ちょっとおもしろかった記事なので転載。
抑えるところは抑えますが、経済を停滞させてはいけないしね。普通に、日常を崩さないことが大切と思います。
日本の花見戦争にみる節約の教え(フィナンシャル・タイムズ) - goo ニュース2011年4月29日(金)16:15
(フィナンシャル・タイムズ 2011年4月20日初出 gooニュース) デビッド・ピリング
日本の桜の花をめぐる戦いは終わった。けれども、日本の長期的な復興という大きな目的の実現には、金を使った方がいいのか貯蓄した方がいいのか。この議論は、そよぐ風に散ってしまった桜の花びらのはかなさと比べると、かなりしぶとい問題だ。
桜の花見問題にまつわる思想対立が何だったのかご存じない方々にご説明しよう。最初の一撃を放ったのは、何かと騒がしい78歳、世界最大の首都の知事として4回目の当選を果たした石原慎太郎氏だ。小さな花びらが開く時、それは普段ならにぎやかな酒宴の始まりを意味する。首都のあちこちの桜の木の下でパーティーが開かれるのだ。しかし石原氏は東京都民に、大震災の直後に楽しい思いをするのは間違っていると告げた。震災は日本人の我欲に対する天罰だと発言したこの人は、「桜が咲いたからと言って一杯飲んで歓談するような状況じゃない」と言ったのだ。
菅直人首相はただちにこの都知事発言に反論し、日本人は経済活性化のために金を使い始めるべきだと主張。与謝野馨・経済財政担当相も、震災を受けて日本人が始めた節約や自制を意味する「自粛」について、「みんなが不景気運動をしているみたいなもの」と述べた。
津波被害に遭った岩手県で日本酒を造る5代目蔵元の久慈浩介氏は、自粛のせいで会社がダメになってしまうと発言。日本のためにも桜の下で酒を飲んでほしいと訴えた久慈氏のYouTube動画は、50万人近くの人が観ることとなった。
結局のところ、いつもに比べれば小規模だったが、花見の宴会はあちこちで開かれた。しかし「自粛しようvs普段通りに金を使おう」の議論は、しっかり続いているのだ。議論には二つの側面がある。純粋な経済の側面と、ほとんど哲学的ともいえる側面と。
後者の側面から先に考えてみる。すべてが過剰で食べ物に金箔をふりかける人がいた、あの1980年代のバブル期でさえ、日本社会は相当に冷静だった。魚の骨をおやつにして、自宅にセントラルヒーティングを入れたりせず、倹しく狭いマンションで邪魔にならないよう、脚のない、お皿のようなアイロン台を使っていた。
「僕たちは子供の頃から、お米の一粒一粒をお百姓さんに感謝しなさいと教えられる。何かをムダにするのは、妙な感じがする」 公務員のチバ・アキラ氏はこう言う。無駄遣いをしなければ何かが足らなくなることもない、無駄遣いをしないよう注意しましょうという衝動は、地震が起きてからというもの、勢いを取り戻している。節電のために駅のエスカレーターは動かないので、乗客は重い荷物を担いで上がる。自宅では節電のため、冷蔵庫をあまり開けないようにしている。豪華なレストランを避ける人も多い。避難所で辛い思いをしている人たちがいるのにそんな贅沢をするのは不謹慎と思えるからだ。
日本が回復していっても、前のような贅沢な暮らしはやめようという衝動がすっかり消えてしまうことはなさそうだ。すでに盛んになっている「スローライフ」運動は、より倹しいライフスタイルを垣間見た震災後の経験によって、さらに勢いづくだろう。日本政府も、国の生産高を測る新しい指標を模索するかもしれない。照明を煌々とつけた球場で行うナイターの試合と、デイゲームを比べた時、国内総生産(GDP)への貢献は昼間の試合の方が少ないと、本当に言えるのだろうか?
しかし「自粛vs消費」の議論には、もっと差し迫った、ダイレクトに経済的な側面もある。JPモルガン証券のチーフエコノミスト、菅野雅明氏は、既に予算計上された92兆円の歳出に加えて、政府は年内に緊急補正予算として14兆円の支出を認めるだろうと試算している。
壊滅的被害を受けた東北地方のインフラ再建に巨額の追加資金が必要になることは、誰も疑っていない。問題は、どうやって費用を払うかだ。禁欲的な自粛支持者も多い日本の財務官僚たちは、他分野で支出を減らしたり復興特別税を導入したりして、財源の一部にしたいと考えている。
それに対して野村グループのチーフエコノミスト、ポール・シェアード氏は、それは馬鹿げていると批判する。すでに相当額の国債を保有する日銀が、さらに流通市場での買い入れ額を増やせば、日本のデフレ脱却と経済再浮揚という「黄金のチャンス」を手に入れるとシェアード氏は主張する。
一般に思われているのと異なり、日本は実は債務超過に陥っていないとシェアード氏は言う。むしろその逆で、日本は世界第2位の債権国なのだと。日本は毎年GDP比3%前後の経常黒字を出して、外国資産の保有高を増やしている。GDPの200%に迫ると有名な日本の債務総額は、日本政府が日本の民間部門に借りているものだ。ギリシャやアメリカと異なり、日本の債務問題は「身内の問題」だとシェアード氏は言う。
日本経済には手助けがあった方がいい。4月のロイター短観(トムソン・ロイターが毎月集計する調査で、日銀短観を模したもの)は過去最大の落ち込みを記録、28ポイント低下いマイナス13となった。4月後半の統計からは、消費者心理の落ち込み見て取れる。2011年度の経済成長についてのコンセンサス予想は、震災前の1.6%から0.4%へ悪化した。
HSBCのシニアエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏は、人々の心理状態が決め手になると話す。「震災による実際のインフラ破壊よりも、震災による国民心理の傷の方が、影響は大きい」。人々が自粛するのは、こうした心の傷のせいでもあるし、理想的な行動をしたいという思いのせいでもある。自制的な行動の動機となっている思いは褒められるべきもので、それに異論を唱える人はあまりいないはずだ。つまり今は「神よ、私を高潔な人間にしてください。でも今はまだダメです」という聖アウグスティヌスの願いと同じ状況なのだ。
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(翻訳・加藤祐子)
抑えるところは抑えますが、経済を停滞させてはいけないしね。普通に、日常を崩さないことが大切と思います。
日本の花見戦争にみる節約の教え(フィナンシャル・タイムズ) - goo ニュース2011年4月29日(金)16:15
(フィナンシャル・タイムズ 2011年4月20日初出 gooニュース) デビッド・ピリング
日本の桜の花をめぐる戦いは終わった。けれども、日本の長期的な復興という大きな目的の実現には、金を使った方がいいのか貯蓄した方がいいのか。この議論は、そよぐ風に散ってしまった桜の花びらのはかなさと比べると、かなりしぶとい問題だ。
桜の花見問題にまつわる思想対立が何だったのかご存じない方々にご説明しよう。最初の一撃を放ったのは、何かと騒がしい78歳、世界最大の首都の知事として4回目の当選を果たした石原慎太郎氏だ。小さな花びらが開く時、それは普段ならにぎやかな酒宴の始まりを意味する。首都のあちこちの桜の木の下でパーティーが開かれるのだ。しかし石原氏は東京都民に、大震災の直後に楽しい思いをするのは間違っていると告げた。震災は日本人の我欲に対する天罰だと発言したこの人は、「桜が咲いたからと言って一杯飲んで歓談するような状況じゃない」と言ったのだ。
菅直人首相はただちにこの都知事発言に反論し、日本人は経済活性化のために金を使い始めるべきだと主張。与謝野馨・経済財政担当相も、震災を受けて日本人が始めた節約や自制を意味する「自粛」について、「みんなが不景気運動をしているみたいなもの」と述べた。
津波被害に遭った岩手県で日本酒を造る5代目蔵元の久慈浩介氏は、自粛のせいで会社がダメになってしまうと発言。日本のためにも桜の下で酒を飲んでほしいと訴えた久慈氏のYouTube動画は、50万人近くの人が観ることとなった。
結局のところ、いつもに比べれば小規模だったが、花見の宴会はあちこちで開かれた。しかし「自粛しようvs普段通りに金を使おう」の議論は、しっかり続いているのだ。議論には二つの側面がある。純粋な経済の側面と、ほとんど哲学的ともいえる側面と。
後者の側面から先に考えてみる。すべてが過剰で食べ物に金箔をふりかける人がいた、あの1980年代のバブル期でさえ、日本社会は相当に冷静だった。魚の骨をおやつにして、自宅にセントラルヒーティングを入れたりせず、倹しく狭いマンションで邪魔にならないよう、脚のない、お皿のようなアイロン台を使っていた。
「僕たちは子供の頃から、お米の一粒一粒をお百姓さんに感謝しなさいと教えられる。何かをムダにするのは、妙な感じがする」 公務員のチバ・アキラ氏はこう言う。無駄遣いをしなければ何かが足らなくなることもない、無駄遣いをしないよう注意しましょうという衝動は、地震が起きてからというもの、勢いを取り戻している。節電のために駅のエスカレーターは動かないので、乗客は重い荷物を担いで上がる。自宅では節電のため、冷蔵庫をあまり開けないようにしている。豪華なレストランを避ける人も多い。避難所で辛い思いをしている人たちがいるのにそんな贅沢をするのは不謹慎と思えるからだ。
日本が回復していっても、前のような贅沢な暮らしはやめようという衝動がすっかり消えてしまうことはなさそうだ。すでに盛んになっている「スローライフ」運動は、より倹しいライフスタイルを垣間見た震災後の経験によって、さらに勢いづくだろう。日本政府も、国の生産高を測る新しい指標を模索するかもしれない。照明を煌々とつけた球場で行うナイターの試合と、デイゲームを比べた時、国内総生産(GDP)への貢献は昼間の試合の方が少ないと、本当に言えるのだろうか?
しかし「自粛vs消費」の議論には、もっと差し迫った、ダイレクトに経済的な側面もある。JPモルガン証券のチーフエコノミスト、菅野雅明氏は、既に予算計上された92兆円の歳出に加えて、政府は年内に緊急補正予算として14兆円の支出を認めるだろうと試算している。
壊滅的被害を受けた東北地方のインフラ再建に巨額の追加資金が必要になることは、誰も疑っていない。問題は、どうやって費用を払うかだ。禁欲的な自粛支持者も多い日本の財務官僚たちは、他分野で支出を減らしたり復興特別税を導入したりして、財源の一部にしたいと考えている。
それに対して野村グループのチーフエコノミスト、ポール・シェアード氏は、それは馬鹿げていると批判する。すでに相当額の国債を保有する日銀が、さらに流通市場での買い入れ額を増やせば、日本のデフレ脱却と経済再浮揚という「黄金のチャンス」を手に入れるとシェアード氏は主張する。
一般に思われているのと異なり、日本は実は債務超過に陥っていないとシェアード氏は言う。むしろその逆で、日本は世界第2位の債権国なのだと。日本は毎年GDP比3%前後の経常黒字を出して、外国資産の保有高を増やしている。GDPの200%に迫ると有名な日本の債務総額は、日本政府が日本の民間部門に借りているものだ。ギリシャやアメリカと異なり、日本の債務問題は「身内の問題」だとシェアード氏は言う。
日本経済には手助けがあった方がいい。4月のロイター短観(トムソン・ロイターが毎月集計する調査で、日銀短観を模したもの)は過去最大の落ち込みを記録、28ポイント低下いマイナス13となった。4月後半の統計からは、消費者心理の落ち込み見て取れる。2011年度の経済成長についてのコンセンサス予想は、震災前の1.6%から0.4%へ悪化した。
HSBCのシニアエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏は、人々の心理状態が決め手になると話す。「震災による実際のインフラ破壊よりも、震災による国民心理の傷の方が、影響は大きい」。人々が自粛するのは、こうした心の傷のせいでもあるし、理想的な行動をしたいという思いのせいでもある。自制的な行動の動機となっている思いは褒められるべきもので、それに異論を唱える人はあまりいないはずだ。つまり今は「神よ、私を高潔な人間にしてください。でも今はまだダメです」という聖アウグスティヌスの願いと同じ状況なのだ。
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(翻訳・加藤祐子)