BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

炎の踊り子 1

2023年12月15日 | FLESH&BLOOD ハーレクインパラレル二次創作小説「炎の踊り子」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。


1910年、京都。

「今晩わぁ。」
「海斗ちゃん、今日も寒いさかい、風邪ひかんようになぁ。」
「おおきに。」
祇園甲部のお茶屋「みずの」で女将に見送られ、東郷海斗は降りしきりる雪の中を歩いていた。
海斗がこの地で舞妓として店出しをしてから、もう五年もの歳月が経っていた。
五年前、海斗は伯爵家の令嬢として何不自由ない生活を送っていた。
父が詐欺師に金に騙し取られ、破産するまでは。
海斗は母・友恵に連れられ、祇園甲部の置屋に引き取られた。
赤髪の舞妓として、好奇の視線に晒されたが、海斗はそれをはねのけるように、芸を磨いた。
その結果、彼女は祇園の名妓としてその名を全国に轟かせていた。
だが、山程身請け話が持ち込まれても、海斗はそれらを皆、断った。
「海斗ちゃん、どないしたんや?さっきの伯爵様の身請け話を断るやなんて、何か理由でもあるんか?」
「うちには、夢があるんどす。」
「夢?」
「うちの踊りを、世界中の人に見て貰いたいんどす。」
「そら、あんたの舞は美しいものやさかいな。」
「うちは、パリへ行きたいんどす。」
「パリへ行って何をする気なんや?」
「パリへ行って、有名になるんどす。」
「大層な夢やなぁ。でも、現実は甘くない。」
「そんな事、わかっています。せやから、うちはもっと芸を磨きます。」
「そうか。」
舞妓になる前、海斗はバレエを習っていた。
「お嬢様はダンスの才能がありますわ。お嬢様程の才能ならば、パリのオペラ座の舞台に立てるようになるかもしれませんね。」
それは、バレエの家庭教師がお世辞で言ったのかもしれなかったが、かつてパリのオペラ座でしのぎを削った経験があった彼女は、海斗には天賦の才能があると見抜いていた。
だからこそ、彼女は友恵に海斗をパリへ留学させることを薦めたが、その前に海斗達は姿を晦ましてしまった。
(今、何処に居るの、カイト?)
「どうしたんだ、リリー?浮かない顔をして?」
「ごめんなさい、ジェフリー。昔の教え子の事を思い出していたのよ。」
「へぇ、どんな子だったんだい?」
「赤毛で、ダンスの才能がある子だったわ。この子ならパリでも通用すると思ったの。だからあの子の母親へあの子をパリへ留学させるように薦めたわ。でもその後、彼らは行方を晦ましてしまったの。風の噂で、その子がこの京都で舞妓をしていると聞いたのだけれど、会えるかどうか・・」
「会えるさ。」
ジェフリー=ロックフォードは、この京都でオペラ座バレエ団の公演の演出を担当する演出家だった。
そして彼の隣に座っているリリーは、かつてパリで有名なバレエダンサーであったが、怪我をして引退し、振付師として世界中を駆け回る日々を送っていた。
「日本での公演を決めたのは、あの子に―カイトに会えるかもしれないと思ったからなの。でも、無駄足に終わりそうね。」
「する前から諦めるなんて、あんたらしくないぞ。」
「そうね。」
二人は来日したその日の夜、「みずの」で食事をする事になった。
「今夜は、舞妓を呼ぶ事にしたが、構わないか?」
「いいわよ。振付師として、日本の踊りがどんなものなのか見てみたいわ。」
リリーとジェフリーがそんな話をしていると、襖が開いて、一人の芸妓と舞妓が部屋に入って来た。
「今晩わぁ、千代どす。」
「海斗どす。」
「カイト、あなたなの?」
「リリー・・先生?」
海斗は、お座敷でリリーと再会し、思わず彼女と抱き合った。
「元気そうで良かったわ。まさか、あなたが舞妓となって踊りを続けているなんて思ってもみなかったわ。」
「俺も、あなたと会えて嬉しいです。」
「まだ、パリ留学は諦めていない?」
「はい。今は芸を只管磨いています。」
「そう。」
リリーと海斗は暫く話し込んでいたが、海斗は自分を見つめるジェフリーの視線に気づいた。
「リリー、あの方は?」
「あぁ、この人は・・」
「初めまして、カイト。俺はジェフリー=ロックフォード、今度この京都公演の演出を担当する演出家だ。」
ジェフリーはそう言うと、海斗の手の甲に口づけた。
「明日の公演のチケットだ。良かったら観に来てくれ。」
「はい・・」

これが、ジェフリーと海斗との出会いだった。

後に、海斗は歴史にその名を残すダンサーとなるのだが、その時はまだ誰も知る由もなかった。

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