ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

エイリアン:コヴェナント

2017-09-17 20:33:08 | あ行

我ながら
よく見続けるよなあエイリアンシリーズ(笑)


「エイリアン:コヴェナント」67点★★★☆


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2104年。

人類発の宇宙移住計画のため
コヴェナント号(=契約、約束、の意味)は
コールドスリープ中の男女2千人を乗せて
移住先となる惑星を目指していた。

起きているのはただ一人、
アンドロイドのウォルター(マイケル・ファスベンダー)だけ。

しかし、航行中、
宇宙の衝撃派を受けるアクシデントが発生。

慌てて目覚めた船員たちだが
船はダメージを受け、数十人が命を落としてしまう。

生き残ったダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)ら13人の乗組員は
近くの惑星から発信される不思議な電波をキャッチし
その惑星に向かうことになるが――?!


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「エイリアン」(79年)を生み出した
リドリー・スコット監督が、
自らエイリアン誕生の秘密を明かすお話。

シリーズものにはノレないワシが
(ハリポタみたいにあらかじめ決まってるものは除いて)
ここまで追っている映画って、これだけかも。


しかし、まあよく話を書き続けるよなあ、とも思う(笑)

全米では
「え?つじつま合わないし?」などなど
いろいろ話題になっていましたが

ふうむ、たしかに
よくわからなくなってきました(笑)


作品的には
「プロメテウス」(12年)
の続き、でしょうか。
(といっても、自分が書いたこのブログ見ても
「プロメテウス」なんだったかよくわからないので
読み返す必要はありません(ガーン!だめブロガー!


今回は整理して書いてしまおう。
ネタバレNGな方はここまで☆




まず
プレス資料の助けも借りて
時系列を整理すると

2089年~2094年を舞台にしたのが「プロメテウス」
2104年が今回の「コヴェナント」
2124年が最初の「エイリアン」
2159年~2179年が「エイリアン2」(ジェームズ・キャメロン監督!)
2270年が「エイリアン3」(デヴィッド・フィンチャー監督!)
2470年が「エイリアン4」(「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督!)

で、今回のお話は

主人公たち+アンドロイドのウォルター(マイケル・ファスベンダー)がある惑星にやってくる

胞子を吸った人間の体の中でエイリアンが発生!

パニックに陥る彼らを、謎の人物が救出。

彼はアンドロイドで
ウォルターの旧モデルである「プロメテウス」のデヴィッド(マイケル・ファスベンダーの二役)だった。

そして、なんとエイリアンを創造してたのは
デヴィッドだった?!という。

うーむ。
「ムリクリ?!」と思いつつも
まあ、けっこう納得させる要素はあって

シリーズを通じて必ずキーとなり
自らは「生命の外」にいる存在のアンドロイドが、

世界をリブートして創造したい!というような考えを持つのも
なんとなくわかるし、

マイケル・ファスベンダーの
“高次元な存在感”も手伝って
そのへんはいいかも、と思う。


ただ、映画全体としては
自らが金字塔となったエイリアンパニック要素が多く
グロさは目を引くけど、格段の目新しさはない。

ラストの「ええ!」も読めてしまうんですけど

ただ、こうやって振り返ると
改めて
並み居る監督を創造してきた
「エイリアン」シリーズってすごいし

あの衝撃には約40年越しの魅力があるんですよね。

この続きもあるそうで
やっぱり観ると思います(笑)


★9/16(土)から全国で公開。

「エイリアン:コヴェナント」公式サイト
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あさがくるまえに

2017-09-16 12:55:58 | あ行

映画は予想と違うことがまた
おもしろい。


「あさがくるまえに」70点★★★★


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フランス、ル・アーブル。

夜明け前、眠るガールフレンドの横をそっと抜けだして
友人たちとサーフィンに出かけた
少年シモン(ギャバン・ヴェルデ)。

だが、シモンはそのまま
戻ってくることはなかった。

シモンの両親は病院で
白衣のトマ(タヒール・ラヒム)から
ある選択を提案される――。


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夜明け前、
サーフィンに出かけて行った少年が
帰らぬ人となる。

そこから、なにが、どう展開するのか。

たとえば
「そうならなかった」パラレルワールドを見せるとか
少年が彼を想う人たちのところへ姿を見せる
スーパーナチュラルものとか

なんとなーくそんなイメージを想像していた
ワシの陳腐な脳みそを
ポコン!、と叩かれたような感じでした(苦笑)


たしかに
瑞々しさやリリカルさはイメージどおり。
でもどこか夢と現実のあわいのような感覚もあり

しかし、起こるできごとは「臓器移植」というリアルな問題で
その描写はくっきりとグロテスクでもある。

とにかく場面転換や
新しい登場人物の出現などが唐突なので、
「???」としばし翻弄され
やがて腑に落ちて落ち着いていく、ということの繰り返し。

その、寄せては返す波のような感覚に
だんだんハマっていきました。


1980年、コートジボワール生まれの
フランス人、カテル・キレヴェレ監督は
ガス・ヴァン・サントの映画が好きなんだそう。

なるほど~
なんだかわかる気がする。


★9/16(土)からヒューマントラスト渋谷ほか全国順次公開。

「あさがくるまえに」公式サイト
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笑う故郷

2017-09-14 23:42:28 | わ行

「ル・コルビュジエの家」監督作。
やっぱりこのコンビ、おもしろい!


「笑う故郷」71点★★★★


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アルゼンチンの作家ダニエル(オスカル・マルティネス)は
ノーベル文学賞に輝いた有名人物。

しかし、それから5年たっても
彼は1本も新作を発表できずにいた。

そんなダニエルに故郷の小さな町から
「名誉市民にしたいので、ぜひ式典に出席して!」と知らせがくる。

すべての招待を断っているダニエルだが
ふと、40年ぶりに故郷に帰ってみる気になる。

だが
そこで彼を待ち受けていたものは――?!


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故郷を捨てたノーベル賞作家が
40年ぶりに帰郷することで
巻き起こる騒動を描いた作品。


「ル・コルビュジエの家」監督コンビで
あの映画、めっさおもしろかったんで期待していましたが
期待どおりでした。

この、人の心を遠慮なく描くズケズケさ(笑)。


誰もがルーツという重さから逃れることはできない、ということを描いてもいて
昨日の「サーミの血」
微妙に被るところも、興味深い。

そして
「あ~あるある、こういうこと」「あ~いるいる、こういう人」という
描写力が優れているんですねえ。


故郷を捨てて成功した
皮肉屋で反骨な主人公ダニエルに
正直、序盤はなかなかノレなかったんですが
中盤~後半、グンとおもしろさが加速する。

というのも
明らかに高慢でイヤな男なダニエルと
彼を「名誉市民」と崇める無邪気な地元の人々の構図が
映画が進むにつれて次第に変化をきたしていくんですね。


「久しぶりに帰ると、なーんかやっぱり故郷っていいよな」とか
一瞬思う気持ちが

地元の人々の粗野で“文化的でない”さまに触れて
「ああ、やっぱり……」となる(苦笑)
視点の肩入れ具合が逆転するんですよ。

「ブルックリン」のシアーシャ・ローナンをすごく思い出したけど
自分自身を振り返っても、なんか共感できるというか(笑)

故郷、田舎との複雑な関係、感情を
この映画はうまく突きつけてくる。

ただ、さらに、この映画には笑いがあるんです。
そこがいい。

主人公のかっこ悪さを笑うもよし、
そこにかつての自分を見て失笑するもよし。

故郷って、ルーツってなんだろう?と
いろいろ思ってしまうのでした。


★9/16(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「笑う故郷」公式サイト
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サーミの血

2017-09-12 23:10:42 | さ行

この圧倒的な重さはなんだ。


「サーミの血」77点★★★★


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老年の女性クリスティーナ(マイ=ドリス・リンピ)は
孫娘と息子とともに
スウェーデン北部にある故郷での
妹の葬儀に向っている。

かつて捨てた故郷へ戻るのは
50年、いや60年ぶりにでもなるだろうか。

だがクリスティーナはいまも
そこへ戻ることへ、強い拒否反応を示す。

いったい
何があったのか――?!

そして彼女は1930年代、
その場所に暮らしていたころを思い出し始める――。


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北欧スウェーデン北部ラップランドに暮らす
先住民族サーミ人。

1930年代、「劣った民族」として差別的な扱いを受け
進学も許されない環境にあったサーミの少女が
なんとかそこから出たいともがく物語で

自身もサーミの血を引く監督が
サーミ人の少女を主演に描いており
「この圧倒的な重さはなんだ!」とうなります。


1930年代、サーミ人の少女エレは
周りに「粗野で野蛮」と差別され

学校で「進学したい」と願っても
先生から「あなたたちの脳は、文明に対応できないの」と酷いことを言われる。

そんな彼女が村の夜祭りで出会った
スウェーデン人の青年に恋をし

外界との糸になるかもしれない
彼にかすかな望みをたくす、その心理描写の細やかさ!

彼の上着のポケットに
そっと、ためらいつつ、乞うように触れる仕草も
うっ……締め付けれます。

ラップランドといえば
トナカイや広大な自然、というイメージで
実際そこには美しい自然の風景があるはずなのに

映されるのは激しい怒りやもがきを内に秘めた
少女のアップばかり。

その透明で、熱い表情に
胸が苦しくなる。


主演のレーネ=セシリア・スパルロクは、実際にサーミ人として暮らす少女。
強い瞳、熱い表情が
めちゃくちゃ印象的だけど

今後も地元でトナカイを飼育する生活を続けていく、と話している。

冒頭の現代の描写を鑑みつつ、
実際、彼女のこれからは、サーミの現状は
どうなんだろう、と考えてしまいました。


★9/16(土)から新宿武蔵野館、渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「サーミの血」公式サイト
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オン・ザ・ミルキー・ロード

2017-09-11 22:36:46 | あ行

ものすんごいエネルギーに圧倒されます。
それも“土着”な感じの。


「オン・ザ・ミルキー・ロード」71点★★★★


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隣国と戦争中の、ある国。

コスタ(エミール・クストリッツァ)は
激しい銃弾をかわしながら

ロバに乗って戦線の兵士たちに
ミルクを届ける村の配達係だ。

あるとき
村の英雄である兵士の妻として
絶世の美女(モニカ・ベルッチ)がやってくる。

コスタと彼女は一目会ったときから
惹かれ合うものを感じるのだが――?!


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「黒猫・白猫」(98年)などで知られ
世界の名だたるツウ人のリスペクトを受ける

サラエヴォ出身のエミール・クストリッツァ監督による
9年ぶりの長編劇作品です。


監督が主人公を務め、
戦火の村を舞台に
動物と兵士と生と死がロンドを踊る……といった感じで
とにかく、もんのすごいエネルギー。

なんのための戦争か、いつ終わるかもわからず
爆撃にさらされている村でも
人々はいつもの暮らしを生きている。

そのシュールさに、なんともいえない感覚がこみあげます。

この感覚は
監督の出自に、ものすごく関係しているのでしょう。


映画のすべてが
目が回るほど強烈で
残酷で、絵画的で、しかしファンタジーなどではない。

すべてが現実への
痛烈な訓戒だと感じる、そこがすごい。

もっとストーリーのない話かな、と思ったけど
いやいや、そんなことはなく

すごくしっかりした
ラブストーリーでもありました。

ムリクリ見て、頭をかしげるようなものでもなく
見て、感じるものはみな同じだと思う。


監督が持つ
自然、土、そこに生きる動物たちへの畏敬を感じ
すべてとガチで触れ合って生きてきた感も
ありありとわかる……んですが

ゆえにギョッとするシーンもある。

最後の「動物一匹も殺してません」のクレジットに
「ホントかよ……」と思わず疑ってしまうほどですが(苦笑)
まあホントなんでしょう。


★9/15(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「オン・ザ・ミルキー・ロード」公式サイト
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