ぜじろぐ

SAMBATOWN・ゼジの書くブラジル音楽やその他あれこれ

またやり直すということ

2015-04-15 19:37:19 | 訳詞

Começar de Novo (またやり直そう)


またやり直そう
僕を頼ってくれ
こうして夜が明けてしまったことにも
きっと意味があるだろう
反抗したこと
口論したこと
傷ついたこと
生き延びたこと
テーブルをひっくり返したこと
身の程を知ったこと
船が転覆して 救われたことにも

もう一度はじめよう
僕を頼っていい
いつも手入れの行き届いた
おまえの爪にひっ掻かれることもなく
おまえのまぼろしに惑わされることも
おまえの額縁に嵌められることもなければ
おまえが足枷になることも
おまえに振り回されることも
おまえの口車に乗ることも
おまえに見惚れることもないまま
こうして夜が明けてしまったことにも
何か意味があるのだろう

もう一度やり直そう
あとはもう僕を頼ってくれればいい
もうおまえを忘れてしまったことにも
なにがしかの意味があるはず

またやり直すんだ



Começar de novo e contar comigo
Vai valer a pena ter amanhecido
Ter me rebelado, ter me debatido
Ter me machucado, ter sobrevivido
Ter virado a mesa, ter me conhecido
Ter virado o barco, ter me socorrido

Começar de novo e contar comigo
Vai valer a pena ter amanhecido
Sem as tuas garras sempre tão seguras
Sem o teu fantasma, sem tua moldura
Sem tuas escoras, sem o teu domínio
Sem tuas esporas, sem o teu fascínio

Começar de novo e só contar comigo
Vai valer a pena já ter te esquecido
Começar de novo


【作詞 Vitor Martins/作曲 Ivan Lins】


※店主の蛇足解説コーナー※
最近は60~80年代の、軍事独裁政権下にあった頃のブラジル音楽の訳詞にハマっています。

この曲はイヴァン・リンスが1979年に発表した "A Noite(邦題:ある夜)" に収められているシブい名曲で(ていうかこのアルバム自体が名曲揃いの超名盤なんであります)、当時の圧政に対する批判を、男女の別れ話(一説には復縁話)になぞらえて歌っていると言われています。ですので "Sem as tuas garras sempre tão seguras" というくだりなんかは本来「いつもあんなに頑丈だったおまえの鉤爪」と猛禽類の鋭い脚の爪を表現すべきなのでしょうが、それだと歌詞がやたら堅苦しくなっちゃうし、プロテストソングというのがモロバレだと野暮なので、敢えて男女の痴話喧嘩っぽく訳してみた次第です。

お互いまた別々の道を歩いていこう、あるいはまた二人やり直さないか、というようなニュアンスでありながらその実は、徐々に地滑りを起こしつつあった軍事政権に対し「あんたら自分の過ちをしっかり総括反省してまたイチから出直しなよ、あとは俺たちがやるから」と突き放すように歌っているのか、はたまた民主化のチャンスが幾度も訪れては逸し続けた、その敗北感・無力感を嘆きながらも「あきらめずに俺達また始めようぜ」と自らを奮い立たせている風に解釈できないでもありません。まあ歌詞の真意はイヴァン・リンス本人に直接確認したわけではないのでこれ以上当て推量でモノは言えませんが、なんとなくどこかの国の現状に重なる部分すら感じられますし、とりわけ今の自分の心境にぴったりシンクロしてたりして。ま、私事にて恐縮ですが。

いずれにしましても、当局による執拗な検閲の網に悩まされていたこの時代のブラジル人アーティスト達が、自分たちの意思をいかにして発信するか、そんな苦難の末に生み出された珠玉のMPB作品に触れるにつけ、ワタシは毎回痺れるほどの感動と勇気をもらい、それを糧にサンバタウン店舗営業再開に向けて少しずつ準備しながら日々を過ごしています。

※4/16補足※
我が心の師匠、翻訳・通訳家の國安真奈さんからアドバイスをいただき、それに基づき修正を加えました。
真奈さんお忙しい中誠にありがとうございます!

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