ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

オリ・マキの人生で最も幸せな日

2020-01-19 14:29:35 | あ行

カンヌある視点部門で「淵に立つ」を抑えたグランプリ作。

 

「オリ・マキの人生で最も幸せな日」70点★★★★

 

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1962年、フィンランド。

田舎のパン屋さんからボクサーになった

素朴な青年オリ・マキ(ヤルコ・ラハティ)は

祖国で開催される世界タイトルマッチで戦うことになる。

 

国中の期待が高まるなか、

オリ・マキは慣れない社交界での挨拶やら、取材やらで

なかなか集中できない。

 

なによりも彼はいま

地元の女の子ライヤ(オーラ・アイロラ)に恋をしているのだ!

 

そんななか、刻一刻と

試合の日は近づいてきて――?!

 

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1962年に祖国フィンランドの期待を背負って戦った

実在ボクサーの物語・・・・・・なんですが

あらゆるところが拍子抜け!というオモシロイ作品。

もちろん、悪い意味じゃなくです。

 

一瞬、当時のドキュメンタリーフィルムかと思う

16ミリモノクロフィルムで撮られた、素朴な映像。

 

女の子を自転車の前に座らせて走るシーンなんて、

60年代のヌーヴェルヴァーグ映画みたい。

 

で、祖国の期待を一心に背負ってるはずの

朴訥な主人公オリ・マキは

練習も減量もそっちのけで、好きな女の子に夢中・・・・・・という。

 

迫力のパンチや試合がメインではなく

不器用な男子が

あ~、好きな子ができちゃった!あ~好きで好きで好きでたまらない!

静かに身もだえする映画なんだもん。

 

しかも、本人にちゃんと取材してる実話(笑)

 

 

ライト級(61キロくらい)から、フェザー級に級を落とし

57キロを切らなきゃいけないのに

ちょっと?カノジョと遊園地に遊びに行って、ソーセージ食べてる場合ですか?!とか

なんとも可愛らしく、おかしいんですよ。

 

祖国の期待高まるなか、なかなか集中できないオリ・マキ。

でも、ある出来事から、グッと変化する彼の顔に

ポン、と切り替わるカットとか、目に残るシーンが多い。

 

それにカノジョ役のオーナ・アイロラ(歌手でもあるそう)がまた

大らかな造作の美人で

ヌーヴェルヴァーグっぽい風情なんですよね。

マネージャー役のエーロ・ミロノフは

「ボーダー 二つの世界」(19年)の、あのヴォーレ役の人だった!

 

社交界もお金もどうでもいい。

田舎で湖に石投げして、

好きな人と、ずっと一瞬に年を取っていけたらいいね!という可愛らしさ。

 

そして50余年経ったいま、

回り回って、これがいまの若者のしあわせ感覚なのかも、と思ったりする。

 

ラスト、二人とすれ違う老夫婦が、

本物のオリ・マキ夫婦だという仕掛けも

まあ小憎い!(って言葉であってるかしら)

 

★1/17(金)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「オリ・マキの人生で最も幸せな日」公式サイト

コメント
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