ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

聖なる泉の少女

2019-08-23 23:59:04 | さ行

幻想的にして寓話的なジョージア映画。

 

「聖なる泉の少女」71点★★★★

 

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ジョージア(グルジア)の南西部、

トルコと国境を接する山深い村。

 

村の娘ナーメ(マリスカ・ディアサミゼ)は

老いた父(アレコ・アバシゼ)とともに

村の聖なる泉とそこに棲む魚を守り、その水で人々を治療していた。

 

 

が、ナーメの3人の兄たちはそれぞれ別の道を行き、

ナーメ自身もまた、自由に生きる人生への憧れを持っている。

 

 

そんなある日、ナーメと父は

泉に変化が起きていることを感じ取る――。

 

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しんしんと、静かに。

雪、霧、水・・・・・・水気をたたえたすべてのそこここに、

静かなる神が潜むような。

幻想的にして静寂で、どこか寓話的なジョージア(グルジア)映画です。

 

 

冒頭、滝の流れる川を長回しで写すシーン。

何の変化もないようだけど、

次第に川が白く濁ってゆくのがわかる。

凍っていくのか?いや、それとも・・・・・・?

そう、水は濁っていくのです。

この世界を汚すものの手によって。

 

 

映画の主役となるのは

古来からの民間宗教を守り、

聖なる泉と、そこに棲む魚を守り続ける老父と、その娘ナーメ。

 

しかし、彼らの守る泉が徐々に枯れていってしまう。

 

元・岩波ホール勤務で、ジョージア研究家&絵本作家となった

はらだたけひでさんによる

ザザ・ハルヴァシ監督インタビューをひもとくと

この話は、西ジョージアで昔から口承で伝わってきた物語がベースになっているそう。

 

「むかしむかし、泉の水で人々をいやしていた娘がいました。

いつしか彼女は他の人たちのように暮らしたいと願い、

ある日、力の源だった泉の魚を解き放ち、多くの人々と同じ生活に帰っていきました」

 

――まさにそのとおりの、映像化だなあ!と。

 

 

スラリとした肢体のナーメがまた

魚の化身そのもの、といった印象で

彼女の存在自体が魔法のようなんですよ。

 

 

でも、映画は決して「おとぎ話」を語っているのではなく

現代への明確な批判と「警鐘」の意思を感じさせる。

 

 

そもそも泉が枯れてゆく原因は

川の上流に出来た水力発電所が原因でもあるんですから。

 

ラストにとどろく

凶暴な機械の掘削音に 

 

古きを脅かし、水源を枯らせた開発と破壊行為への

静かな怒りを感じました。

 

 

残念だけど

進化や進歩はおそらく止められない。

でも

こんなにも美しいものを、我々は失ってるんだよ、と

歯がゆさと、哀しみが、心に積もる。

そしてそれは

この先もずっと、消えない気がするのです。

 

★8/24(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「聖なる泉の少女」公式サイト

コメント
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