上村悦子の暮らしのつづり

日々の生活のあれやこれやを思いつくままに。

10月 仰天(2)

2019-10-20 17:25:29 | エッセイ
        
思いもかけず、ひったくりに遭って、頭の中は大混乱。
やっとの思いで、自宅マンションの管理人室にたどり着き、電話を借りた。

「もしもし、派出所ですか。今、ひったくりに遭いまして……」
「とにかく落ち着いて。まず、名前と住所からどうぞ」
いくらひったくり数が、大阪が日本一とはいえ、警察の反応はあまりににぶい。
住所、年齢、職業など個人データを聞かれた後、
「これから担当者が伺いますから、分かりやすい場所に出ておいてください」との悠長なお返事。
すでに日が暮れ、冷たい風が吹き始めたというのに私は手ぶらのまま行き場所もなく、
道端で警察官を待つことになってしまった。

こういう現状に陥って初めて知ったのは、
警察官はひったくりに遭って途方に暮れる市民をいち早く家に帰すことを目的にしているのではなく、
犯人はまず捕まらないだろうとの前提のもとで、現場検証をすることなのだ。

警察官と一緒に現場まで行くと、
どんな服装の男が、どういう状況でカバンをひったくったかをしつこいくらい質問された。
「上着とズボンの色は?」
「ええ、顔を隠すような毛糸の帽子に、黒いジャンパー風、下も黒っぽいズボンでした」

 それをトランシーバーで本部に逐一知らせるのだ。
「はい、了解。黒っぽいジャンパーに白いズボン」
「いいえ、ズボンも黒っぽかったんです」
「はい、白っぽい上着に、黒っぽいズボンですね」
『ちゃんと聞かんかい。上も下も黒っぽいって言うてるやろ』

細かく説明する気力も失せた私は、説明もそこそこにわが家に帰らせてもらったのだが、
鍵を持つ娘の帰りをマンションの玄関で待つこと30~40分。
わが家に入れた時は、心底疲れ切っていた。
「ああ、狭きながらも、天国のようなわが家」と思うのもつかの間。
警察の検証はさらに進んだ。
本来なら本局まで出向いて被害届けを出すそうだが、夜も遅いことからか、
ひったくり専門の刑事さんが家まで来てくれることになった。

警察官を我が家のリビングに招き入れると、
犯人の人相やら被害額、持ち物などを、それはコト細かく聴取された。
銀行やカード会社、携帯電話会社への盗難届けはそれから。
もう、身も心もくたくただった。

驚いたことに、盗難の場合、銀行の通帳やカードの再発行は有料というのだから、心はさらにヨレヨレ。
もうほとんど倒れそうになったところにノックアウトをくらった感じとでもいうのだろうか。
預金をする時に、ティッシュペーパーやゴミ袋など、
もらってももらわなくてもいいような物を手に深々と頭を下げてくれるより、
こういう非常時こそ優しくしてよと、何の関係もない銀行マンを恨めしく思ったりもした。
                                          (つづく)
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