BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

雪の華 第三話

2024年01月04日 | FLESH&BLOOD 和風ファンタジー二次創作小説「雪の華」

「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「カイト、大丈夫か!?」
「うん・・」
ジェフリーは、海斗の左腕の傷口がすぐに塞がってゆくのを見た。
「すぐに、治るから。」
海斗はそう言いながらも、その顔は蒼褪めていた。
「カイト、しっかりしろ!」
「ジェフリー・・」

海斗は、ジェフリーの腕の中で気絶した。

―気味が悪い子ねぇ・・
―人ではなく、妖の血をひいているのでは?

東京で暮らしていた頃、海斗は使用人達が自分達の事をそう噂をしているのを何度か聞いた事があった。
海斗は、“鬼憑き”の力の他に、不思議な力を持っていた。
それは、常人より傷の回復能力が早い事だった。
幼い頃に一度、当時存命だった母方の祖母に薙刀の稽古をつけて貰った事があった。
その時、祖母の手元が狂い、海斗の額を稽古用の木刀で傷つけてしまった。
だが、海斗の額の傷口は、家族が手当てをしている間に塞がっていた。
「化物!」
友恵はそう叫び、気絶した。
その出来事以来、友恵は海斗を避けるようになった。
父・洋介は仕事人間で、家庭内の揉め事には無関心だった。
そんな中、海斗に縁談が来た。
相手は、洋介が懇意にしている伯爵の息子だった。
「君が、“鬼憑き”の娘か。」
彼はそう言った後、海斗に抱き着いた。
「やめて、放して!」
「うるさい、大人しくしろ、化物!」
海斗は男が自分を乱暴しようとしたので、己の身を守る為に髪に挿していた簪を抜いた。
「言ったでしょう、あの子は気が触れていると!」
「仕方ない、海斗には暫く療養させよう。」
こうして、海斗は函館へと追いやられたのだった。
はじめは、自分の話を家族が信じてくれなかった事に対する怒りや失望を抱きながら暮らしていた海斗だったが、家族と離れ気心が知れた使用人達と暮らす快適さを知り、今では東京の家族に対する愛情など何も感じなくなった。
それに、初めての一人暮らしは口煩い友恵に四六時中付きまとわれなくて済む。
「お嬢様、起きて下さいませ。」
「ん・・」
眠い目を擦り、海斗が目を開けると、そこには何の変哲もない自分の寝室だった。
(俺、どうして・・)
「静さん、俺・・」
「少しお熱が下がったようですね。」
「え・・」
「覚えていらっしゃらないのですか?お嬢様は碧血碑の近くで倒れていたのですよ。近くを通りかかった村人がこちらまで連れて来て下さったのですよ。」
「その村人って・・」
「金髪碧眼の、お綺麗な方でしたよ。」
「そう・・」
「さぁ、ゆっくり休んで下さい。後でお粥を持ってきますからね。」
東郷家の使用人・静は、そう言うと海斗の寝室を後にした。
「お待たせ致しました。」
「お嬢様の様子はどうだった?」
「お部屋でお休みになられています。」
「そうですか。いやぁ、この度は、こちらのお嬢様にご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「いいえ、こちらこそお嬢様を助けて下さりありがとうございます。」
「鬼除けの結界を張っておいたから、安心して下さい。」
「わかりました。」
静はジェフリー達に頭を下げると、屋敷を出て、ジェフリーが祀ってある神社に彼の好物であるミートパイを供えた。
「美味いなぁ。ナイジェル、お前も食うか?」
「俺はミートパイよりも、ニシンのパイの方が好きだ。」
「そうか。ナイジェル、今度うちに遊びに来ないか?ニシンのパイをご馳走してやる。」
「断る。」
「相変わらず、つれないなぁ。」
キットがそう言いながらミートパイを一口齧った時、雷鳴が轟いた。
「ひぇ、おっかねぇ」!」
「狐、我妻を何処へやった!?」
雷鳴と共に現れたのは、怒りの炎を宿した翠の瞳でジェフリー達を睨みつけているビセンテだった。
「やれやれ、しつこい男は嫌われるぜ?」
「抜かせ!」
ビセンテはそう叫ぶと、腰に帯びている太刀を抜いた。
「おいおい、こんな狭い所で暴れなさんな。」
「また来る。」
ビセンテはジェフリー達を睨むと、そのまま去っていった。
「もう来なくていいのになぁ。」
「確かに。」
キットがそう言いながら残りのミートパイに手を伸ばそうとすると、ナイジェルにその手を叩かれた。
「食い過ぎだ。」
「はぁ、腹一杯食べ過ぎた所為で眠くなって来た・・」
「じゃぁ、うちに泊まるか?」
「いいのか!?」
キットがそう言いながら鳶色の尻尾を振っていると、ナイジェルが彼の耳を引っ張った。
「泊まるなら俺の家にしろ。」
「え・・」
「寝込みを襲おうとしても無駄だぞ。うちには、“番犬”が居るからな。」
「番犬?」
「行けばわかる。」
上機嫌な様子でキットがナイジェルの家に行くと、そこには強面の料理人と鋭い牙を持つ巨大な黒い犬が主の帰りを待っていた。
「旦那、そちらの方は?」
「俺の客人だ。ジョー、済まないが・・」
「わかりやした。」
料理人はそう言ってジロリとキットを睨みつけた後、厨へと消えていった。
だが、黒い犬はキットに向かって唸っている。」
「ナイジェル、こいつを何とかしてくれぇ!」
「クー、ジョーの元へ行け。」

黒い犬はキットの足元に尿を掛けると、そのまま厨へと消えていった。

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雪の華 第二話

2024年01月04日 | FLESH&BLOOD 和風ファンタジー二次創作小説「雪の華」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「それ、どういう意味?」
「俺はお前が気に入った。また会おう、カイト。」
「何で、俺の名前を?」
「・・どうやら、覚えていないようだな。」
九尾の狐―ジェフリーは、そう言って笑うと、海斗の唇を塞いだ。
“大人になったら、ジェフリーのお嫁さんになる!”
海斗の脳裏に、幼い頃の記憶が甦った。
「もしかして、あなたは・・」
海斗がそう言って九尾の狐を見ようとしたが、そこには誰も居なかった。
(最近、疲れているかな、俺・・)
その日の夜、海斗は自室のベッドに寝転がって、あの九尾の狐の事を思いだしていた。
(あの人とは、昔会った事がある。でも、何処で・・)
考えている内に、海斗は眠ってしまった。
「こんな所に居たのか、ジェフリー。」
「誰かと思ったら、ナイジェルか。」
金髪を夜風に揺らしながら、ジェフリーが一人酒を飲んでいると、同族で親友のナイジェルがやって来た。
彼は金髪碧眼が多い妖狐の中で珍しい黒褐色の妖狐だった。
ナイジェルは、私生児である事と、その珍しい毛色であるという事を理由に一族から迫害されていた。
ジェフリーだけが、ナイジェルの味方だった。
妖狐の中でも地位が高い家柄に生まれ、何不自由ない生活を送っていたジェフリーだったが、ナイジェルと友人になった所為で一族を追放され、こんな廃墟同然の神社を押し付けられたのだった。
だが、ジェフリーは一族の権力争いから逃れ、悠々自適な生活を送っていた。
「それにしても、ここは酷い臭いがするな。」
「滅多な事を言うな、何処で誰が聞いているのかわからないからな。」
「そうだった。」
「あいよ、お待ちどうさん。」
そう言って店の親爺がジェフリーの前に差し出したのは、油揚げが乗った蕎麦だった。
「お前もどうだ?ここの蕎麦は絶品だぞ。」
「俺が以前、蕎麦を食べて死にかけたのをあんた、もう忘れたのか?」
「そうだったな。親爺、きつね饂飩ひとつ。」
「あいよ!」
「それにしても、最近鬼がこの界隈で出没しているらしい。」
「へぇ・・」
ジェフリーが油揚げを食べていると、そこへ一人の男がやって来た。
「よぉ、二人共、こんな所に居たのか!」
「何をしに来た、キット。」
鳶色の髪をなびかせた一匹の妖狐に、ナイジェルは氷のように冷たい視線を送った。
キットことクリストファー=マーロウは、一族の“変わり者”で、劇作家だった。
キットは脚本のネタ探しの為に、時折人の世界にやって来るのだった。
「鬼が、最近嫁探しをしているそうだ。」
「へぇ、そうか。で、その鬼はどんな顔をしている?」
「黒髪に緑の瞳をした、美貌の持ち主だそうだ。そういやジェフリー、お前さん漸く許嫁と会ったんだって?」
「あぁ。だが、向こうは俺の事を憶えていないらしい。」
「どんな娘だ?」
「炎のように鮮やかな、赤い髪をしていた。何でも、ここに来たのは、“病気療養”の為だそうだ。」
「へぇ・・」
「ちょっと気になったから、お前さんの許嫁の事を調べてみたんだが、面白い事がわかった。」
「面白い事?」
「あぁ・・」
キットはジェフリー達に、海斗が何故東京からこの函館にやって来たのかを話し始めた。
二月前、東京で見合い相手に乱暴されそうになった海斗は、その髪を飾っていた簪で相手の右目を突いて失明させたのだった。
「彼女の両親は、娘が精神を病んだと思い、父親が所有する函館の別荘で暮らす事になったそうだ。」
「相手の男はどうしている?」
「消息不明だそうだ。」

ガタン、と大きな音が外から聞こえたので、海斗は最初風の音だと思った。

だがそれが違うと気づいたのは、廊下を歩く何者かの足音だった。

「見つけたぞ。」
「ひっ!」
恐ろしくて声が出ないというのは、まさにこの状況の事を言うのだろう。
海斗は、虚ろな目で自分を見つめる男から逃げようとしたのだが、その前に男が彼女の首を絞めた。
「ずっとお前を殺してやりたかった。」
(助けて、誰か・・)
薄れゆく意識の中で、海斗は頭上で何かが弾けたような音を聞いた。
「間に合ったな。」
 男の返り血を浴びた海斗が恐る恐る目を開けると、そこには美しい緑の瞳をした男が立っていた。
「あなたは、誰?」
「迎えに来たぞ、我妻よ。」
海斗が憶えているのは、そこまでだった。
「あそこだ!」
ジェフリー達が東郷家の別荘へと向かうと、そこには先客が居た。
「遅かったな、狐共。」
そう言ってジェフリー達を嘲笑ったのは、黒髪と緑の瞳を持った鬼だった。
「お前が・・」
「そこを退け。」
そう言った鬼は、気絶した海斗を横抱きにしていた。
「カイトをどうするつもりだ?」
「我妻として貰い受ける。」
「ふざけた事を抜かすな!」
ジェフリーがそう言って腰に帯びていた太刀を抜いた。
ビセンテは、そっと海斗の身体を地面に横たえた。
激しい剣戟の音が聞こえ、海斗はゆっくりと目を開けた。
目の前では、自分を助けてくれた黒髪の男と、神社で会った九尾の狐が戦っていた。
「これで終わりだ!」
「やめて!」
海斗の腕から、鮮血が滴り落ちた。
「カイト!」

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雪の華 第一話

2024年01月04日 | FLESH&BLOOD 和風ファンタジー二次創作小説「雪の華」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


―ねぇ、また・・
―あそこでしょう、怖いわねぇ。
―呪われているんじゃないかしら?
町民達がそんな事を話していると、そこへ自転車に乗った赤毛の少女がやって来た。
少女の名は、東郷海斗。
二月前に病気療養の為東京から北海道・函館からやって来た伯爵令嬢だった。
―あの子、確か鬼憑きの・・
―目を合わせては駄目よ、頭から喰われてしまうわよ。
海斗の姿を遠巻きに見ながら、町民達はそんな事を囁いていた。
(言わせたい奴には言わせておけばいい。)
海斗がそんな事を思いながら自転車を走らせていると、後方から悲鳴が上がった。
「退けぇ!」
海斗が背後を振り返ると、そこには血走った目で自分を睨みつけている男の姿があった。
「待て!」
海斗が呆然と立ち尽くしていると、突然男の足元に何かが突き刺さった。
「怪我は無いか?」
「はい。」
「そうか、良かった。」
そう言って海斗に微笑んだのは、右目に眼帯をつけた男だった。
(素敵な人だったなぁ・・)
海斗がそんな事を思いながら女学校の門をくぐると、丁度始業の鐘が鳴った。
「また遅刻ですね、東郷さん。」
「申し訳ありません・・」
「次からは気をつけなさい。」
「はい・・」
周囲の生徒達から冷たい視線を浴びながら、教室に入った海斗は自分の席に着いた。
「はぁ・・」
これで何度目の溜息だろう。
海斗は人気のない女学校の近くにある神社で、弁当を食べていた。
家族が暮らす東京から遠く離れた北の大地へ、彼女が来たのは、彼女の“ある秘密”の所為だった。
―薄気味悪い・・
―あの人が、“鬼憑き”というのは本当なの?
教室の片隅の席で座っているだけで、海斗は心無い級友の声を聞くのが嫌で堪らなかった。
(俺だって、こんな力好きで持ったんじゃない!)
“鬼憑き”―それが、海斗が持っている“秘密”の力だった。
彼女には、“人ならざるもの”が視えるのだった。
海斗が弁当を食べ終え、女学校へと戻ろうとした時、誰かが彼女の髪に触れた。
「お前さんが、俺の花嫁か?随分と可愛いじゃないか。」
彼女が振り向くと、そこには金髪碧眼の美男子―九本の尻尾を生やした妖狐が立っていた。
(九尾の狐だ・・初めて見た。)
「あんた、誰?」
「お前の、夫になる男さ。」

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