上村悦子の暮らしのつづり

日々の生活のあれやこれやを思いつくままに。

3月土筆摘み

2019-03-08 20:27:41 | エッセイ
春の気配を感じると、毎年気になってしょうがないのが、ツクシのこと。
あのスギナの仲間の土筆である。
 
幸いにも、緑豊かな大阪・北摂地区に住む我が家では、毎年、近所で土筆摘みが楽しめる。
子どもが成人した今でも、夫婦2人、秘密のいつもの場所で土筆取りを堪能するのが、
春を感じる我が家のいち行事である。

もちろん、シャキッとした繊維質の自然くささと、
胞子のほろ苦さが絶妙な土筆の甘辛煮を頭に描きながらのことである。
それにしても、もうシニアに近いおじさんとおばさんが、
危なっかしい緑の斜面にかがんでいるのだから、
端から見れば、土筆を摘んでるなんて、のどかな光景にはどうしても見えないだろう。
 
さてさて、こうしてたっぷり摘んだ土筆は、家に帰ってからの作業が、またお楽しみ。
新聞紙にザッと広げて、満足感に浸りながら1本1本、袴を取っていく。
指先が土で茶色くなってしまうし、根気がいるので大抵は私の仕事。

時間がたっぷりあれば、
「亡くなった母や子どもたちと一緒に世間話をしながら同じことをやってたなあ‥‥」
「田舎のおばあちゃん家の原っぱには、もっと肥えた土筆が群生していたな……」と、
昔のことを思い出す優しい時間となる。
 
それを終えると、何回も水洗いをし、水切りをして調理に。
お鍋に油をひいてサッと炒め、砂糖と濃口醤油で甘辛く煮つけるだけ。
私はインスタントだしもほんの少し加えて出来上がり。
 
煮るとほんのちょっとになってしまうけれど、
甘く苦い春の香りがして、3月の食卓に絶対欠かせない一品となる。

昔は、ほとんどの家庭でそうしていたのだろうが、土筆などの山菜料理をはじめ、
初夏の梅干し漬けやラッキョウ漬け、そして、ショウガ漬け。
秋になれば、黄色い沢庵漬けから寒い時期の味噌の仕込みまで、わが家では母の手作りのオンパレードだった。
                       
                                            (つづく)