ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ブルーム・オブ・イエスタディ

2017-09-28 22:10:59 | は行

ヤバいんだけど、
映画の意味が見えてくると、響くんですよこれが。


「ブルーム・オブ・イエスタディ」70点★★★★


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トト(ラース・アイディンガー)は
ホロコースト研究所に務める研究者。

彼の祖父はナチスの親衛隊で
彼は一族の罪のつぐないとして、研究に打ち込んでいるふしがある。

そんな彼がフランスからやってきた
インターンの若い女性ザジ(アデル・エネル)の面倒を見ることに。

空港で出会った彼女は
トトを尊敬していると大喜びするが
彼の車がベンツだと知ると、激しく怒り出す。

「私のユダヤ人の祖母は、
ベンツのガス・トラックでナチスに殺されたのよ!」

こうして加害者と被害者の過去を持つ二人が
行動をともにすることになるが――?!


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昨年の第29回東京国際映画祭で
グランプリを獲得した作品。

しかし
うむむむ~~、これは
勧めるのが難しい!(笑)

ナチス戦犯を祖父に持ち、
その罪滅ぼし的にホロコースト研究をする男性トトと、
祖母をナチスに殺された若い女性ザジが出会う。


初っぱなから、ザジは
“当事者”ならではの
あまりにヤバいタブーをドスドスと繰り出して
加害者の末裔であるトトをオドオドさせるんですね。

その行動は
かなり常軌を逸しており(苦笑)
一方、トトのほうも、精神的にかなり振り切れている。

そんな二人の暴走についていくのは
正直、中盤までかなりつらいんですよ。


だが、しかし。

だんだんとこの問題の根っこと、問いかけの意味に気づくと
映画の印象が変わってくる。


まず、ハッとしたのは
そうだよな、こういう状況、ドイツやヨーロッパでは
フツーにあり得ることなんだよな、ということ。

ホロコースト被害者と、彼らを大量虐殺した加害者が
学校で、職場で、地域のコミュニティで出会ってるわけですよね。

そう思うと、かなりディープに響いてくる。


過去に向き合うことで償い、
過剰に自分を虐めぬいているような
トトの行動にも共感できるし

自殺未遂を繰り返すトラブルメーカー、
ザジの心に引っかかっているものも見えてくる。

そんな二人の邂逅に
ドイツのいまの世代の「何かを突破する!」という
力や希望の想いも感じてきた。


実は監督自身が
トトと同じように、自分の祖父にそういう過去があると知ったことで
ショックを受けたそう。

そこから、こうした新しい視点のアプローチが
できたんですねえ。


★9/30からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ブルーム・オブ・イエスタディ」公式サイト
コメント
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