タッカー (字幕版)
僕がオススメする「クルマの映画」第2弾です。
レンタルカートにハマるまでの僕は、結構コアな映画ファンでした。
今まで劇場で鑑賞した映画は600本以上。
また、せっかくの映画体験を文章で残したいと思い、映画レビューを500本程度書き綴り、電子書籍で公開してきました。
そんな中から、とびっきりのクルマ映画をご紹介しましょう。
1988年公開の「タッカー」と言う映画をご存知ですか?
アメリカの設計者タッカー(ジェフ・ブリッジス)が、家族や仲間のエンジニアたちと、悪戦苦闘しながらクルマを開発してゆくお話です。
主に、1948年に製造されたこのクルマは「タッカー48」とも呼ばれています。
これ、第二次世界大戦が終わった、わずか3年後ですよ。
ようやく終わった戦争。
その開放感。
アメリカ合衆国は戦勝国で、ラッキーなことに、自国は戦場になりませんでした。
徹底的に破壊されたヨーロッパの街とは対照的です。
やがて迎える1950年代。
華やかなアメリカンドリーム、
大量生産、大量消費。
大衆の文化が、こぼれるバラの花束のように、咲き乱れるのです。
タッカーが車を産み出したのは、そんな時代のほんの少し前でした。
『タッカー』というクルマは当時、夢の車と言われるほど革新的、いや、革命的な車でした。
それは当時の宣伝広告から伺えます。
『全車オートマチック・トランスミッション』*
『革新的なリアエンジン、リアドライブ』
『ディスクブレーキ』*
『シートベルト』
『空気力学を採用したボディ形状』
『ハンドル操作に連動して行先を照らす、可動式ヘッドライト』
『衝突時に前方へ外れるフロントガラス』
どれもこれも今までにない、当時としては50年先をいく、未来のドリームカーのイメージでした。
(なお、*印は技術的問題で、結局市販車には採用されませんでした。しかし、タッカーが60年以上前に提案した装備の多くは21世紀の現代、クルマの標準装備となっているのです。)
タッカーがクルマ造りで、まず第一に考えたのは『乗る人の安全』でした。
当時の自動車に、安全ベルトはありませんでした。
そのため衝突事故を起こすと、ドライバーはフロントガラスに頭から突っ込んで、死亡するケースが多かったのです。
タッカー車では、その問題を解決するため、シートベルトを標準装備し、さらには、衝突時のショックを利用して、フロントガラスが、前方に『外れる』という大胆なアイデアを採用したのです。
そして、ヘリコプターのアルミ製エンジンを流用した、当時群を抜く走行性能と燃費の良さ。
***
でもいざ、作るとなるとなぁ~。
「本当にこんな凄いクルマ作れるのかい?」
と、タッカーチームのメカニックたちでさえ、懐疑的でした。
今あるのは、タッカーが描いたクルマのスケッチだけ。
まさに絵に描いた餅です。
それでも天才的なデザイナー、タッカーの無理難題は、今に始まったことじゃない。
スタッフたちは慣れっこだったのです。
彼らはタッカーの夢を実現すべく、それこそ、寝食を忘れるほど新車開発に没頭します。
車を製造販売するために新しい会社も作ります。
ここで活躍するのがキャラッツ(マーティン・ランドー)という人物。何が本業なのかは、よく分からないような、それでいて、常に美味い儲け話の情報はすぐに嗅ぎつける。
もう、ウサン臭くて、一癖も二癖もありそうな人物。
でも、なぜか憎めない男なんですね。
キャラッツは、様々な業界に顔が利き、タッカー車製造に必要な、人材や、工場を見つけてきます。
プロモーション活動も始まります。
車はまだ、一台も完成していないのに、キャラッツは、クルマのディーラーたちを巡って、販売契約や株式を売りまくります。
タッカーの新会社に客からのお金が入ってきました。
さらに、出来上がった試作車と共に、アメリカ全土を巡る、大広告キャンペーンを繰り広げました。
もちろん、このような革命的で夢のようなクルマの出現を、快く思わない人たちもいます。
それが、アメリカ自動車産業の巨人と言われた『ビッグスリー』
フォード、ゼネラルモーターズ、クライスラー、などの巨大企業です。
彼らから支援されている国会議員たちが、やがて、うごめき始めます。
『設計者タッカー』と『夢の車』を握り潰そうと暗躍するオトナたち。
やがてタッカーは、
「存在しない、作れもしない車を売る権利をエサに、善良なアメリカ国民をだまして、莫大なお金を集めた」
という罪で告訴されます。
もちろん、タッカー本人は、激怒しました。
「夢のあるクルマを作って、何が悪いんだ!!」
すると彼のスタッフが諭します。
「そうじゃない、あんたの作ったクルマは『出来が良すぎた』のさ」
映画の終盤は法廷劇です。
タッカーは、堂々と自分の考えを世に訴えます。
「陪審員の皆さん、アメリカは夢が叶う国のはずですよね」
「しかし、今のアメリカは、私のような夢を見る者、ドリーマーを、寄ってたかって潰しにかかってくるんです」
さらにタッカーは続けます。
「いいですか、皆さん、こんなことを続けていたら、アメリカ国民は、今に敗戦国(日本やドイツ)から『クルマ』や『ラジオ』を買う羽目になるでしょう」
~ハハハッ、そんなバカな~
法廷にいる人たちに笑いが起きます。
しかし、現実はどうでしょう?
タッカーの予言は当たりました。
のちにアメリカは、日本から、安くて性能の良いクルマを、大量に購入する羽目になります。
このため、アメリカの自動車産業の経営は危うくなったのです。
***
本作の監督はフランシス・フォード・コッポラ
『ゴッドファーザー』
『地獄の黙示録』
を作った、伝説的な映画監督です。
本作では、アメリカンドリームに象徴される、当時の明るくて華やかな文化を存分に描きます。
音楽も、ポップで心躍らせる、ジャズ、ダンスミュージックがメイン。
そして衣装もよくご覧ください。
ちょっとレトロだけど、デザインも小粋で、とってもお洒落。
映画鑑賞の楽しみは、ストーリーや配役だけではありませんよ。
劇中で流れる音楽や、衣装の素晴らしさ、また舞台となるロケーション、建物や室内の雰囲気などもぜひご堪能ください。
また、出演者の中に、タッカーチームの一員で、優秀な日本人メカニック役、ジミー・サクヤマとして、マコ岩松氏が出演しているのも嬉しいですね。
(当時、日系アメリカ人は、敵性アメリカ人として強制収容所送り となっていました。
タッカーはジミーの優秀さを認めて保護者になっていたのです)
この映画を見てふと思い浮かんだことがあります。
「アメリカにも、本田宗一郎さんのような人物がいたのだ!」
と言うことです。二人が追い求めたのは『夢』ドリーム。
夢を形にしてゆく、それこそが人生そのもの。
その生き方の”爽やかさ”に心惹かれるのは、僕だけではないでしょう。
***
製作総指揮:ジョージ・ルーカス
出演:ジェフ・ブリッジス、
ジョアン・アレン
マーティン・ランドー
ロイド・ブリッジス
マコ岩松
音楽 ジョー・ジャクソン
衣装 ミレーナ・カノネロ
1988年公開 製作国 アメリカ
110分
***本文の著作権は天見谷行人に帰属します ©️Yukito amamiya 2020
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僕がオススメする「クルマの映画」第2弾です。
レンタルカートにハマるまでの僕は、結構コアな映画ファンでした。
今まで劇場で鑑賞した映画は600本以上。
また、せっかくの映画体験を文章で残したいと思い、映画レビューを500本程度書き綴り、電子書籍で公開してきました。
そんな中から、とびっきりのクルマ映画をご紹介しましょう。
1988年公開の「タッカー」と言う映画をご存知ですか?
アメリカの設計者タッカー(ジェフ・ブリッジス)が、家族や仲間のエンジニアたちと、悪戦苦闘しながらクルマを開発してゆくお話です。
主に、1948年に製造されたこのクルマは「タッカー48」とも呼ばれています。
これ、第二次世界大戦が終わった、わずか3年後ですよ。
ようやく終わった戦争。
その開放感。
アメリカ合衆国は戦勝国で、ラッキーなことに、自国は戦場になりませんでした。
徹底的に破壊されたヨーロッパの街とは対照的です。
やがて迎える1950年代。
華やかなアメリカンドリーム、
大量生産、大量消費。
大衆の文化が、こぼれるバラの花束のように、咲き乱れるのです。
タッカーが車を産み出したのは、そんな時代のほんの少し前でした。
『タッカー』というクルマは当時、夢の車と言われるほど革新的、いや、革命的な車でした。
それは当時の宣伝広告から伺えます。
『全車オートマチック・トランスミッション』*
『革新的なリアエンジン、リアドライブ』
『ディスクブレーキ』*
『シートベルト』
『空気力学を採用したボディ形状』
『ハンドル操作に連動して行先を照らす、可動式ヘッドライト』
『衝突時に前方へ外れるフロントガラス』
どれもこれも今までにない、当時としては50年先をいく、未来のドリームカーのイメージでした。
(なお、*印は技術的問題で、結局市販車には採用されませんでした。しかし、タッカーが60年以上前に提案した装備の多くは21世紀の現代、クルマの標準装備となっているのです。)
タッカーがクルマ造りで、まず第一に考えたのは『乗る人の安全』でした。
当時の自動車に、安全ベルトはありませんでした。
そのため衝突事故を起こすと、ドライバーはフロントガラスに頭から突っ込んで、死亡するケースが多かったのです。
タッカー車では、その問題を解決するため、シートベルトを標準装備し、さらには、衝突時のショックを利用して、フロントガラスが、前方に『外れる』という大胆なアイデアを採用したのです。
そして、ヘリコプターのアルミ製エンジンを流用した、当時群を抜く走行性能と燃費の良さ。
***
でもいざ、作るとなるとなぁ~。
「本当にこんな凄いクルマ作れるのかい?」
と、タッカーチームのメカニックたちでさえ、懐疑的でした。
今あるのは、タッカーが描いたクルマのスケッチだけ。
まさに絵に描いた餅です。
それでも天才的なデザイナー、タッカーの無理難題は、今に始まったことじゃない。
スタッフたちは慣れっこだったのです。
彼らはタッカーの夢を実現すべく、それこそ、寝食を忘れるほど新車開発に没頭します。
車を製造販売するために新しい会社も作ります。
ここで活躍するのがキャラッツ(マーティン・ランドー)という人物。何が本業なのかは、よく分からないような、それでいて、常に美味い儲け話の情報はすぐに嗅ぎつける。
もう、ウサン臭くて、一癖も二癖もありそうな人物。
でも、なぜか憎めない男なんですね。
キャラッツは、様々な業界に顔が利き、タッカー車製造に必要な、人材や、工場を見つけてきます。
プロモーション活動も始まります。
車はまだ、一台も完成していないのに、キャラッツは、クルマのディーラーたちを巡って、販売契約や株式を売りまくります。
タッカーの新会社に客からのお金が入ってきました。
さらに、出来上がった試作車と共に、アメリカ全土を巡る、大広告キャンペーンを繰り広げました。
もちろん、このような革命的で夢のようなクルマの出現を、快く思わない人たちもいます。
それが、アメリカ自動車産業の巨人と言われた『ビッグスリー』
フォード、ゼネラルモーターズ、クライスラー、などの巨大企業です。
彼らから支援されている国会議員たちが、やがて、うごめき始めます。
『設計者タッカー』と『夢の車』を握り潰そうと暗躍するオトナたち。
やがてタッカーは、
「存在しない、作れもしない車を売る権利をエサに、善良なアメリカ国民をだまして、莫大なお金を集めた」
という罪で告訴されます。
もちろん、タッカー本人は、激怒しました。
「夢のあるクルマを作って、何が悪いんだ!!」
すると彼のスタッフが諭します。
「そうじゃない、あんたの作ったクルマは『出来が良すぎた』のさ」
映画の終盤は法廷劇です。
タッカーは、堂々と自分の考えを世に訴えます。
「陪審員の皆さん、アメリカは夢が叶う国のはずですよね」
「しかし、今のアメリカは、私のような夢を見る者、ドリーマーを、寄ってたかって潰しにかかってくるんです」
さらにタッカーは続けます。
「いいですか、皆さん、こんなことを続けていたら、アメリカ国民は、今に敗戦国(日本やドイツ)から『クルマ』や『ラジオ』を買う羽目になるでしょう」
~ハハハッ、そんなバカな~
法廷にいる人たちに笑いが起きます。
しかし、現実はどうでしょう?
タッカーの予言は当たりました。
のちにアメリカは、日本から、安くて性能の良いクルマを、大量に購入する羽目になります。
このため、アメリカの自動車産業の経営は危うくなったのです。
***
本作の監督はフランシス・フォード・コッポラ
『ゴッドファーザー』
『地獄の黙示録』
を作った、伝説的な映画監督です。
本作では、アメリカンドリームに象徴される、当時の明るくて華やかな文化を存分に描きます。
音楽も、ポップで心躍らせる、ジャズ、ダンスミュージックがメイン。
そして衣装もよくご覧ください。
ちょっとレトロだけど、デザインも小粋で、とってもお洒落。
映画鑑賞の楽しみは、ストーリーや配役だけではありませんよ。
劇中で流れる音楽や、衣装の素晴らしさ、また舞台となるロケーション、建物や室内の雰囲気などもぜひご堪能ください。
また、出演者の中に、タッカーチームの一員で、優秀な日本人メカニック役、ジミー・サクヤマとして、マコ岩松氏が出演しているのも嬉しいですね。
(当時、日系アメリカ人は、敵性アメリカ人として強制収容所送り となっていました。
タッカーはジミーの優秀さを認めて保護者になっていたのです)
この映画を見てふと思い浮かんだことがあります。
「アメリカにも、本田宗一郎さんのような人物がいたのだ!」
と言うことです。二人が追い求めたのは『夢』ドリーム。
夢を形にしてゆく、それこそが人生そのもの。
その生き方の”爽やかさ”に心惹かれるのは、僕だけではないでしょう。
***
製作総指揮:ジョージ・ルーカス
出演:ジェフ・ブリッジス、
ジョアン・アレン
マーティン・ランドー
ロイド・ブリッジス
マコ岩松
音楽 ジョー・ジャクソン
衣装 ミレーナ・カノネロ
1988年公開 製作国 アメリカ
110分
***本文の著作権は天見谷行人に帰属します ©️Yukito amamiya 2020
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