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喫煙や放射線は直接の原因ではない」 ヒトががんになる"最大のリスク因子" とは?

2024年05月16日 22時05分49秒 | 医学と生物学の研究のこと
喫煙や放射線は直接の原因ではない」ヒトががんになる"最大のリスク因子"

がんの唯一で最大のリスク因子は年齢だ。私たちがどれだけ健康的な暮らしをするよう心がけても若返ることだけはぜったいない。このまま平均寿命が延び続ければ、全員ががんになる時代が来るかもしれない。



仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『ヒトはなぜ「がん」になるのか』(河出書房新社)――。


1・27・2022





がんは「エラー」が積み重なり、進化したもの

長らく「不治の病」として恐れられ、治療法、予防法などが研究されてきた「がん」。その最新の成果によると、がんは化学物質や喫煙、放射線などの外的要因による直接作用で生じるものではなく、生まれてから成長の過程で不可避的に起こるエラーが積み重なり、体内で「進化」したものなのだという。
どのように進化するのだろうか。

本書では、世界のがん研究の歴史に触れながら、人ががんを患う理由、体内でがん細胞がどのようなメカニズムで「進化」していくのか、治療法や「がんとの付き合い方」などについて、数々の研究・実験などのエビデンスをもとに詳細に解説している。

がんの進行は自然界の生物進化の縮図であり、がん細胞は体内の環境に適応して突然変異を繰り返すことで、その勢力を広げ、転移していく。そのため、治療にあたっては体内のがん細胞の勢力をコントロールする「適応療法」が有効であることがわかってきている。

<略>


がんの唯一で最大のリスク因子は「年齢」

がんが始まるのは、一定数の変異を拾った細胞が無秩序に増え出すときではない。細胞が、多細胞社会のルールを守らなくても生きていけるような変異を拾い、環境への適応度が上がって周囲の細胞より増えるようになったとき、がんが始まるのだ。疲れて管理がおろそかになった環境にうまく適応した不良細胞は、生存と増殖を有利に展開し、がんになる道を歩みはじめる。

がんの唯一で最大のリスク因子は年齢だ。私たちがどれだけ健康的な暮らしをするよう心がけても若返ることだけはぜったいない。このまま平均寿命が延び続ければ、全員ががんになる時代が来るかもしれない。
 写真=iStock.com/Halfpoint

※写真はイメージです


裏切り細胞の出現をできるだけ長く阻止するために細胞組織を若く美しく保つ方法を見出すには、もっと多くの研究が必要だ。5年か10年、老化を遅らせるだけで大きな効果がある。20年以上遅らせることができたら、大転換となるだろう。
 

害虫「コナガ」対策から得られたヒント

腫瘍というのはどれも、同じがん細胞でできているのではなく、遺伝子的に少しずつ違うがん細胞集団(クローン)の寄せ集めであり、その一部が転移しやすい変異をもつクローンだったり、治療に抵抗しやすい変異をもつクローンだったりする。

フロリダ州にあるモフィットがんセンターのロバート(ボブ)・ゲイトンビーは、100年以上前から農家を悩ませていた害虫、コナガがすべての農薬に耐性をつけてしまったという記事を読んだとき、これはがんをめぐる状況と同じだと気がついた。

コナガが農薬に耐性をつけてしまう問題に対し、農家は数十年前から「総合的害虫管理」という方法をとってきた。害虫の群れには遺伝子的に多様な集団が交ざり合っている。農薬に屈しやすい集団もあれば、農薬に耐性をもつ集団もある。


そうした群れに大量の農薬を浴びせると、農薬に屈しやすい集団は全滅し、農薬に耐性をもつ集団だけが生き残ってライバルのいなくなった生息地で好きなだけ繁殖する。一方、農薬の量を少なくすれば、農薬に屈しやすい集団がそれなりに残って、耐性をもつ集団が増えすぎないよう抑制してくれる。

がんにも同じことが言えるのは明白だ。ゲイトンビーは、腫瘍内にはいつも(*がん治療薬が効かない)耐性細胞がいる、という前提からスタートすることにした。その耐性細胞は、増殖スピードが遅いので増えすぎることはなく目立たない。しかし、薬に反応するがん細胞が全滅すればそのあとを埋めるように勢力を広げるだろう。


薬剤耐性細胞を抑制し続ける「適応療法」

この場合、薬を最大耐用量にするのではなく逆に低用量にして、薬に反応するがん細胞の量をある程度保ち、そのがん細胞に耐性細胞を抑制させたほうがいい。薬に反応するがん細胞が増えすぎたら、薬を増やして以前と同じバランスに戻す。ゲイトンビーはこの方法を「適応療法」と呼ぶ。

 キャット・アーニー『ヒトはなぜ「がん」になるのか』(河出書房新社)


ゲイトンビーらのチームは、ラボ実験で得られた測定値をもとに、薬の効く細胞と耐性細胞の増殖スピードと、薬投与による勢力争いの変化を法則化する一連の数式を考案した。その数式を使って、薬を与えたとき、その2集団がどれだけ拡大または縮小するかを仮想シミュレーションし、薬の用量と適切な投与タイミングを割り出した。

適応療法は、薬剤耐性細胞の集団を患者の体内でコントロールしてがんを安定させるのが目的だ。耐性細胞はいつも存在し、増殖している(かなりゆっくりではあるが)。その耐性細胞の集団がいつなんどき優勢になってもおかしくない状態だが、ゲイトンビーの数学モデルによれば、治療回数20期ほどまではバランスを保持できそうだという。

根絶が無理なら、がんを同じ円の上をぐるぐると回らせ続けよう。観察し、待ち、薬で治療し、観察し、待ち、薬で治療する……これを場合によっては数十年続ける。この方法はこれまで私たちが追い求めてきた「完治」のイメージとは違うかもしれないが、それでもかなり似たものになるだろう。
 

コメント by SERENDIP

たとえばオセロゲームで、序盤に相手のコマを返しすぎると、終盤に大逆転を許すことがある。相手の残りコマが1~2個まで追い詰めながら、結果として大敗を喫するのは、ひっくり返す対象の相手のコマがなくなり、逆に相手が返すことのできる自分のコマを大量に残しているからだ。序盤は大量にひっくり返すチャンスがあったとしても我慢し、ある程度相手のコマを残しながら、自分が優位になるようなコマの配置を探っていくのが必勝法の一つだ。本文にあるがんの「適応療法」も、これと似た考え方なのだと思う。社会や組織についても同様に、少数の「異分子」「非主流派」「反対派」などを排除せず、多様性を維持することがレジリエンスを高めることにつながるのだろう。


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ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究

2024年05月15日 15時05分20秒 | 医学と生物学の研究のこと



ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース 


3本ある21番染色体のうち、1本の働きを丸ごと抑える技術の開発も進む。ただ、いずれも、まだ十分に確立されている治療法ではない。 

これが、可能になるとダウン症も一挙に解決ですね。着実に進んでいると思います。



ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究
3/21(火) 9:30配信
196コメント196件

ダウン症候群のある響稀くん=静岡市内

 3月21日は世界ダウン症の日。ダウン症候群のある人は、日本に約8万人いると推定されている。この50年間で寿命が50歳延び、日々の生活や合併症への理解が深まってきた。さまざまなデータが集まり、治療につながる研究も進んでいる。

 【写真】ダウン症の息子「かわいい」と思えなかった私 心のバリア消えた瞬間  

ダウン症は、21番染色体が1本多い3本あることで発症する。大阪大学の北畠康司准教授(小児科学)によると、21番染色体には約300の遺伝子があり、遺伝子の働きが1・5倍になることで、様々な症状が表れるという。

  たとえば21番染色体には、血液の増殖にかかわる重要な遺伝子があると考えられている。そのためダウン症の赤ちゃんのおよそ10%には、「一過性骨髄異常増殖症」という白血病のような合併症がみられる。 

 40代以降にアルツハイマー病を発症する人も少なくない。21番染色体にある「APP」という遺伝子によって、アルツハイマー病の発症にかかわるアミロイドβが、脳内にたまりやすいためと考えられている。 

 また、脳内の神経細胞が少ない一方で、神経細胞の働きを支える「アストロサイト」という細胞は多い。21番染色体にある「DYRK1A」という遺伝子の働きが強まっていることが原因とされる。

  こうしたデータが集まってきたことで、ダウン症の根本的な治療や、さまざまな合併症に対する治療の研究が進んでいる。 

 北畠さんらの研究チームは、ゲノム編集により神経症状を改善することをめざしている。  

難しいのは、ダウン症の人では神経の発達に関するDYRK1A遺伝子が過剰に働いているが、逆に遺伝子の働きを抑えすぎると、自閉症のリスクにつながることだ。北畠さんらは、ダウン症のある人から作ったiPS細胞を使って、遺伝子の数を正確に減らす技術の開発に挑戦している。  

海外でも研究が進む。 

 2016年には、茶のカテキン成分で認知機能が上がったという研究結果が報告された(https://doi.org/10.1016/S1474-4422(16)30034-5)。 

 3本ある21番染色体のうち、1本の働きを丸ごと抑える技術の開発も進む。  ただ、いずれも、まだ十分に確立されている治療法ではない。  

ダウン症のある人は、およそ15~30歳の頃に、話さなくなる、動かなくなる、好きだったものに興味がなくなるといった「退行様症状」が出ることがある。 

 米国の研究チームは、「免疫グロブリン」を投与することで、こうした症状が改善するという結果を発表した(https://doi.org/10.1186/s11689-022-09446-w)。今年から臨床試験を始める。 


 北畠さんは「自分の子がダウン症だと知ると、治療法がないことや将来に対する情報が少ないことから、ほとんどの親は漠然とした不安を抱える。医療者もダウン症のことを知らない人が多く、これまでは研究が進まなかった」と話す。



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殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?

2024年05月14日 00時05分09秒 | 医学と生物学の研究のこと

殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】 (msn.com) 



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殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
© ラブすぽ
殺人と関連する前頭前皮質
近年、脳機能と犯罪の関係についての研究が注目されています。これは、脳の作りや障害によって、暴力的になるなどの影響が見られないかを調べたものです。


レインは、41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどのような違いがあるかの実験を行いました。これは、見ている画面に◯印が現れると反応ボタンを押すという単純なもので、これを32分間行い、その間の脳の活動を調査したのです。その結果、殺人犯は脳の前頭前皮質と言われる部位の働きが弱いことがわかりました。


前頭前皮質は、脳の前側にある部位で、事前に計画を立て、行動を調整し、衝動を抑制。さらには集中力を維持する機能のある部分です。この部位が十分に働かないことによって、怒りがコントロールできなくなり、衝動的な暴力、ひいては殺人に発展していくメカニズムがあるのではないかと考えられます。
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殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
© ラブすぽ
この前頭前皮質の障害については、事故でこの部位を損傷した人が、その後、攻撃的で衝動的な性格に変わってしまったという事例も見られます。


なお、冷静沈着で計画的に犯罪を遂行する連続殺人犯の中には、前頭前皮質に損傷や異常が見られないケースもあります。


出典:『図解 眠れなくなるほど面白い 犯罪心理学』

以下はリンクで






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夢に侵入し、睡眠者との「リアルタイム対話」に成功!/米独仏蘭研究チーム

2024年05月11日 22時05分57秒 | 医学と生物学の研究のこと


ついに夢世界とのコンタクトに成功しました。

アメリカ、ドイツ、フランス、オランダの研究チームは、睡眠中の被験者とコミュニケーションを取る夢実験をそれぞれ実施。

その中で、夢に侵入することで、被験者とリアルタイムで対話することに成功したとのことです。

実験は、明晰夢(夢の中にいることを自覚し、自らの意思で行動できる夢)をコントロールできる被験者を対象としています。

研究は、2月18日付けで『Current Biology』に掲載されました。


2/19/2021

※中略

実験では、明晰夢を操れる被験者36名(4つの実験の合計人数)を対象として、夢を見るレム睡眠時に、外界からのサインに反応できるよう訓練を受けてもらっています。

具体的に、外界からのサインは、実験者が直接かける話し言葉、光の点滅、ビープ音、肩や腕へのタップなどです。

それに対し、被験者は、目の動きやその回数、顔の表情の動きなどで合図します。

被験者の脳波と応答は、頭部につけた電極と、アゴ下のモーショントラッキング装置で記録されました。

その結果、36名中6名が、夢の中で外界のサインに応答したり、質問にイエス・ノーで答えたり、簡単な計算問題に正解したのです。

驚くべきはその応答の仕方で、被験者からは次のように報告されています。

「夢の中で友人とパーティーをしていた。そこに実験者の話しかける声が、映画のナレーションのように聞こえてきた。それに対し、決まった合図で”NO”と返答した」(下図の左)


4/14/2021

「夢の中で電灯のついた部屋にいる。すると、天井の電灯が点滅を始めた。これを外界からのモールス信号と判断し、その点滅回数を目の動きで合図した」(下図の中央)

まるで映画の世界です。


※引用ここまで。全文や参考文献、元論文等は下記よりお願いいたします。


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コロナの「治療薬」開発はどこまで進んでいるか…医師が解説

2024年05月11日 00時05分37秒 | 医学と生物学の研究のこと
すでに、認可されているものが複数ありますが、あまり話題になりません。おそらく、効かないのでしょう。

日本のコロナウイルス感染者数が累計1万2000人を超えた。このままでは、日本の緊急事態宣言も当初の予定よりも長引くのではないかという不安を感じる中、<収束には18ヶ月必要><何もしなければ42万人が死亡>などの報道が不安に追い討ちをかける。


4・25・2020

芸能人のコロナ感染者は「40代が多い」ウラ事情

一方で世界の研究者は、治療薬の開発に懸命に取り組んでいる。コロナの収束には、治療薬、ワクチンの担う役割が非常に重要となることは言うまでもない。

イギリス在住の免疫学者の小野昌弘医師は自身のツイッターで、

<コロナ問題はある時点で急に解決がつくのではなく、人類が徐々にコロナを恐れる必要がなくなることで少しずつ問題解決されると考えています。治療薬を複数手にすれば重症化を恐れなくてよくなる。ワクチン開発後も少しずつ改良されていき集団免疫に近づく。科学の力で人類はコロナと共存するのでしょう>

との見解を示している。

◆世界で治験開始

新型コロナウイルスの治療薬として候補にあがっている中でも注目されるのは、エボラ出血熱の治療薬としてギリアド・サイエンシズ社が開発した抗ウイルス薬のレムデシビルである。

アメリカの医療関連ニュースサイトの「STAT」は16日、

<レムデシビルの臨床試験を進めているシカゴ大学医学部の内部報告会によると同病院に入院する新型コロナ患者125人にレムデシビルを投与したところ著しく病状が改善し、1週間以内に、死亡した2人を除く全ての患者が退院できた>

と報じている。アメリカのみならず、世界100施設程度の医療機関が参加し、4000人を対象に臨床第3相試験(P3)が行われていると、発表されている。

レムデシビルはコロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示すことが明らかになっており、COVID-19の治療薬として最も有望視されている薬剤の1つ。日本でも国立国際医療研究センターでP3が進められており、その結果に注目が集まっている。

◆既存薬が特効薬になりうるか?

レムデシビルをはじめとして、現在、ウイルス作用について各国で治験が進められている既存薬を表に示した。このなかから、どの既存薬がどの程度期待できるのかを、埼玉みらいクリニック院長で呼吸器科の岡本宗史医師に聞いた。

「まず、現時点では、COVID-19 の抗ウイルス薬による治療に関する知見は限られています。世界各国で新薬の研究開発が進められているが、実際には創薬から臨床試験を経て使用できるまでには、莫大な時間と費用を必要とします。

そこで行われているのが既存の抗ウイルス薬の応用です。過去には重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)患者に対して既存の抗ウイルス薬が使用されてきました」

COVID-19に対する治療薬の知見は日々刷新されているため、現時点(2020年4月21日)での考えと前置きしたうえで、岡本医師は次のように続ける。

· ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ)

「ロピナビルは HIV-1 に対するプロテアーゼ阻害剤として有効性が認められています。動物実験でMERSに有効性が示されたことから、COVID-19に対するロピナビル・リトナビルのRCT(ランダム化比較試験)が進行中です。

しかし、New England Journal of Medicine(NEJM)誌オンライン版の記事(2020年3月18日掲載)で、『重症COVID-19入院成人患者において、抗HIV薬のロピナビル・リトナビルは標準治療よりも有効とはいえない』との見解が199例を対象に行った非盲検無作為化比較試験の結果から示された、とありました。

非盲検ではありますが、比較試験において『ロピナビル・リトナビルはCOVID-19には有効でない』と示されたことから、今後臨床現場でロピナビル・リトナビルが使用されることはなくなってくるとも考えられます」

重い副作用が出るケースもあるとのことで、期待通りの効果が得られないとなれば、治療薬候補からは外れてくるだろう。

· ファビピラビル(商品名:アビガン)

「ファビピラビルは日本国内で開発されたRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤です。効能・効果は『新型または再興型インフルエンザウイルス感染症 (但し、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)』とされていましたが、作用機序(生体内で変換された三リン酸化体が、ウイルスのRNA ポリメラーゼを選択的に阻害する)から、インフルエンザ以外の他のRNAウイルスにも効果を示すと考えられます。

2020年4月18日に開催された日本感染症学会の緊急シンポジウムにおける藤田医科大学の土井洋平教授の発表によると、ファビピラビルを投与された300名のうち、投与開始14日後に重症患者の6割、軽症患者の9割の改善が認められたと報告されています。

ただ、これでファビピラビルの有効性が証明されたことにはなりません。なぜなら、対照群(標準治療)が置かれていない観察研究であり、アビガンを使用しなくてもよくなった可能性は否定できないからです。今後のランダム化比較試験の報告が待たれます」

· レムデシビル
「最近の報告では、レムデシビルは培養ヒト肺細胞における中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の複製を抑制、それに感染させた霊長類モデルで肺損傷を軽減したとの報告がありました。

また、『New England Journal of Medicine(NEJM)』誌オンライン版の記事(2020年4月10日掲載)では、レムデシビルを投与した重症患者53名(日本での9例を含む)のうち36例で効果があり、人工呼吸器を装着されていた30例のうち17例が抜管できました。

しかし、この結果からレムデシビルの有効性を証明できるものではありません。対象が重症患者に限局されている点、また前述通り対照群(標準治療)が置かれていないからです。ファビピラビルと同様今後のRCTの報告が待たれます」

医学的な効果を証明するには、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することが必要となり、そのためランダム化比較試験(RCT)が必要となる。期待は持てるが、確信的なことを言えるのはまだ時間がかかる、ということだ。



<サイトカインストーム抑制>

新型コロナウイルス感染により重症化する原因の一つは、免疫の過剰反応が起こること。医学的には「サイトカインストーム」と呼ばれる現象だ。サイトカインストームにより急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全などが起こり、最悪の場合、死に至ることもある。

このサイトカインストームを抑制する効果が期待されるのが下記の薬である。

岡本医師は、関節リウマチの治療薬として多くの患者が使用するトシリズマブ(アクテムラ)に注目するという。

「2020年4月8日、中外製薬株式会社は、トシリズマブの新型コロナウイルス肺炎を対象とした国内第III相臨床試験の実施を発表しました。

トシリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体と呼ばれる分子標的薬であり、記述の抗ウイルス薬とは概念が全く異なっています。

トシリズマブは炎症性サイトカインの一種であるIL-6の作用を阻害する働きを持ち、関節リウマチを代表とする膠原病で主に使用されています。COVID-19では、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応が肺炎、肺損傷の急激な悪化の一因でないかと考えられていますが、その上流に位置するIL-6を抑制することでサイトカインストームをコントロールし、肺炎の進行抑制に効果があるのではないかと期待されています」

中国が作成したCOVID-19治療ガイドラインでも重症例にトシリズマブ(アクテムラ)の使用を推奨しており、今後の治験の結果に期待したい。一方で、どの段階で使用するかということも重要であると思われることも付け足しておきたい。

<抗体療法>

抗体療法とは、回復期患者の血液から中和抗体を取り出し、患者へ投与するという治療法である。

「『The Journal of the American Medical Association(JAMA)』誌オンライン版(2020年3月27日掲載)では、重度の呼吸不全に陥った5名の患者に対して、回復期患者の血漿輸血を行ったところ、4名の患者の体温が3日以内に正常化し、ウイルス量も減少。輸血後12以内に陰性となり、5例中3例が退院し、残る2例も輸血後37日時点で安定している、と報告されています。症例数も少なく安全性も確立されたものではないですが、これを応用した免疫グロブリン製剤の開発が始まっています」

現在、多くのメーカーが血清から取り出した中和抗体を取り出し製剤とする研究を進めている。武田薬品工業は、2019年に買収したアイルランドの製薬大手シャイアーとともに既に3月初め、抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤「TAK-888」の開発に着手しており、早い段階での治験、承認が期待される。

以上が4月中旬までに分かっている「治療薬の現状」だ。楽観視はできないが、確実に研究は前に進んでおり、悲観的になりすぎる必要はない。必ず収束する日が訪れる。それまで我々ができるのは、感染予防、感染拡大阻止に努めることであることは、いうまでもない。

監修:埼玉みらいクリニック院長 岡本宗史
 URL http://www.om-clinic.jp/
 twitter https://twitter.com/saitama_mirai     
FRIDAYデジタル

4/25sat/2020


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