猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

泥の河

2012-05-16 02:53:37 | 日記
「捜査官X」おもしろかったなあ。もう1度観たい

1981年の日本映画「泥の河」。世界的に高い評価を受けた作品ということで、
前から観たかったのだ。
昭和31年の大阪を舞台にした、モノクロの映画だった。主演は田村高広さん。
私は田村高広さんが昔から好きである。
田村さん演じる主人公はうどん屋を経営しており、妻と9歳の息子がいる。
経済状態はまあまあといったところ。
ある日息子の信雄が、喜一(きっちゃん)という同い年の少年と知り合う。
きっちゃんは、母と姉と舟に住んでいるという。
信雄が遊びにいくと、姉の銀子ちゃん(11歳)はとても優しくしてくれたが、母親は
姿を現さなかった。
信雄の両親は、その舟が廓舟だということを知る。が、子供たちにはそんなことは
関係のないことだった。両親は信雄がきっちゃんと銀子を連れてくると、優しく
もてなした。姉弟はよく信雄の家に遊びに来るようになる。
ある日信雄が、姉弟がいない時に舟を訪ね、初めて母親に会う。きれいな人だった。
母親は、「お父ちゃんが死んでから、何度も岸に上がろうと思ったけど、なかなか
上がれんのよ…」と話した。
そして信雄ときっちゃんがお祭りに行った夜、帰りに舟に寄って、信雄は母親の
仕事を知ってしまう。

短い間の、子供たちの触れ合い。それがとても悲しかった。
親子の住む舟は河を移動し始めた。信雄の「きっちゃーん、きっちゃーん」と呼ぶ声は、
去っていくきっちゃんに届いたのだろうか。

印象に残るシーンがいくつかあった。主人公の友人が冒頭で登場するのだが、荷車を
ひいていて、馬が暴れて、荷車の下敷きになって死んでしまう。
あまりにあっけない友人の死に、主人公は「戦争で死んだ方がマシだったかもなあ」と言う。
それと、きっちゃんが軍歌を主人公に歌って聞かせるところ。軍歌を全部覚えている
きっちゃん。その父親も、戦争の生き残りだったのだと知る。自分と同じように。
あと、映画の中で出てきた新聞に、「経済、もう戦後ではない」と書いてあったのだが、
登場人物たちの暮らしを見ているととてもそうは思えなかった。
そして、きっちゃんが信雄に「ぼく、普通の家に住みたいなあ」とつぶやいた場面。
あの親子はいつまであの生活を続けるのだろう、と思った。
静かで重たい映画だった。
コメント
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