くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

狼おとこ(9)

2022-02-17 20:15:15 | 「狼おとこ」
 その日の夕食は、どこか家庭的な温かさに満ちていた。燭台は少ない食物を豪華に飾り立て、暖炉の火は部屋いっぱいに影絵を演じた。先ほどまで身を固くしていた少年も、次第に心の窓を開き、わずかずつではあったが、口をきき始めた。見知らぬ土地を渡り歩き、物乞いをすることで生きながらえてきた孤独な日々を、オモラはじっと耳を澄まして聞いていた。やくざな生活には似合わず生真面目で、どこか隠れた一面を持つグレイという少年の本当の姿が、オモラにははっきりと感じられた。しかし、ただひとつだけ、グレイが決して口にしないことがあった。どうして、自分はこんな境遇に陥ったのか。それまではどこで、どんな生活をしていたのか――。口を閉ざして、答えようとはしなかった。ぐっと唇を噛み、言いたいことを我慢するため、力ずくでその声を押し戻しているようだった。

 朝、グレイはいつものように目を覚ました。

 さえずる小鳥の声が、騒がしく聞こえてきた。しかし、目を覚ましたそこには壁があり、屋根があり、暖かい毛布を敷いた床があった。もう忘れかけていた、心地よい、すっきりとした目覚めだった。
 梯子段を下りていくと、テーブルの上に朝食が載せてあった。シャツのボタンをとめながら、台所をのぞいてみたが、オモラの姿は見えなかった。
 グレイは席に着くと、がつがつとパンにかじりつき、少し生ぬるくなってしまったスープを飲んだ。皿に残ったスープをパン切れでぬぐい取っているとき、オモラが外から戻ってきた。

「グレイ、食事が済んだら、この裏の小屋まで来ておくれ」

 それだけ言うと、オモラはすぐ外へ引き返していった。昨夜の柔和な雰囲気は消え、どこか男勝りな強さを漂わせていた。
 予感めいた緊張を覚え、グレイの心臓はせわしく鼓動した。
 裏に建っている小屋は、オモラの家と同じく平屋だった。大きさは半分ほどで、どこか物置のようにも見えた。窓はやはり小さなもの以外まったくなく、後から作り足したような煙突から、薄白い煙が風にたなびいていた。
 重い扉を開けると、複数の人の目が一斉にこちらを向いた。

「これが新入りのグレイだ。よろしく頼んだよ」

 扉の正面に座っているオモラが、グレイを指差しながら言った。しかし、言われた男達はなにも言わず、ただ、品定めするようにグレイを眺めていた。
「カッカ、山頭のあんたが口をきかなきゃ、中に入ってこられないじゃないか」
 カッカと呼ばれた男は、睨むようにオモラを見ると、うつむきながら言った。
「――おかみさん、新入りから挨拶すんのが、礼儀ってもんですぜ」
 オモラがグレイをちらっと見た。グレイは力なくうなずくと、いそいそと中へ入った。
 扉を閉めると、部屋は夜に近いほど暗くなった。グレイは手探りするように歩くと、中央にでんと据えられたストーヴの横、低くしつらえられた戸棚の前に立った。
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よもよも

2022-02-17 06:17:16 | Weblog
やれほれ。

仕事終わりに郵便出さなきゃならない用事があって、

午後から短い時間だけど降った雪で

車は真っ白ですぐに出せる感じじゃないし、

郵便局まで行けば確実だけど、

まぁ、一番近くのポストまででもいいかとかって

歩き始めたんだけど、

マイナス10度以下だとやっぱり寒いわ・・・。

面倒でも車出せばよかったなって後悔しつつ、

ほぼほぼ1km位だよな??

踝くらいまである雪踏み踏み歩いてて

自販機見つけたんでココアのホット飲もうと思って

立ち止まったのはいいけど、

財布の中千円札はあったけど、

104円しかないでやんのXXX

泣く泣く帰ったさ・・・。

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狼おとこ(8)【2章 山】

2022-02-16 20:00:29 | 「狼おとこ」
         2 山
 鬱蒼とした白樺の林だった。山の涼風に吹かれ、たくさんの梢がさらさらとそよいでいた。まだ細い、高さもそれほどない木ばかりだった。力のある男なら、斧で簡単に切り倒せそうなものばかりだった。
 二人を乗せた馬車は、この林に来る途中、少しばかり広くなった道の最後で、引き返していった。その先は、人が一人楽に通れるほどの幅しかない、ただ、草を刈っただけの道しかなかった。
 道は、かなり奥まで延びていた。山の麓にあるせいか、ゆったりとした傾斜がついていた。慣れているオモラでさえ、うっすらと額に汗を浮かべていた。
 オモラの家は、白樺の林の中、突然のように光りがまぶしく射しこんでくる、大きく開けた場所にあった。レンガではなく、寄せ集めてきたような木で作られた、平屋だった。この家が建てられる以前は、それこそ立派な建物があったらしく、石造りの門柱、そして頑丈な土台が、草やコケに覆われながら残っていた。
「さあ、お入りよ」
 オモラは軋むドアを開け、中に入った。薄暗い部屋は、木のいぶったような匂いがしていた。
 少年は戸口のところで戸惑っているようだったが、ゆっくりと、恐る恐る様子をうかがうように入ってきた。オモラは少年を目の隅でとらえながら、そそくさとローソクに火を灯した。
「そこいらの椅子で休んどいとくれ」言いながら、窓を開けた。「山ん中は暗くてね。昼間でも明かりが必要なのさ
 あんた。グレイ、とか言ってたね。馬車の中では口ごもってたけど、どっから来たんだい――」
 グレイという名の少年は、黙ってうつむいたままだった。
「――なら、歳は?」
 十、三です。と、話したくないことを、無理矢理言わされたように言った。
「へぇー、いいこと教えてもらったね。あんた身なりだけでなく、頭も弱ってると思ってたけど、言ってる意味はちゃんとわかってるんだね」
 よしよし、とうなずいて、オモラは話を続けた。「あいにくこの家は見たとおりのぼろ屋で、ろくに部屋もないから、あんたは屋根裏を使っておくれ。
 けどね、ただで泊めてやるとは、あたしは約束しちゃいない。明日から、ちゃんと働いて、その稼ぎで宿代は払ってもらうよ。
 それで、いいだろうね」
 少年はあの戸惑ったような仕草を見せたが、こくんとうなずいた。そして、
「ありがとうございます」
 今にも泣き出しそうな顔で言った。
「お礼なんかいらないさ。あたしもちょうど、この腕の代わりが欲しくてね。歳のわりにはちびっこいあんたが、ちょうどいいのさ」
 グレイは目を赤くしながら、鼻を幾度もすすった。オモラはなにも言わず抱き寄せて、優しく頭をなでてやった。
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よもよも

2022-02-16 06:06:43 | Weblog
やれほれ。

北海道の知事が蔓延防止措置の延長に関する

記者会見ニュースで見て、

がっかりさせられたんだけど、

めずらしくスマホのレビュー目に入って、

なるほどなと思わず頷かされた。

飲食やらの制限継続するより、

テレワークを進めて、違反するところに制限かけた方がいいって

そんなように書かれてて、

正直そっちの方が感染者数減らせる気がする・・・。

飲食制限するって、なんとなく目について、

制限すると効果がありそうに思うからじゃないのかなあ??

これまで2年間も同じような症状に苦しまされて、

ワクチンしか普通の人を守る手段がない、

みたいな、もはや打つ手が無いみたいなやり方ってば、

無責任すぎるよね。。

それにまたぞろ北海道の鉄道は

もう利用しづらい乗り物になったね。

大雪の予報で、早くも運休だって・・・。

早めの告知は利用者のためになるけど、

逆に受け取れば、

鉄道は当てにならないんで利用はあきらめてくれって

そう言われてるような気がするわXXX

ウィルスも鉄道も、すぐに白旗を揚げるってのが、

最近の傾向みたい。。

あきらめたところからは、なにも生まれないよね。

チャレンジしていかなけりゃ、先には進めない。。


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狼おとこ(7)

2022-02-15 19:25:15 | 「狼おとこ」
「違う違う」と、オモラは思わず口走っていた。「そうじゃないよ、左手のやつを――そうそう。わかってるじゃないか」
 少年は手間取りながらも、なんとかロープを結び終えた。しかし少年は、手を貸すことをやめず、なおも束ねた鳶口を背負うと、多少よろめきながらも、乗合馬車の傍らまで運んでいった。
「――ちょいと、おまえ」と、オモラもさすがにこれにはあきれて、少年をちょっと小突くと、叱るように言った。
「こんなことしたからって、金なんか稼げやしないよ」
 少年が、ふっと顔を上げた。邪気のない子供っぽい二つの瞳が、大切な宝物のように輝いていた。その瞳を吸いつけられたように見たオモラは、なぜか二の句を言い出せなかった。
「すみません。ぼく、お金はいりません。でも、お願いですから、今夜ひと晩、泊めてください」
 少年は帽子を取ると、胸の前で祈るように握った。
「ふざけるんじゃないよ」
 という思いとは裏腹に、オモラは小刻みに揺れる馬車の中、自分の隣に少年を座らせていた。
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よもよも

2022-02-15 06:19:13 | Weblog
やれほれ。

仕事から帰ってきたら

またぞろカーリングの代表が連勝したっていうんで、

韓国戦見たんだけど、

思ってた雰囲気と違ったんで途中でニュースに切り替えた・・・。

したっけ今度は町長が逮捕されたってニュースでしょ、

新型ウィルスの万年防止措置は延長する可能性大だし、

ニュースなんてどっか遠い世界の出来事だと思ってたら、

だんだん近づいてくる感じで恐いわXXX
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狼おとこ(6)

2022-02-14 20:56:29 | 「狼おとこ」
 リチャードは、立てかけてあった鳶口を手に取ると、鋭くとがったくちばしを、ひとつひとつ布で抜いていった。
「それじゃこの五丁だけ、もらって帰るよ。できあがってるうちに持って行かなきゃ、今度いつできあがるのかわかりゃしないからね」
 へへ、と苦笑いしながら、リチャードは床に四丁の鳶口、そして仕上がったばかりのもう一丁を並べて置いた。
「バード、悪いけど、束ねておくれでないかい」と、オモラは前掛けをはずしかけていたバードに言った。
「はい、おかみさん」と、言いながら、バードはちらっと親方のリチャードをうかがった。どこかしら、不自然な優しさが感じられた。こういう時の親方は、注意しなくちゃな、とバードは胸の中でつぶやいた。
「おかみさん、五丁も大丈夫ですか?」
「ああ、平気さ。これでも山で働いているんだもの、このくらい持てなきゃ、明日から物乞いだよ」
「ぼくが持って行きましょうか」と、バードは言いかけたが、親方の姿が頭によぎり、「ぼく――」と言ったきり、すぐに口をつぐんでしまった。
「さあ、ちょっと手を貸しておくれ」
 そうオモラに言われ、バードは束ねた鳶口を抱えると、オモラが背中に担ぐのを手伝った。
「じゃあ、親方、あたしはこれで帰るよ。また明日来るけど、しっかり頼んだよ」
「ああ、明日な」と、リチャードは無愛想に答えた。
 前屈みになりながら歩く後ろ姿を見送りながら、リチャードが憎らしげに言った。
「くそっ。安く炭を分けてもらってるから仕方なく仕事をしてやってるが、あんな狼男の片割れ、大きな顔して店に出入りされたんじゃ、あらぬ噂の種だ」
 まったく、と言ったリチャードは、首にかけていた手ぬぐいを放り投げた。


 オモラは、強がってはみたものの、肩に食いこむ重さに耐えかねていた。ようやく馬車屋までたどり着いたときには、ほっと気が緩んだのか、思わず荷物を落としてしまった。
 せっかく束ねてもらったロープも緩み、鳶口もバラバラになってしまった。なんとか縛り直そうと試みたが、ほどけたロープは鳶口をさらに散らばらせ、重心が偏っている柄は、なかなか思うように重なってくれなかった。店で待機している御者は見て見ぬふりで、手を貸そうとする者は一人もいなかった。
 そこへ、見知らぬ少年がさっと手を差し出した。
 薄汚い帽子を被り、来ている粗い麻のジャケットは、もとの布地の色がわからないくらい、いろいろなシミや汚れで染まっていた。ひと目で物乞いとわかる容姿だったが、オモラは、少年の頭から漂う汗臭い臭気に顔をそむけながらも、じっとその姿に見入っていた。もどかしいほど不器用で、簡単なはずの結び方を何度も失敗していたが、不思議とお節介だとは思わなかった。
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よもよも

2022-02-14 06:24:37 | Weblog
やれほれ。

休み前の土曜日は

夜更かししてオリンピック見てた。。

付けっぱにして本読んでたんだけど、

午前中熱戦だったってニュースでやってたし、

ルールもなんとなくしかわからんから

最初はフーンって感じだったんだけど、

エンドが進むに連れてだんだん緊迫してくるのが

伝わってくるから、

最後は夢中になって見てた。。

北海道あちこちカーリング場できてるけど

正直、あんなメンタルに負担のかかるスポーツって、

人選ぶよねぇ・・・。

自分には合わんわ。。
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狼おとこ(5)

2022-02-13 20:13:37 | 「狼おとこ」
「そう。それはね、狼男なの」
 アリエナはあきれ顔でダイアナの顔を見た。そして、さっと窓から離れると、作りかけのパッチワークのあるベッドへ飛び移った。
「もういいわ」
「どうしてよ」と、ダイアナはじれたように言った。「これから面白くなるのよ。ね、お願い。最後まで聞いて。ね」
 アリエナはむっつりと横を向いていたが、いいわ、とすまし顔で言うと、にっこりと微笑みながらダイアナに向き直った。
「その狼男はね、オモラさんの恋人だったらしいの。どこから来たのか知らないけど、たぶん吟遊詩人みたいな、国中を旅して歩く人だったらしいわ。
 普段はもちろん人の姿をしていて、周りにいた人もぜんぜん気づかなかったの。それがね、教会で、神父様のお説教を聞いている時、急に様子が変になったかと思うと、恐ろしい狼男の正体を現したんですって」
「ほんとに……」
「信じられないでしょうけど、これはホントウにあったことなのよ――。
 でね、居合わせた審問官達に取り押さえられそうになったんだけど、オモラさんが必死で守ろうとしたんですって。もちろん、凶暴な狼男が自分を守ろうとしてるなんて、わかりっこないわ。それで、かばおうとしたオモラさんが、逆に狼男に腕を食いちぎられたんですって」
 ダイアナは話し終えると、薄気味の悪い声で笑った。アリエナは思わず唾を飲みこみ、その音はダイアナの耳にまで届いた。面白がったダイアナは、今度は両手を高く上げて大きく開き、爪をカッと立ててアリエナに襲いかかった。
 飛びかかられたアリエナも、お返しとばかりに歯をむき出し、うなり声を上げてダイアナに噛みついた。
 子犬のようにじゃれ合う二人は、狭い部屋の中を騒がしく転げ回った。


「あらあら、元気のいいこと――」と、オモラはあきれ顔で言った。
 天井を見上げているその顔を、やはり苦々しく見上げて、
「うちの娘は、元気だけが取り柄でしてね」
 と、鍛冶屋のリチャードが言った。
「あら、わたしが怒らせるようなこと言ったかしら」
 リチャードはさっと目をそらすと、
「そんなことはありませんや、おかみさん」
 そう言うと、見習いのバードに向かって、仕上がり具合を聞いた。
 真っ赤に熱せられた鉄に向かい、顔を汗でぐっしょりにした見習いのバードは、
「はい、親方。もうすぐです」
 小気味よく打たれていた槌の音が、気持ちだけ早くなった。
「とりあえず、鳶口はあいつが仕立ててるやつを入れて五丁だ。まさかりはまだ何本か研ぎ終わってねぇ。早くても明日の午後だ。鋸はもうちょいとばかりかかるな。あれじゃ、作り直したほうが早いかもしれねぇよ」
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狼おとこ(4)

2022-02-12 19:18:46 | 「狼おとこ」
「あの話って」と、アリエナが考えるように言った。
 ダイアナの部屋にいる二人は、鍛冶屋で槌を振るっているトン、テンという音を耳にしながら、並んで窓の外を見ていた。ベッドの上には、作りかけのパッチワークが、無造作に置かれていた。
「異端審問官が来るんだって。あんたんとこに泊まってた詩人が、そう言ってたらしいわよ」
「わたし、知らない」と、アリエナは首を振った。「異端って、魔女とかのこと――」
「そう。よく神父様がお説教で言ってるじゃない。悪さをする魔女のこと」
「この町にもいるのかしら」
「さあね――」と、ダイアナが不意に窓から目を離して、アリエナにあそこを見て、と指を差した。
「え、なに」
 ダイアナが指を差したのは、こちらに歩いてくる女の人だった。その人は、男物のズボンを履き、たっぷりとした、これも男物のシャツを着ていた。髪はろくに手入れもしていないらしく、ぼさぼさで、ただ後ろでひとまとめに束ねているだけだった。歩調に合わせて左袖がぶらぶら遊ぶのは、よく見ると、彼女の左腕が肘の先からなくなっているからだった。
「オモラさんじゃない」と、アリエナは言った。
「そう」と言って、ダイアナは急に小声になった。
「まだわたし達が生まれる前だけど、その時にも一度、この町に異端審問官が来たらしいの。
 ほらあそこ、今は井戸になってるけど、その昔はあそこに処刑台があったらしいわ。審問官達が裁判で有罪になった魔女を、その処刑台で火あぶりにしたんだって――」
「じゃ、やっぱりこの町にも――」
「ちょっと待って、あわてんぼうね。それはうんと昔の話し。
 わたし達がまだ生まれる前――そう、わたしの父さん達がまだ子供の頃の時代ね――異端審問官が来て、異端者狩りをやったんですって。
 その頃は、まだ古い占いなんかが残っていて、子供達も『お告げ遊び』とかいうやつで、よくみんなと遊んでたらしいわ。でね、それが審問官に見つかって、こんな破壊的なことを子供に教えるのは魔女しかいないって、町中の女達に試練を課したんですって。
 そこからは、わたしもよくは知らないんだけど、どうも手を後ろで縛って、沼に突き落としたらしいわ」
「え、そんなことしたら、死んじゃうじゃない」と、アリアナは驚いて聞き返した。
「そう。でも、もしも浮かび上がったりしたら、それこそ有罪を宣告されて、火あぶりにされちゃったのよ」
 アリエナはごくりと生唾を飲んだ。
「でね、あの人のことだけど」と言って、ダイアナは窓の外をのぞいたが、オモラの姿は階下の鍛冶屋に入って、見えなかった。
「あの人のことだけど、その魔女狩りの最中、もうひとつの事件があったの」
「もうひとつの事件?」
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