BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

白日 第一話

2024年04月23日 | 薄桜鬼 昼ドラ時代ハーレクインパラレル二次創作小説「白日」
「薄桜鬼」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は読まないでください。

「先生、さようなら~」
「気を付けて帰れよ。」
「は~い。」
一人、また一人と、子供達が教室から去っていった。
「入るぞ。」
中から返事はないが、元新選組副長・土方歳三は、そう言って妻の部屋へと入っていった。
布団の中に居る彼女の目は虚ろで、夫が部屋に入っても全く気付かなかった。
「今日は、身体の調子が良さそうだな。」
「・・はい。」
たった一言。
その一言が、歳三にとって何よりも嬉しかった。
「買い出しに行って来る。」
「お気をつけて。」
「すぐに、帰って来る。」
妻・千鶴を抱き締め部屋から出た後、歳三は自宅を出て、町へと向かった。
「あら先生、いらっしゃい。はい、いつもの。」
「済まねぇな。」
「いいの、いいの。奥さん、早く良くなるといいわね。」
「ええ・・」
千鶴の薬を手に歳三が薬局から出ると、簪や櫛などを売っている店の中へと入った。
「いらっしゃい。」
店には、季節の花をあしらった愛らしい簪や櫛などが店先に飾られていた。
その中で一際歳三の目をひいたのは、美しい刺繍を施されたリボンだった。
「これをひとつくれ。」
「はいよ。」
歳三は小間物屋から出ると、ある場所へと向かった。
そこは、高台で箱館の街が一望できるお屋敷街だった。
かつて外国人居留地として栄えていたが、戊辰の戦で新政府軍が箱館に総攻撃するという噂が広まり、居留地の住民達はそれぞれ母国へと避難した。
戦が終わり、外国人居留地だった所は、明治となって北海道へと移り住み、財を成した者達が住んでいた。
その中にある、美しい白亜の邸宅の前へと歳三は立った。
二階の飾り窓の隙間から一人の少女の姿が見えた。
彼女は、美しい黒髪を三つ編みにして、自分と同じ色の瞳で窓の外を見ていた。
歳三は、彼女と目が合うとそっと手を握った。
すると、少女も手を振り返して来た。
「お嬢様、もうお休みになりませんと。」
「わかったわ・・」
そう言って少女が飾り窓から外の方を見ると、邸宅の前に居た男の人は、いつの間にか居なくなっていた。
「お帰りなさいませ、旦那様。奥様は、もうお休みになられておりますよ。」
「そうか。」
「では、わたくしはこれで失礼致します。」
千鶴の世話をしてくれる女中が帰った後、歳三は書斎であの少女への手紙をしたためていた。
「あら、あなたは・・」
「朝早くに申し訳ありません。これを、お嬢様に渡して下さい。」
「はい、わかりました。」
「では、わたしはこれで失礼致します。」
歳三はそう言ってあの邸宅の女中にあの少女に宛てた手紙を手渡した。
「お嬢様、おはようございます。」
「おはよう。」
「お嬢様に、お手紙です。」
「ありがとう。」

少女が女中から歳三の手紙を受け取ると、そこには一行だけ、彼女への言葉が書かれていた。

“誕生日おめでとう。”


「ねぇばあや、わたしに手紙を送って来た人は誰なの?」
「旦那様と奥様のお知り合いだという事以外、存じ上げません。」
「そうなの。」
「さぁ、出来ましたよ。」
「ありがとう。」
少女―歳三と千鶴の娘・結は、紫のリボンを飾った自分の姿を鏡で見た後満足そうに笑った。
「結、おはよう。」
「おはようございます、お父様、お母様。」
「そのリボン、良く似合っているわよ。」
「ありがとうございます。」
「今日もお勉強、頑張っていらっしゃい。」
「はい!」
“両親”に玄関先で見送られながら、結は馬車で小学校へと向かった。
その途中、彼女は馬車の窓から昨夜自宅の近くに居た男を雑踏の中で見かけた。
「止めて!」
「お嬢様?」
馬車から飛び降りた結はすぐさま男の姿を探したが、彼は何処にも居なかった。
「お嬢様、どうかなさいました?」
「何でもないわ。ごめんなさい、迷惑を掛けてしまって・・」
「いいえ。さぁ、参りましょう。学校に遅れてしまいますよ!」
「ええ、わかったわ。」
結が乗った馬車を、歳三は静かに物陰から見送っていた。
「まぁ、誰かと思ったら、雪村の旦那じゃないか。」
背後から声を掛けられて歳三が振り向くと、そこには呉服屋の妾・鈴子が居た。
「てめぇ、俺に何か用か?」
「そうとがんないでくれよ。あたし、妙な噂を聞いちまってさぁ・・」
「妙な噂?」
「最近、この辺りで銀髪の化物が女の生き血を啜っているって話さ。」
「へぇ・・」
「まぁ、その化物に奥さんが襲われないように気をつけなよ?」
「お前に言われなくても、わかってらぁ!」
「おお、こわい。」
鈴子はけたたましい笑い声を上げながら、足早にその場から去っていった。
(ったく、気味が悪い女だぜ・・)
歳三がそんな事を思いながら町を歩いていると、背後から鋭い視線を感じた。
「おい、そこに居るのはわかっているんだ、出て来い!」
「ちぇっ、バレちまったか。」
舌打ちしながら現れた少年は、ボリボリと頭を掻いた。
年の頃は十七、八といったところだろうか、まさに弊衣蓬髪そのもので、乱れた髪からはしきりに雲脂が粉雪のように舞い散り、彼の肌は垢で黒くなり悪臭を漂わせていた。
「てめぇ、何の用だ?まずはてめぇの名を名乗りやがれ!」
「俺は孫市。あんたが、京でその名を轟かせた、“鬼副長”様かい?」
「何者だてめぇ!」
「会えて嬉しかったぜ、じゃぁな。」
少年はそう言うと、風のように去っていった。
(何だったんだ、あいつ・・)
「先生、こんにちは。ねぇ孫市っていう奴知っているかい?」
「あぁ、さっき会った。そいつがどうしたんだ?」
「いやぁ、どうもあいつは、旧幕府軍の敗残兵みたいでね。生まれは元々江戸かどこかだったみたいでさぁ・・まぁ帰る所がなくて町外れの掘っ立て小屋に住んでいるよ。余り関わらない方が良いよ。」
「・・わかった。」
「はいこれ、いつもの。」
「ありがとう。」
歳三が帰宅して家事に精を出している頃、箱館にある遊郭“鶴亀楼”の支度部屋に、あの少年―孫市の姿があった。
「ふぅん、あの浮浪児が、こんなに化けるなんて、びっくりしたよ。」
すっと襖が開いたかと思うと、美しいうちかけを纏った遊女が部屋に入って来た。
「うるさい、出て行け。」
「随分な口の利き方だね。行き倒れ寸前になっていたあんたを拾ってやったのが誰だか忘れたのかい?」
「あぁ・・」
「わかればいいのさ。さぁ、これから夜見世だ。恩返しのつもりで働くんだよ、いいね?」
「わかった。」
「じゃぁ、支度が終わったらすぐに座敷へ来な、わかったね?」
女はそう言うと、部屋から出て行った。
「フン、お高くとまりやがって。てめぇだって元は捨て子だった癖に。」
 孫市はそう吐き捨てるような口調で言うと、紅を唇に塗った。
「さぁて、ひと仕事しようかね。」
髪に挿した簪をシャラシャラと揺らしながら、彼は支度部屋から出て行った。
「おや乙鶴、久しいね。」
「旦那様、お会いしとうございました。」
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