BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

月夜ノユカラ 第1話

2024年01月03日 | FLESH&BLOOD 平安パラレル二次創作小説「月夜ノユカラ」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。



その日、一人の女が珠の様に美しい男児を産んだ。
その赤子は、炎のように赤い髪をしていた。

女は、男児に“海斗”と名付け、彼を姫君として育てる事にした。

「母上、どうしてわたしは男なのに母上と同じ女物の衣を着ているのですか?」
「お前を、守る為なのですよ。」
女は、海斗が三歳の頃に多くの事を語らずに亡くなった。
母亡き後、海斗は継母である友恵に育てられた。
「あの女は、最後の最後まで厄介なものを残していったわね。」
友恵はそう言いながらも、母を亡くした海斗をまるで実の子の様に溺愛した。
というのも、彼女は女児を切望していたのだが、己の腕に娘を抱く事は叶わなかった。
だから、側室の子が男だと知っていても、その子を姫君として育てた。
海斗は、継母の元で愛情深く育てられた。
彼は己の出生の秘密など知らずに、何不自由ない生活を送っていた。
“あの日”が来るまでは。
その日、海斗は友恵から箏を習っていた。
「そう、上手よ。」
海斗は箏を弾いていると、弦で爪を傷つけてしまった。
「まぁ、大変!傷口を見せて!」
友恵がそう言って海斗の爪を見ると、既に傷口は塞がっていた。
「母上?」
「近寄らないで、化物!」
金切り声を上げて自分を恐怖の目で見つめている友恵から冷たく拒絶された海斗は、この時自分が“普通”ではない事を知ったのだった。
そんなある日の事、海斗は離れを抜け出して、近くにある泉で水浴びをした。
冷たい水に浸かると、夏の茹だるような暑さが凌げるような気がした。
「暑いなぁ、こう毎日暑いと死にそうだ。」
「まぁ東宮様、いけません!」
ばしゃんという水音と共に、一人の少年が泉の中で飛び込んで来た。
輝くような金髪碧眼の少年は、悲鳴を上げて後ずさる海斗を見た。
「へぇ、可愛い天女ちゃんが居るなんて、知らなかったな。」
「嫌だ、来るな~!」
海斗はそう叫ぶと、少年の頬を平手打ちし、泉から去った。
だが髪を濡らしたまま帰って来てしまったので、風邪をひいてしまった。
「もう、しょうがないわね。」
「ごめんなさい、母上。」
「謝らなくてもいいわ。」
友恵はそう言うと、海斗の頭を撫で、局から出て行った。
「東宮様、どうなさったのですか?少しぼうっとしているようですが・・」
「いやぁ、泉で会った赤毛の天女の事が気になってなぁ。」
「東宮様、もうお休みになってください。」
「わかったよ。」
幾度も季節が巡り、海斗は東郷右大臣家の“鬼姫”として、その名を轟かせていた。
(鬼姫、か・・)
誰もが皆、自分の事を“鬼姫”と呼ぶのは、この赤い髪の所為だと、海斗もわかっていた。
人は、己と異なる者を排除するのは、ごく自然の事だと解っていても、辛い。
使用人と友恵以外訪れる者が居ない離れで、海斗は実母の形見である箏を弾いていた。
(母上・・俺の亡くなった母上は、何ひとつ教えてくれなかった。この髪と、身体の事も全て・・)
一体、自分は何者なのか。
そう思いながら海斗が箏を弾いていると、外から龍笛の音色が聞こえた。
(何だ?)
屋敷の外で、自分の音色を気に入ってくれた誰かが、龍笛を吹いてくれたのだろうか。
独りで弾く箏は虚しさを感じたが、突然聞こえて来た龍笛の音色に、海斗の心は癒された。
その龍笛の持ち主、ビセンテ=デ=サンティリャーナは、噂の“鬼姫”を、一目見ようと東郷右大臣家を訪れた。
風に乗って流れる箏の音色に導かれるようにして、御簾の向こうからビセンテは“鬼姫”を垣間見た。
“鬼姫”は、ビセンテが想像していたような、頭に角など生えておらず、赤い髪を持ったまだ幼さが残る美しい姫君だった。
「そこに居るのは、誰?」
「恐がらなくていい、わたしはあなたの味方だ。」
“鬼姫”―海斗は、恐る恐る御簾の裾を捲り上げ、自分の前に立っている男を見つめた。
彼は、美しい緑の瞳をしていた。
「あなたは、誰?」
「わたしはビセンテ。あなたの美しい箏の音色に誘われ、あなたに会いに来た。」
「そう・・“鬼姫”を見た感想は?」
「あなたは、鬼ではありません。あなたは、美しい。」
「ねぇビセンテ、明日も来てくれる?」
「あなたの為ならば、毎日参りましょう。」
こうして、ささやかでありながらも、海斗とビセンテの交流が始まった。
「入内、ですか?」
「ええ。あなたにとっては名誉な事ですよ。」
「そんな・・」
「帝直々のご命令ですよ、海斗。」
「はい・・」

海斗の入内が決まり、東郷家は俄かに慌しくなった。

「ねぇ見た、海斗様のお道具類?」
「えぇ、見たわよ!みんな美しい一流品ばかり!」
「何と言っても、北の方様は実の子ではないにせよ、海斗様を溺愛なさっておられるのよ。」
「まぁ、そうね。」
女房達がそんな事を渡殿で話しているのを海斗は聞きながら、深い溜息を吐いた。
(入内なんて考えもしなかった。ここで一生過ごしてゆくのだと思っていたのに・・)
箏を弾きながら、海斗は毎晩中庭で龍笛を奏でてくれたビセンテの事を想った。
海斗の入内が決まってから、彼は海斗に会いに来なくなった。
(俺の事、もう忘れちゃったのかな?)
海斗がそんな事を思っていると、一匹の猫が部屋に迷い込んで来た。
「お前、どうしたの?」
猫は白と黒の斑模様をしていて、海斗に抱き上げられると嬉しそうな声で鳴いた。
「可愛いなぁ・・」
猫を撫でていると、海斗は癒された。
(さてと、もう寝ようかな。)
猫を抱きながら、海斗は眠った。
同じ頃、ビセンテは東郷家の姫が入内するという話を聞いた。
「それは、本当なのですか?」
「あぁ、間違いない。」
(カイトの幸せを願うのなら、身を引いた方がいいのだろう。)
そう思ったビセンテは、海斗の元へ通うのをやめた。
「ビセンテ、お前に縁談がある。」
「縁談ですか?」
「あぁ。そなたも良い年だ、そろそろ身を固めてもよかろう?」
「はぁ・・」
ビセンテは、結婚願望は全くないが、世の女性達は彼の事を放っておかないらしく、時折ビセンテ宛の恋文が山程送られてくる。
「一度だけでも、会ってみるといい。」
「はい・・」
こうして、ビセンテは縁談相手の姫君と会う事になった。
姫君は、海斗と同い年だった。
「ビセンテ様は、龍笛を嗜まれるとか。一曲、わたくしに聞かせて頂きたいものですわ。」
「申し訳ございません、わたくしの拙い龍笛では、あなた様の御心を癒す事は出来ません。」
あの龍笛の音を、海斗以外の者には聴かせたくなかった。
だから、ビセンテは咄嗟に姫君に対して嘘を吐いた。
だが姫君は、ビセンテの嘘に気づかなかった。
縁談が終わり、ビセンテは帰りの牛車の中で溜息を吐いた。
龍笛を入れた笛袋を懐から取り出したビセンテは、その贈り主の事を想った。
『これ・・気に入ってくれたらいいけれど。』
そう言って頬を赤く染めながら自分に笛袋を渡してくれた海斗の顔を、ビセンテは忘れる事が出来なかった。
「何を考えているのだ、ビセンテ?」
「いいえ、何も。」
「かの鬼姫の事を、未だに想っておるのか?」
「それは・・」
「鬼姫の事は忘れてしまえ。その方が良いのだ。」
牛車の窓から見える月は、海斗の髪の様に赤かった。
「不吉な月じゃ。」
「主上、東郷家の姫君が入内されるというのは本当ですの?」
「どうした、ラウル?」
「いいえ、ただ興味が湧きましたの。」
帝にしなだれかかりながら、ラウル=デ=トレドは笑い出した。
「案ずるな、ラウル。余はそなたしか見ておらぬ。」
「まぁ、嬉しい事。」
帝の節くれだった手が、ラウルの胸をまさぐり始めた。
「いけません、主上・・東宮様に見られたら・・」
「別に、あやつの事など知った事か。」
「酷い方・・」
(クソ、吐き気がするぜ。あんな奴と血が繋がっているかと思うと・・)
御簾の中から漏れ聞こえて来る父親とその愛妾の嬌声を聞きながら、東宮―ジェフリーは舌打ちした。
烏帽子を脱ぎ、乱暴に結っていた髪を解くと、金色の絹糸のような髪がさらさらと夜風に揺れた。
元服してから、ジェフリーは政務に忙殺されながらも、気が合う仲間達と酒を酌み交わしたり、“仕事”に励んだりしていた。
しかし、いつもジェフリーの心は、満たされなかった。
父である帝は自分を蔑ろにし、母は三歳の時に亡くなり、実母のように自分を愛してくれた乳母は、床に臥せっている。
目を閉じると、ジェフリーの脳裏にはあの燃えるような緋い髪が浮かんだ。
あのうだるような暑い夏の日、ジェフリーは親友のナイジェルと共に泉で水浴びをしていた。
すると、そこには可愛らしい先客が居た。
「まぁ東宮様、いけません!」
いつの間にか自分を追い掛けて来た乳母の手をするりと躱し、ジェフリーは泉の中へと勢いよく飛び込んだ。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げて後ずさった天女は、男だった。
「へぇ、可愛い天女ちゃんが居たとは知らなかったぜ。」
「嫌だ、来るな~!」
赤毛の天女に拒絶され、乳母からは叱られてしまい、その日は散々な日となった。
だが、あの時出会ったあの天女の存在は、ジェフリーの中で何年経っても消えなかった。
(もしもう一度会えるとしたら・・俺はその手を離さない。)
東郷家の門から、海斗を乗せた豪華な牛車が出て来ると、沿道に居た者達はその豪華さに思わず足を止めた。
―あの中に、“鬼姫”が?
―どんな顔をしているんだ?
―衣は上等なものだが、きっと持ち主は醜女なんだろうよ。
(みんな好き勝手な事を言いやがって・・)
噂とは、勝手に大きくなるもの。
言わせたい奴には、言わせておけばいい―そう思って入内した海斗だったが、その考えが甘い事をすぐに思い知った。
「お前が噂の鬼姫?」
弘徽殿女御に挨拶を終えた後、海斗が局で自分の荷物を片づけていると、そこへ一人の女性がやって来た。
最初は何処かの女御に仕えている女房だと思ったが、それにしては態度が偉そうだった。
「あの・・」
「まぁ、ラウル様!」
「申し訳ございません、わたくしの女房が何か失礼な事をなさいましたか?」
弘徽殿女御がこれほどまでに怯える相手とは、彼女より身分が高い相手なのだろうか。
「女房の躾をなさい、中宮様。新参者だからといって甘やかしては、弘徽殿の名誉に関わりますよ。」
「は、はい!」
「あの、あの方は・・」
「ラウル=デ=トレド様、主上のご寵愛を一身に受けていらっしゃる方よ。」
「そうでしたか・・」
「あの方には気をつけなさい。あの方に目をつけられたら、宮中には居られなくなるわよ。」

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