２番目に欲しいもの

２番目に欲しいものを探しに大きい街へいきました。
腕時計です。

小さい文字盤は針だけ。
やたら長い革製のバンドは細く二連に。
留め具はゆるいのですぐはずれてしまう。

去秋に行った飲み屋で亡くしてしまいました。
その飲み屋には何度か出向いて探したのですがありません。
飲み屋で亡くしたのではなく帰りのセンター街あたりで亡くしたのかもわかりません。
どちらにしろ絶望的であることに間違いはありません。

去年買った店にはありませんでした。
次に覗いた店にもありませんでした。
もうないかな、と諦めてキラキラのハートがついた時計に目がいったけれど。
それは買うのに気が引けました。
私はやっぱりあの腕時計が欲しい。
亡くした時計が欲しい。



久しぶりにヒールを履いた足が疲れてきました。
欲しいものが手に入らないもどかしさに吐き気を覚え、お気に入りのカフェにいきました。

大きい街は忙しく動き。
その中で小さい人も細々と走り。
そのうちにどちらが動いているのかがわからなくなり。
また私は吐き気を覚えました。

大好きな紅茶とケーキを飲み込みながら、大きな街を眺めていました。


「あたし、あんな本気になれる人に出会えたのは奇跡だと思うんだよね」

カフェで女子大生が語っていたのは愛だったのか、恋だったのか。
そんなことはどうでもいいか。

「重要なのは愛か愛じゃねえかのどちらかじゃね？」

見るからに頭の悪そうなギャルがそんなことを言ったもんだから驚きました。
それから今まで抱いていた気持ちが愛か愛じゃないかを考えてしまいました。
そんな自分にまた吐き気がしました。



やっぱり時計は見つからず、キラキラの時計を買うこともなく。
大きい街に白い煙をふきつけて、北へ還りました。


さてと。