「不良少年」 1961年 日本
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監督 羽仁進
出演 山田幸男 吉武広和 山崎耕一郎 黒川靖男 伊藤正幸
ストーリー
銀座を走る一台の護送車。東京地検の一室。浅井の二週間にわたるネリカン生活が始まった。
思いはシャバに帰る。浅草は生きやすかった。安い飯や遊び、からかう女にもこと欠かない。
彼は親分や兄貴分の下につけない性分だった。
ある日の夕方、不良仲間と三人で真珠店を襲い20万円の強盗を働いた。
上品なウインドーとお高い店員が虫がすかなかったからだ。
浅井は明治少年院に収容された。海に近い男性的な風物にとり囲まれた岬の一角にある。
やがてクリーニング科に編入された。
ここにはやくざ的組織ができており、空手をやる班長江上と下に中幹部がいる。
浅井にみせしめの私刑が加えられたが、浅井は仕返ししてやると心に誓った。
数日後、班長等が反則のパンを自分たちだけで喰っているのを種に、浅井は喧嘩を売って出た。
まもなく、浅井は教官会議で木工科に編入された。
班長の藤川、副リーダー格の木下はともに不良の苦労が身にしみて温かささえあった。
出張と語りあった。彼はシャバ時代藤川の仲間で、四人組で恐喝行脚を続けていた。
毎日善良なサラリーマンやアルバイト学生を襲った。
回想する出張は、後味の悪さのためか被害者のことをくわしく話した。
浅井の耳にこびりついた。
運動会は楽しい思い出となった。
浅井に退院の日がきた。
一年働いた金320円を受取って門を出た。
寸評
ドキュメンタリーではなくドキュメンタリ・タッチで描いていることは冒頭で断られているが、映像はあたかもドキュメンタリーそのものである。
セリフが後から入れられているので、映像と完全一致していないことで、純粋のドキュメンタリーでないことがわかるが、少年たちの会話は本物を感じさせる。
非行少年の姿を描いているが、彼らがどうしてこのような不良少年になったのかは全く描いていない。
虐待されていたとか、社会が悪いとか、愛情に飢えていたとかの理由付けなどを一切排除している。
また彼らが教官たちの指導の下に心を入れ替えて社会に復帰していく姿も描いていない。
ただ単に彼らの普段の喜怒哀楽を描いているだけである。
俳優が演じていないので演技はぎこちないが、それがかえってリアリティを感じさせる。
セリフも彼らの普段の言葉使いだと思われるから、一層かれらの心情が感じ取れる。
時々彼らがシャバでやっていた悪事が描かれるが、それはサラリーマンや学生へのたかりだったり、この店が気に食わないからと宝飾店強盗を白昼堂々とやらかす無軌道ぶりである。
街を肩を怒らせ闊歩する姿も、その通りなのだろう。
決して心情移入できる若者たちではないが、時に人懐っこかったり、ひ弱そうに見えたりするので、嫌悪感だけが湧いてくる連中ではない。
演じているのは元不良だった素人ということだが、俳優では出せないような苛立ち感や、投げやりな表情を見せるので、自己表現できずにふてくされる表情が彼らの心の内を映し出していたように思う。
この独特な手法が評価されて、公開当時に評論家たちに絶賛されたのだと思うが、僕は独特な手法に興味を持ちながらもこの映画が自分の中に残ることはなかった。
自然体で演じた少年たちは評価できても、だけどそれがどうしたという気分の方が強かったのだ。
少年たちは本音で生きているが、大人たちはありきたりの正論を述べているだけで、少年たちに寄り添っている風には感じられない。
親はお前がこうなったのは友達が悪かったのだと責任転嫁する。
この大人たちでは少年たちを更生させることは無理なのではないかと思ってしまう。
浅井が最初に編入されたのはクリーニング科で、そこは仕切っている仲間がいて浅井には居ずらい場所だった。
次に編入された木工科とのギャップは一体なぜ起きていたのだろう。
教官は模範的だし、属している少年たちもクリーニング科とはまったく違う。
出張少年は浅井と語り合い、彼に諭すようなことを述べ、浅井は素直に聞いている。
やがて浅井は木工作業での賃金として320円を貰って出所していく。
しかし彼の働き口や行き場所はあるのだろうか、当面の生活資金だってないに等しい。
途中で再収監された少年が描かれていたが、浅井もその道をたどるのではないか。
実際の浅井は更生して「とべない翼」を著したのだろうが、映画を見る限りにおいて僕は浅井が更生してまともな生活を送る姿を想像できなかった。
この様な映画には希望の光を残して欲しいのだが、あったとすれば浅井少年と出張少年の会話の内容だけだったように思えて、僕はあまりこの映画が好きではない。