皆様、こんにちは。総合診療医からの健康アドバイスの時間です。
今日の沖縄は晴れ時々曇り。予想最高気温は29度です。今回がラジオの中身、最後です。日本のワクチン問題です。では、どうぞ。
アーサー 今お話出ましたワクチンの接種というのも大きな課題ではあると思うんですが、なかなか接種のスピードが上がってこないという。
現在の感染状況と今後の見通しを踏まえたうえで、ワクチンの接種のスピード、見通しについてお話いただきたいと思うんですが。
徳田 いやこれは、世界中でワクチンナショナリズムと呼ばれているんです。
先進国が多くのワクチンを独占してしまったと。
WHOなどががんばって、COVAX(コバックス)という仕組みを作ったんです。
途上国、つまり低所得の国にも無償でワクチンを提供しましょうということで。
ところがコバックスというワクチンプログラムの最大の工場がインドにあって、今インドが世界一の感染爆発となっているということで、インドの工場で作ったワクチンはインドの国内向けに使われることに今、なってしまった。
そこでコバックスも遅いペースになってしまった。
ということで、これ、南北格差ですね。
もともと先進国がいろいろな格差を作ってきたんですが、ワクチンでも格差ができてしまった。
今、ワクチン接種のスピードがいちばん早いのがイスラエルなんですけれど。
イスラエル、イギリス、アメリカは早いです。
ヨーロッパは遅れている。
ですけれども、途上国よりは早い。
日本の場合はヨーロッパより遅い。
しかも開発が、今までワクチンの開発を得意としてきた日本が、今回、ワクチン開発がまったくできていない。
中国でさえ、もういま12種類くらい開発しているんです。
実は世界中のワクチン製造量の最大の供給量をもつのは中国なんです。
中国製がいちばん多いんです。
中国製の半分は輸出している。
ワクチン外交に使っている、南米とか。
アーサー アフリカ諸国とか。
徳田 アフリカもそうです。中東、東ヨーロッパ、中米、南米。そういうところにどんどん出している。
ワクチンに関しては、技術力はアメリカとヨーロッパが上でした。
特にアメリカのファイザーとモデルナがつくったのはmRNAワクチンで、これは非常にいいということで、世界一と。
この作り方をまたすぐに、中国は学習して、今、mRNAワクチンも開発して臨床試験に入ったといってます。
多分数カ月以内に、中国はmRNAワクチンも作り始めるだろうと言われています。
一度つくったらものすごい勢いで作ります。
アーサー しかし日本では国内産のワクチンの開発が思ったほど進まない。
その背景というのは?
徳田 背景は、製薬会社が弱い。
まずこれが挙げられます。
ファイザーみたいな「メガファーマ」がない。
一番大きい武田も、世界でみれば小さい。
ファイザーとかは年間売り上げ5兆円なんです。
自動車会社どころではないですね(笑)。
すごい巨大企業です。
プラス、今回は新しい技術が導入されています。
mRNAワクチンとかウイルスベクターワクチンとか。
こういったものはバイオベンチャーが開発しているんです。
ビックファーマだけでなくバイオベンチャーですね。
バイオベンチャーは大体大学と一緒にやっているんです。
そのバイオベンチャーで一番有名なのがアメリカのモデルナです。
ファイザーはドイツのバイオベンチャー、ビオンテック(BioNTech)と一緒にやっているんです。
アストラゼネカは、オックスフォード大学と一緒にやっている。
ということで産学共同研究、共同開発なんですね。
これが日本は弱い。
バイオベンチャーもない。
ま、大阪大学と製薬企業が一緒にやっているというのがちょっと期待できるかもしれませんが。
今までのワクチン開発の長い歴史から見ますと、日本は北里柴三郎という人が伝染病研究所を立ち上げた。
今の国立感染症研究所の最初の母体です。
実はあれは個人で作っているんです。
国ではない。
アーサー うーん。
徳田 というのは北里柴三郎はドイツ留学から帰ってきたときに誰も相手にしなかった。
東大も迎え入れなかった。
そこで、北里柴三郎は福沢諭吉からお金を借りて、伝染病研究所を作ったんです。
そして、数々の開発研究をして、ワクチンの開発もして、世界三大研究所のひとつと呼ばれるまでになった。
ドイツのコッホ研究所、フランスのパスツール、日本の北里・伝染病研究所と。
ところが成果が出るとみんなが、国も、大学も、そこを吸収しようとして、結局その後、当時の厚生省、陸軍、戦争中でしたから陸軍も入ってきて、そして当時の文部省ですね。
いろいろ入って、要するに国や軍部に手を突っ込まれて、北里柴三郎は自分から辞めていったんです。
北里なきあと、弟子たちはすごく優秀でした。
野口英世もそうですが、みな有名です。
みんな留学させて、野口はアメリカに行き、アフリカにいった。
志賀潔もいます。
志賀も非常に活躍した。
そういう人たちがたくさん出ました。
ところが、いわゆる北里柴三郎のファミリーはお弟子もみんな出て行って、結局陸軍に軍医として参加していた人たちが主に中国から帰ってきて、国立感染症研究所に帰ってきて、特に、中国でやったことも罪として罰せられずに、そのまま無罪放免と。
GHQとの取引で。
アーサー なるほど。
徳田 国立感染症研究所の歴代の所長何人かは731部隊の元隊員なんですね。
そういう流れがあります。
今ワクチン開発で、その国立感染症研究所も弱い、バイオベンチャーも弱い。
そしてビッグファーマもない。
ビッグファーマに対する投資も日本の政府はしなかった。
それがワクチンが開発できない最大の理由。
中国はもう12種類もワクチンを作って、ロシアも「スプートニクV」を作って、アメリカとイギリスも作っている中で、日本は作っていない。
キューバでさえ、今作っているんですよ。
アーサー ほー。
徳田 ええ。
ほんとうにこれで日本は科学技術立国なのかと。
アーサー ある種、国としての舵取り、危機管理能力の問題ですね。
徳田 あと、日本では利権がある。
感染症利権というのがあって、ウイルスとかワクチンとかいうところに簡単に手が出せない。
大学が手が出せない。
大学は基本的に文科省です。
国立感染症研究所は厚労省です。
厚労省のマター。
アーサー なるほど。
徳田 厚労省マターに手を出すなという暗黙の了解があるんです。
アーサー ここで行政の縦割りが出てくるということですか。
徳田 はい。
東大の先端科学技術研究センターの児玉龍彦先生は独自に、単独で動いて、ゲノム検査とかもしていますけれども。
あとは東大の医科学研究所。
医科研も実は北里柴三郎が作った伝染病研究所の由来なんです。
伝染病研究所はふたつに分かれて、ひとつは東大の医科研になり、ひとつは国立感染症研究所になった。
だから東大の医科研ももともとは北里柴三郎がつくった伝染病研究所から出発している。
北里も、その弟子たちも素晴らしかった。
ところが、それを引き継いだ人たちは利権争いをしてしまって、「感染症には手を出すな」みたいなことになってしまった。
PCR検査も、大学ではなかなかやらない。
沖縄の場合は、私はすぐに沖縄科学技術大学院大学、オイスト(OIST)を使ってくださいと申し上げ、オイストの学長も自分たちのできることは協力しますと新聞で言ってくれたんだけれど、結局はあまり依頼しなかった。
オイストは1日何千というPCR検査ができるのに、結局数百くらいしか頼んでないし、全ゲノムシークエンスも頼んでいない。
昨年7月、米軍と東京都、どちら由来のウイルスがメインなのか問題になったんですよ。
第2波のときですね。
北谷で、ビーチパーティで盛り上がる米兵と観光客という写真が、衝撃的な写真が出ましたが、その後、多くの感染者が出たわけですけれど、どのウイルスがメインなのか問題になった。
新聞などの県の発表によると、「あれは東京由来のウイルスがほとんどでした、米軍からは広がっていません」といってますけど、そのデータがないんです。
それはどこで調べたか。
「国立感染症研究所の調査によると」と言っているわけですが、どのくらい調べたのか。
あのころ、1日に100人以上感染者がでていましたが、その中で10人くらいしか調べていないとしたら、それで米軍由来のウイルスは入っていないと言ったとしたら、不十分な検査としか言いようがありません。
全部調べないといけないと誰も指摘しなかった。
私は指摘しましたが。
未だにそのデータは国立感染症研究所のホームページにも出てこない。
こういう問題があるんです。
だから簡単に結論付けてはいけない。
ほんとうに東京由来のウイルスだけだったのか。
夜の街が問題だと言ってますけど、ほんとうに夜の街だけなのか。
米軍から入ってきてはいないのか。
観光業はどうか。
こういう話です。
アーサー ほんとうに様々なものが重なっているわけですが、そうなってくると、今後の見通しというのもかなり厳しい状況が続くと。
徳田 ええ、厳しいですよ。
ワクチンが開発できなくても、効果があって副作用のリスクが少ないワクチン、今はファイザーのものをメインに購入していますが、それ以外、モデルナもありますし。
今ちょっと問題なのはアストラゼネカのものが血栓症ができる、ジョンソン&ジョンソンのものもできるというリスクが見つかっています。
同じようなワクチンがスプートニクVなんですよ。
この3つは同じようなウイルスベクターワクチンなんです。
だからファイザーとモデルナをメインにするんだったら、そのワクチンを手に入れる努力を一生懸命しながら、このmRNAワクチンを日本でも製造できるように、ファイザーとモデルナに頼んで、技術者を日本から送り込んで、学ばせて、日本に技術を持って帰って日本で作ればいいんです。
それができる技術力は、日本にはあるんです。
なぜそれをやっていないのかという話です。
アーサー いやー、きょうもうかがえばうかがうほど、難しい状況が続くなと思わされる話でした。
また当番組では来月も、ゴールデンウイーク明けのまん延防止等重点措置の結果などを踏まえつつ、特集を継続で行わせていただきたいと思います。
徳田さん、ありがとうございました。
徳田 ありがとうございました。
どうやら沖縄に来る観光客が減ってきているようです。でもマスクをします。
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