「バカヤロー! 私、怒ってます」 1988年 日本
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監督 渡辺えり子 / 中島哲也 / 原隆仁 / 堤幸彦
出演 相楽晴子 伊原剛志 石橋蓮司 森下愛子
安田成美 磯部弘 相田寿美緒 小坂一也
大地康雄 斉藤慶子 イッセー尾形 布施博
小林薫 室井滋 草野康太 小林稔侍
ストーリー
第1話 「食べてどこがいけないの?」
厚木静香(相楽晴子)はダンスパーティで沼山和樹(伊原剛志)と知り合って婚約するが、彼は実に神経質な男で、食事のマナーや静香の体型など、ベッドの中でも文句をつける。
彼女は必死でダイエットを試みるが報われず、数日後両家の食事会で突然“バカヤロー!食べてどこがいけないんだ”と叫ぶのだった。
第2話 「遠くてフラれるなんて」
軽間佐恵(安田成美)は自宅と会社が遠い上、父親が厳しいので友人と遊ぶことはままならなかった。
唯一の楽しみの恋人・大石守(磯部弘)とのデートも終電で帰らなければならないのでうまくいかない。
ある晩佐恵は彼のためにホテルを予約するが、時は遅く大石は別れ話を持ち出した。
普段大人しい佐恵もその夜は酔っ払い、バカヤローと叫びながらホテル内を暴れ回るのだった。
第3話 「運転する身になれ!」
気の弱いタクシー運転手の益子雅久(大地康雄)は、毎晩嫌な客を乗せてストレスがたまっていた。
ある晩美人ホステスを乗せてアパートまで送り届けたが、突然男が現われてタクシー代も取らずに帰った。
翌日、益子は後部座席でイチャつくアベックに頭にきて、ついに“バカヤロー!”と叫ぶのだった。
第4話 「英語がなんだ!」
会社からシカゴ勤務を命じられたビジネスマンの向坂茂(小林薫)は日夜英語の勉強に励んでいた。
英語が堪能な上司の高橋(小林稔侍)は、なかなか上達しない向坂を内心バカにしている。
ある晩会社のパーティでシカゴのVIPと知り合うが、彼は女好きで嫌がるコンパニオンを口説いていた。
止めようとして邪険にされた向坂は、グラマンに向かって“Fuck You!”と叫ぶのだった。
寸評
じっと我慢していたが、ついに堪忍袋の緒が切れて「バカヤロー!」と叫びたくなるシチュエーションを4話にまとめたオムニバス映画であるが、描き方が平凡で4話ともパンチ力に欠ける所がある。
4話もあると作品の中身はキャスティングによるところが大きいなと感じる。
それぞれに主演の俳優があてがわれているが、4話の中では第3話の大地康雄が一番ハマっていたと思う。
キャラクターの魅力が一番生かされていたのが第3話の「運転する身になれ!」であった。
ラストが4作の中では一番決まっていた。
大地康雄が以前文句をつけられたカップルを乗せてしまい、カップルの男(布施博)から東京都足立区の「綾瀬」へ行くように指示されたが、後席でいちゃつき始めたことに突然激怒して神奈川県の「綾瀬市」へ連れて行く。
そこでブチギレルのだが、その後の処理も一番面白い。
「バカヤロー!」と怒鳴ってはいるのだが、どれもがハッピーエンドであるのがいい。
第一話はダイエットを強要されるなど口うるさい男にキレる女性を描いているが、結婚相手同士の家族が食事をするシーンで、それぞれがお互いにののしり合いを始め「バカヤロー!」を連発し合うのが面白い。
もっと罵倒し合っても良かったように思うし、伊原剛志はミスキャストだったように思う。
第二話は都心から離れた一軒家に家族と同居しているために終電が早く、恋人とも満足な時間を過ごせない女性が主人公だが、彼女が「バカヤロー!」を叫ぶのは恋人の磯部弘にではなく、父親の小坂一也に対してではなかったのかと思うのだが。
デートは休日にだって出来るし、さっさと結婚して通勤に便利なところに新居を構えればいいのにと思う。
第三話で描かれるコネタエピソードは面白い。
休暇日にタクシーに客として乗り込み、日頃の鬱憤を晴らす同業者であるイッセー尾形の話は愉快だ。
酔った美人ホステスを自宅アパートまで送り届け、下心を持った大地康雄が5万円を1万5千円に値切り、結局金を置いて立ち去る様子も笑わせる。
極めつけが「綾瀬」のエピソードだった。
第四話は英語でのバカヤローである「Fuck You!」を叫ばせたかったのだろう。
中学3年、高校3年、大学2年の合計8年も英語を学んで話せない日本人の語学力。
教育が悪いのか、僕の能力が足りないのか、多分後者なんだろうけど、同類と思われる小林薫には同情する。
面白いのは夫婦である小林薫と室井滋の英語でのやりとりだ。
このオムニバスはコメディだと思うが、この二人の片言英語によるやりとりが一番コメディらしい。
渡辺えり子は初監督だが、女優としての実績の方が際立っている。
中島哲也もこれが劇場映画監督デビュー作である。
この後、2004年「下妻物語」、2006年「嫌われ松子の一生」、2010年「告白」と開花していく。
原隆仁も初監督だが、彼の作品はこれ以外にはまったく見ていない。
堤幸彦もこれがデビュー作になるのだが、多作家の部類で時々光る作品を撮っている。
演出者は新人監督たちだったので、彼らが温めていたものがもう少し表現されるかと思ったが期待が過ぎた。
森田芳光が総指揮と脚本を担当しているが、彼の影響が大きすぎたのかもしれない。