代の教育制度を崩壊させる動きに参加できる。すでに、教育制度に対して反乱を起こしている。反乱は二つの形をとっている。ひとつは教室外の反乱、もうひとつは教室内の反乱である。~ほとんどではなくてもかなりの生徒は、いまの学校がこれからの社会ではなく、これまでの社会に役立つ教育しかしていないことを直観的に理解している。
 まず目につく反乱は中退である。生徒は学業を放棄し、それまでにかかった経費を納税者に押し付ける。(中略)もうひとつの反乱は教室内でのものだ。(以下略)
 第四の勢力は企業だ。学校が企業に、工場での仕事のために訓練された労働力を年々送り出していた間、工業時代の学校を支持する連合は磐石だった。だが、20世紀半ば以降、新しい富の体制が普及するとともに、これまでとは違ったスキルが必要になった。既存の学校の大部分では教えられないスキルが求められるようになったのである。(
中略)
 第二の波の企業と第三の波の企業の間で、利害が大きく食い違うようになった。このため、1世紀以上にわたって不可能だったことがいま、可能になったとも思える。怒れる親、不満をかかえる教師、適切なスキルを持つ人材を求める企業、教室でイノベーションに取り組む教師、インターネット教育者、ゲーム開発者、子供が新しい連合を形成し、組み立てライン型の教育を改革するのではなく、一新する力をもつ可能性がでてきたのである。

つぎの段階
 エネルギー・システム、輸送インフラ、学校の例を取り上げてきたが、工業時代の圧力団体によって前進を阻まれている制度はこれだけではない。(中略)制度の変化がこれに歩調をあわせていかないかぎり、同時性が破壊され、アメリカが実験場の役割を果たせなくなり、今後、実験場が国外に移ることになるだろう。中国に移るのだろうか。ヨーロッパに移るのだろうか、イスラム圏に移るのだろうか。そこで、アメリカ国外の情勢をみていくことにしよう。