BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

紺碧の彼方へ ◇1◇

2023年12月09日 | FLESH&BLOOD 昼ドラ転生パラレル二次創作小説「紺碧の彼方へ」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

―カイト。

何処からか、ジェフリーの声が聞こえる。
(あぁ、俺はジェフリーと一緒に帰って来たんだ・・)
ジェフリーの手を握ろうとした時、海斗は甘い夢から覚めた。
彼が居るのは、グローリア号の船長室ではなく、何処かの貴族の寝室だった。
「目が覚めたみたいだね?」
頭上から突然声が降って来て海斗が俯いていた顔を上げると、そこにはラウル=デ=トレドの姿があった。
「どうして・・」
「君をスペインから連れて来るのには骨が折れたよ。サンティリャーナ殿も、ロックフォード船長も躍起になって君を取り戻そうとしたけれど、結局はわたしが勝ったという訳だ。」
ラウルの言葉を聞いた海斗は、自分が何故フランドルに居るのかを思い出した。
あの日―パストラーナからスペインへと脱出しようとした海斗達だったが、ラウルの息がかかった者の手により、海斗は阿片入りのブランデーを飲まされ、そのままフランドルへと連れて行かれたのだった。
(ジェフリーは、無事なのかな?)
「安心おし、ロックフォード船長は殺さないでおいたよ。わたしは君さえ手に入ればどうでもいいからね。」
ラウルはそう言うと、寝室から出て行った。
(俺、これからどうなるの?ラウルの事だから、利用するだけ利用して俺を殺すのかもしれない。)
一人になった海斗は、そんな事を思いながら寝台の中で寝返りを打っていると、寝室にヤンが入って来た。
『逃げられなかったんだな。』
『うん・・後少しで、逃げられそうだったんだけれど・・詰めが甘かった。』
『そうか。顔色が少し悪そうだが・・』
『それ以上近寄らないで、肺病がうつる!』
『サンティリャーナが、お前を手放した理由がわかったよ。』
ヤンは少し悲しそうな顔をしてそう言った後、ある物を海斗に手渡した。
それは、真珠のボタンが使われた黒い天鵞絨の服だった。
『ラウルは、今出掛けている。あいつは色々と忙しいからな。』
『俺をここから逃がして、あなたは大丈夫なの?』
『ああ。』
こうして、海斗はヤンに助けられながら、フランドルから脱出し、パリへと向かった。
「へぇ、あの子が逃げた?」
「驚かないんだな。」
「あの子が逃げ出してしまう事など、わたしの想定内さ。それに、パリではわたしの息がかかった者が既に動いている。どう足掻いても、あの子はわたしから逃げられないのさ。」
海斗は、苦しそうに咳込みながら、パリの街を歩いていた。
ヤンから、フランドルを脱出した際に手渡された黒いマントを目深に被ると、彼はアルトヴィッチの屋敷へと向かった。
(大丈夫、上手くいく。)
アルトヴィッチの屋敷まであと数歩という所で、海斗は激しく咳込み、その場に蹲った。
(まだ、倒れる訳にはいかない。)
何とか呼吸を整え、起き上がり歩き出そうとした海斗だったが、路地裏に潜んでいたラウルの仲間によって彼は阿片が染み込んだハンカチを口に押し当てられた。
「君はいつも詰めが甘いねぇ・・わたしが苦労して手に入れた金の卵を、簡単に手放すと思うかい?」
ラウルはそう言うと、自分を睨んでいる海斗を見て笑った。
「さぁ、支度をしてわたしと共にネーデルラント総督府へ行くよ。ヤン、お前もついておいで。」
「あぁ、わかった。」
ネーデルラント総督府に着いた時、海斗はまるで生ける屍のようだった。
「総督閣下、スペインから奪還した稀代の予言者、カイトでございます。」
「ほぉ・・おもてを上げよ。」
「はい・・」
海斗が被っていた黒いマントを脱いで俯いている顔を上げると、そこには厳つい顔をした男が座っていた。
「見事な赤毛だ。」
「閣下、カイトは体調が崩れませぬ故、用件は手短にお願い致します。」
「わかった。」
総督府での“予言”は、海斗を心身共に疲弊させた。
やがて、海斗は肺病が悪化し、寝たきりになってしまった。
ラウルは海斗が逃亡するおそれがないと判断したのか、海斗に手出しをしなかった。
「ヤン、後は頼んだよ。」
「あぁ。」
ヤンが海斗の寝室に入ると、彼は寝台の天蓋を引き裂きロープ代わりにして窓から逃げようとしていた。
「何をしているんだ?」
「見ればわかるでしょう。」
「やめろ、死にたいのか!」
ヤンが海斗を止めようとすると、彼は激しく咳込みながらこう叫んだ。
「止めないで、俺はもうすぐ死ぬんだから、最期に好きな事位させてよ!」
ラウルは海斗を見縊っていた。
彼は決して諦めていなかった。
死の淵に立とうとも、彼は恋人の元へと―イングランドへと戻ろうとしていた。
「そう、あの子がね・・」
ラウルはそう言うと、ワインを一口飲んだ。
「坊やをどうするつもりだ?」
「あの子をこのまま閉じ込めるのは良くないから、海へ連れて行く事にするよ。メディナ=シドーニア閣下にもあの子を会わせたいしねぇ。」
ラウルは黄金色の瞳を光らせ、ヤンを見た。
「お前はどう思う?」
「別に。」
死ぬ前に海を見せてやれたら、海斗の気が少しは晴れるだろうか―ヤンは、そんな事を思いながらかつての仲間達に想いを馳せていた。
その頃、海斗奪還に失敗したジェフリーは、朝から浴びるように酒を飲んでいた。
「お頭・・」
「ルーファス、酒は?」
「それが・・」
「いい加減にしろ、ジェフリー。」

ナイジェルはそう言うと、ジェフリーの手から酒瓶を取り上げた。


「飲んで、忘れたいんだ。」
「あんたがそんな風になっていると、海斗がもし知ったら・・」
「あいつの事を言うな!」
ジェフリーはそう怒鳴ると、ナイジェルに殴りかかったが、その拳は空を切るだけだった。
「カイトを失って、悲しんでいるのはあんただけだと思っているのか?」
「ナイジェル・・」
その時気づいたのだ、ナイジェルが涙に濡れた灰青色の瞳で自分を見つめている事に。
(俺は、何て馬鹿なんだ・・)
カイトを失った悲しみから酒に溺れ、船長としての役目を忘れかけていたジェフリーは、軽く目を擦った後、ナイジェルにこう言った。
「カイトは何としてでも取り戻す。」
「それでこそ、俺達の船長だ。」
(綺麗な星・・ジェフリー達もこの星を見ているのかな?)
海斗は、甲板で上空に輝く星に向かって手を伸ばした。
「カイト、ここに居たのか。」
「ヤン・・」
「早く船室へ戻れ、風邪をひくぞ。」
「わかった。」
海斗は、苦しそうに咳込みながら船室へと戻っていった。
(ジェフリー、会いたい・・)
目を閉じると、ジェフリーの笑顔が目蓋の裏に浮かんで来る。
だが、目を開けると辛い現実が―ジェフリーが居ない現実が海斗に突きつけられる。
ラウルに利用され、このままジェフリーに会えずに死んでゆく。
(ジェフリー・・)
今頃、ジェフリーはどうしているのだろうか。
夢ではなく、一目だけでいいから会いたい。
あの宝石のような蒼い瞳に見つめられ、大きくて逞しい手に抱き締めて貰いたい。
「何を考えているの?」
背後から声がして振り返ると、海斗の前にはラウルが立っていた。
「可哀想に、そんなにジェフリーに会いたいの?」
「別に。」
「強がっても無駄だよ。まぁ、君の想い人には会わせないけれど、君に恋い焦がれている“彼”には会わせてあげるよ。」
ラウルが、誰の事を言っているのか海斗にはわかった。
(ビセンテ・・)
あの時、自分を逃がそうとしてくれた彼との再会の時は、すぐに訪れた。
「立てるか?」
「うん・・」
ヤンに支えられながら、海斗はビセンテが居る船へと移動した。
海斗の痩せ衰えた姿を見たビセンテは、緑の瞳に涙を溜めていた。
だが、彼は泣くのを堪えて、黙って海斗を抱き締めた。
「ヴィンセント・・」
「何も言うな。」
『カイト、お前、生きていたのか。』
ビセンテと離れた時、海斗は自分を見て蒼褪めたレオと目が合った。
『こんなに痩せちゃったけど。』
「レオ、カイトを船室へ・・」
海斗の病状は、日に日に悪化していった。
―カイト・・
苦しそうに息を吐きながら、海斗は静かに船室から出て砲弾飛び交う甲板へと向かった。
「カイト、船室へ戻るんだ!」
「ジェフリーが呼んでいる・・」
「カイト!」
砲撃の最中、海斗は確かに恋人の声を聞いた。
「ジェフリー、会えた・・」

神様、お願いです。

どうか、あの人をもう一度愛させて下さい。

どうか―

「あぁ、やっと起きたんですね。」
海斗が目を開けると、彼は何処かの港にあるベンチに座っていた。
(ここは・・)
周りを見渡すと、一隻の船が港に停泊していた。
その船は、まるであのタイタニックを思わせるかのようなものだった。
「あなたは?」
「わたしも、あなたと同じ船に乗る者ですよ。ここはね、転生する者が乗る船が停まっているんです。」
「そうなんですか?」
「ええ。でも、この船に乗る為には、ひとつ条件があるんです。」
「条件?」
「そう。あなたの大切な思い出を、このトランクに詰めるんです。」
そう言って青年は、海斗にトランクを一個手渡した。
いつの間にか海斗の前には、ジェフリー達と過ごした思い出が並べられていた。
「どうしよう、これじゃぁ全部詰められないよ。」
「それならば、少し置いていけばいいですよ。思い出は、あなたのここにありますから、大丈夫ですよ。」
青年はそう言って海斗に微笑むと、自分の胸を掌で叩いた。
遠くから汽笛の音が鳴り響き、港の近くに居た人々が次々と慌しく乗船の準備をしていた。
「さぁ、わたし達も行きましょうか。」
「うん・・」
海斗は、青年と共にトランクを持って港へと向かった。
船に乗り込む寸前、海斗は背後で強烈な視線を感じ、振り向こうとしたが、青年に止められた。
「決して振り向いてはいけませんよ。」
海斗は視線の端に、恨めしそうに光る淡褐色の瞳が映ったような気がした。
「ジェフリー!」
「カイト・・」
 船に乗り、海斗は吹き抜けの天井があるロビーでジェフリー達と再会した。
「あなたと、また会えるなんて・・」
そう言いながら、海斗の胸は刺すような痛みが広がった。
「そんな顔をするな、カイト。俺達は、いつかまだ何処かで会える。」
「本当?」
「ああ。」
ジェフリーがそう言って海斗を抱き締めると、そこへナイジェルがやって来た。
「カイト・・」
「ナイジェル・・」
「ジェフリー、もうすぐ俺達が降りる港に着くぞ。」
「わかった。」
ナイジェルは、ジェフリーの腕の中に居る海斗を見た。
「カイト、残念だがここでお別れだ。」
「一緒には行けないの?」
「あぁ。」
ナイジェルは、そっと海斗の髪を撫でた。
「この世界は、転生した者、あるいは転生する者は、同じ港で降りてはいけないんだ。」
「そう・・」
「カイト、何処に居ても、お前の魂を必ず見つけ出す。」
「信じているよ、メイト。」
「あぁ。」
海斗は、ボートに乗って船から離れてゆくジェフリー達に向かって手を振った。
「カイト、愛しているぞ!」
「俺も愛しているよ、ジェフリー!」
ジェフリー達が乗った船は、霧に包まれて見えなくなった。
「大丈夫、あなた達はまた結ばれますよ。」
背後から声がして海斗が振り向くと、そこには港で会った青年が立っていた。
彼の隣には、長身の男が立っていた。
「わたし達も、あなたの恋人と同じ港で降りるんです。」
「そうですか・・」
「会えて嬉しかったです。」
青年とその恋人を海斗は見送った後、別の港で船から降りる事になった。
「気をつけて。」
海斗が乗ったボートは、徐々にスピードを上げて港へと向かっていた。
あと少しで港に着こうとした時、ボートが激しく揺れ、水面から白い手が伸び、やがてそれはまるで蛇のように海斗の身体に巻き付いた。
「見つけたよ。」

海斗が意識を保っていたのは、そこまでだった。

海斗は、ゆっくりとベッドから起き上がると、浴室にある鏡で自分の顔を見た。

(酷い顔・・)

右目の下には、恋人から殴られた時に出来た痣があった。
その恋人は、出張に出掛けて数日間ここには戻って来ない。
逃げ出すなら、今だ―海斗は前もって逃亡資金として貯めていた金を洗面台の下から取り出すと、それを無造作にリュックの中へと突っ込んだ。
自分の私物はパスポートと鍵の形をしたネックレス以外、何もなかったので、すぐにまとめられた。
赤い髪が目立たないようにパーカーのフードを目深に被ると、まだ眠っている街を後にした。
「ジェフリー、起きろ!」
「ん・・」
ソファに寝転がったまま起きようとしない相棒に、ナイジェルは舌打ちしてスマートフォンのアラームを鳴らした。
「ナイジェル、驚かせるなよ。」
「もう昼過ぎだぞ、いつまで寝ているんだ!」
「お前の小言を聞くのは久しぶりだな、ナイジェル。」
「俺も、あんたの世話を焼くなんて思いもしなかったよ。」
ジェフリーとナイジェルは再会すると、『グローリア探偵事務所』を設立した。
海賊家業から探偵稼業への華やかな転身とはならなかったが、前世の頃とは比べて稼ぎは減ったものの、そこそこ裕福な暮らしを送っている。
「すいません、誰か居ませんか~!」
「何だ、うるさいな。」
ジェフリーがナイジェルのお手製の昼食を楽しもうとしていると、外から大きなノックの音が聞こえた。
「どうしましたか?」
「実は、恋人が行方不明なんです。」
「行方不明者なら、捜索願を警察に出されては?」
「それが・・」
依頼人の青年は、ナイジェルの言葉を受け、俯いた。
どうやら、彼には知られたくない事情があるようだ。
「どうぞ、中へ。」
「はい・・」
青年は、ジョンと名乗った。
「恋人が、昨日から行方不明なんです。」
「どうして、警察ではなくこちらへ依頼を?」
「それは・・」
ジョンは、両手を固く握りしめた後、それを小刻みに震わせた。
「とりあえず、恋人の写真を見せて下さい。」
「はい・・」
ジョンは、一枚の写真を二人に見せた。
そこに写っているのは、赤毛の少女がジョンと肩を抱き寄せて笑っている姿だった。
(カイト・・)
「失礼ですが、お仕事は?」
「営業です。昨日、彼女と喧嘩してしまって、そのまま出張に行って戻って来たら・・」
「そうですか。」
早速ジョンの依頼を受けたジェフリーとナイジェルは、海斗の職場であるレストランへと向かった。
「この子、彼氏に暴力振われているって聞いたわ。」
「本当ですか?」
「ほら、接客業だとお客さんに愛想よくするのは当たり前でしょう?それなのに、あいつはそれがわからなかったみたいで、肋骨を折られた事があったわね。」
海斗の同僚は、その事を二人に話した。
「ただいま。」
その日、遅番で職場のレストランから帰った海斗が自宅アパートの部屋に戻ると、奥からジョンがやって来た。
「遅かったな、浮気でもしていたのか?」
「違うよ、仕事で・・」
「嘘を吐くな!」
ジョンは、嫉妬深くて、些細な事で怒りを爆発させるような性格だった。
「早く別れたいって、零していたわ。でも、あいつが別れ話を切り出したら泣いて縋るって・・」
「聞けば聞く程、ムカつく話だ。よくも、俺達に向かって、“彼女が心配なんです”と抜かしやがって・・」
ナイジェルが吐き捨てるような口調でそう言った後、同僚の一人が次の言葉を継いだ。
「ジョンが結婚しようとカイトに迫ったけれど、カイトは別れたいって言っていたわ。そしたら、あいつは避妊してくれなかったって。」

ナイジェルは、ジョンが事務所に来た時にこう言っていたのを思い出した。

“彼女、妊娠しているんです。”

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