のり巻き のりのり

飾り巻き寿司や料理、己書、読書など日々のあれこれを書いています



小悪魔

2016年10月26日 | 随想
「こらっ、ひろき!!」
毎日、こう叫んでいる私は、小学校1年生を受け持つ教師である。

そして、4月以来このひろき君にはふり回され通しなのだ。

授業中は机の上に座り込み、ノートに落書きばかりしているし、私が背を向けて板書していると、さっとスカートの下にもぐり込んできたり、背中をくすぐったりする。
友だちにもすぐに手を出すので、30分に1回はけんかが起こる。

掃除の時間になると学校中を走り回り、いくつバケツを倒したか嬉々として報告してくれる。
その疾風駆け抜ける様は、他の子どもたちも先生たちもあっけにとられるばかりだ。

決して能力は低くない彼がこんな行動を取る子どもになったのは、生育歴に大きく影響していると思う。
両親の離婚、独りぼっちでの留守番、新しい父母との生活など、彼は一人で荒波の中を泳いできたのだ。

「そんなひろき、きらいだよ。」
小さな手首を握りしめ、ぐっと力を入れる。

上目づかいの瞳をみつめるとかすかにうるんでいる。
逃げられないように抱きかかえて膝に乗せた。

すると、素直に体をあずけてくる。
小さくてやわらかいかたまりが心地よい。

「ほんとはね、ひろき君大好きなんだよ。」
思わず口に出た言葉である。

この小悪魔は、適度な疲労と快い睡眠を与えてくれる良薬かもしれない。
そう思いながら頭をなででやった。



30年ほど前の私です。ひろき君、どんな大人になっているんだろう。