遺言書に不動産の表示を記載する際には、登記簿のとおり記載しないと登記手続きが出来ないおそれがあります。
ではその記載された土地につき、登記簿の地番ではなく住所で記載されていた場合、登記手続きは出来ないのでしょうか。
今回依頼いただいた自筆証書遺言には「土地 ○○市○○一丁目○○番○○号 地目宅地 ○○㎡」と書かれており、建物は登記簿の記載通り書かれていました。おそらく登記簿を見ながら記載されたと思われるのですが、何故か土地の所在は地番ではなく住所で特定されていました(地目、地積は登記簿と一致)。
自筆証書遺言で土地を地番ではなく住所で特定してしまうのは、よくあるケースのようです。一般の方には、地番と住居表示の違いはわかりにくいことかもしれません。
今回は名寄帳の写しを補足資料として添付しただけで登記手続きは出来ました。住居表示実施の証明書もあれば添付してほしいとのことでしたが、遺言者は住居表示実施後に居住したので、結果的にこれはなしで済みました。今回は1筆だけだったので特に問題なかったと思いますが、複数筆にまたがる底地のケースもありますからその場合はまた結論が違っていた可能性もあります。
「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合そのうちの特定の条項を解釈するにあったっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきである」(最高裁昭和58年3月18日(判例タイムス496号80頁))
「遺言書に単に「不動産」と記載されているだけであっても、遺言者が長年居住していた自宅の住所であって、土地建物双方の共有持分を有していたことなどの事実関係の下においては、本件遺言書の記載は、遺言者の住所にある本件土地建物を一体として、その各共有持分を遺贈する旨の意思を表示したものと解するのが相当である」(最高裁平成13年3月13日判決(判例時報1745号88頁))
上記2つの判例がとても役立つと思います。
以前から遺言書を作成したい方には公正証書遺言の作成を勧めていましたが、今回のことがあってその思いはさらに強くなりました。