kisetsunokazeni

ときには空を見上げて深呼吸。無駄と思える時間も必要な時がある。

昭和

2016-12-13 18:17:45 | ひとこと
寒い冬の夜


まだ幼いその子は冷え切った台所に立つ


お釜に枡で量ったお米を入れると


流しの前に台を置き


そこに立ってお米をとぐ


お水を入れるときはちょっと爪先立ち


それから小さな手がお釜の中を泳ぐと


見る間に冷たく赤くなっていく


2~3回も洗うと


もう手がしびれてちぎれそうだ


”ちゃーちゃん、おてて、つめたい”


こらえきれず


居間にいる母へ振り向くと


一日中働いたのにまだ他の仕事をしている


疲れた母の後姿を見て


ほうっ、っとため息をつくと


もう一度お釜に向き直って


勇気を奮い立たせる


ぎゅっと目をつぶり


ここからはお水の濁りとの闘い


一生懸命洗うのに


お水はなかなかきれいにならない


ようやく透明なお水になるころには


小さなおてては


紅葉したモミジのようだ


もう手の感覚もないから


おかまを抱きしめて


炊飯器の中に何とか入れる


そうして


炬燵に戻っていくと


母の手が


そっと娘の小さな冷たい手を包む


あったかい・・・


急に泣きそうになって


その子は慌てて炬燵へもぐりこむ


明日もお米とぎしようと


決心する瞬間


昭和の


冬の夜の


記憶
コメント (2)
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