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喫煙や放射線は直接の原因ではない」 ヒトががんになる"最大のリスク因子" とは?

2024年05月16日 22時05分49秒 | 医学と生物学の研究のこと
喫煙や放射線は直接の原因ではない」ヒトががんになる"最大のリスク因子"

がんの唯一で最大のリスク因子は年齢だ。私たちがどれだけ健康的な暮らしをするよう心がけても若返ることだけはぜったいない。このまま平均寿命が延び続ければ、全員ががんになる時代が来るかもしれない。



仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『ヒトはなぜ「がん」になるのか』(河出書房新社)――。


1・27・2022





がんは「エラー」が積み重なり、進化したもの

長らく「不治の病」として恐れられ、治療法、予防法などが研究されてきた「がん」。その最新の成果によると、がんは化学物質や喫煙、放射線などの外的要因による直接作用で生じるものではなく、生まれてから成長の過程で不可避的に起こるエラーが積み重なり、体内で「進化」したものなのだという。
どのように進化するのだろうか。

本書では、世界のがん研究の歴史に触れながら、人ががんを患う理由、体内でがん細胞がどのようなメカニズムで「進化」していくのか、治療法や「がんとの付き合い方」などについて、数々の研究・実験などのエビデンスをもとに詳細に解説している。

がんの進行は自然界の生物進化の縮図であり、がん細胞は体内の環境に適応して突然変異を繰り返すことで、その勢力を広げ、転移していく。そのため、治療にあたっては体内のがん細胞の勢力をコントロールする「適応療法」が有効であることがわかってきている。

<略>


がんの唯一で最大のリスク因子は「年齢」

がんが始まるのは、一定数の変異を拾った細胞が無秩序に増え出すときではない。細胞が、多細胞社会のルールを守らなくても生きていけるような変異を拾い、環境への適応度が上がって周囲の細胞より増えるようになったとき、がんが始まるのだ。疲れて管理がおろそかになった環境にうまく適応した不良細胞は、生存と増殖を有利に展開し、がんになる道を歩みはじめる。

がんの唯一で最大のリスク因子は年齢だ。私たちがどれだけ健康的な暮らしをするよう心がけても若返ることだけはぜったいない。このまま平均寿命が延び続ければ、全員ががんになる時代が来るかもしれない。
 写真=iStock.com/Halfpoint

※写真はイメージです


裏切り細胞の出現をできるだけ長く阻止するために細胞組織を若く美しく保つ方法を見出すには、もっと多くの研究が必要だ。5年か10年、老化を遅らせるだけで大きな効果がある。20年以上遅らせることができたら、大転換となるだろう。
 

害虫「コナガ」対策から得られたヒント

腫瘍というのはどれも、同じがん細胞でできているのではなく、遺伝子的に少しずつ違うがん細胞集団(クローン)の寄せ集めであり、その一部が転移しやすい変異をもつクローンだったり、治療に抵抗しやすい変異をもつクローンだったりする。

フロリダ州にあるモフィットがんセンターのロバート(ボブ)・ゲイトンビーは、100年以上前から農家を悩ませていた害虫、コナガがすべての農薬に耐性をつけてしまったという記事を読んだとき、これはがんをめぐる状況と同じだと気がついた。

コナガが農薬に耐性をつけてしまう問題に対し、農家は数十年前から「総合的害虫管理」という方法をとってきた。害虫の群れには遺伝子的に多様な集団が交ざり合っている。農薬に屈しやすい集団もあれば、農薬に耐性をもつ集団もある。


そうした群れに大量の農薬を浴びせると、農薬に屈しやすい集団は全滅し、農薬に耐性をもつ集団だけが生き残ってライバルのいなくなった生息地で好きなだけ繁殖する。一方、農薬の量を少なくすれば、農薬に屈しやすい集団がそれなりに残って、耐性をもつ集団が増えすぎないよう抑制してくれる。

がんにも同じことが言えるのは明白だ。ゲイトンビーは、腫瘍内にはいつも(*がん治療薬が効かない)耐性細胞がいる、という前提からスタートすることにした。その耐性細胞は、増殖スピードが遅いので増えすぎることはなく目立たない。しかし、薬に反応するがん細胞が全滅すればそのあとを埋めるように勢力を広げるだろう。


薬剤耐性細胞を抑制し続ける「適応療法」

この場合、薬を最大耐用量にするのではなく逆に低用量にして、薬に反応するがん細胞の量をある程度保ち、そのがん細胞に耐性細胞を抑制させたほうがいい。薬に反応するがん細胞が増えすぎたら、薬を増やして以前と同じバランスに戻す。ゲイトンビーはこの方法を「適応療法」と呼ぶ。

 キャット・アーニー『ヒトはなぜ「がん」になるのか』(河出書房新社)


ゲイトンビーらのチームは、ラボ実験で得られた測定値をもとに、薬の効く細胞と耐性細胞の増殖スピードと、薬投与による勢力争いの変化を法則化する一連の数式を考案した。その数式を使って、薬を与えたとき、その2集団がどれだけ拡大または縮小するかを仮想シミュレーションし、薬の用量と適切な投与タイミングを割り出した。

適応療法は、薬剤耐性細胞の集団を患者の体内でコントロールしてがんを安定させるのが目的だ。耐性細胞はいつも存在し、増殖している(かなりゆっくりではあるが)。その耐性細胞の集団がいつなんどき優勢になってもおかしくない状態だが、ゲイトンビーの数学モデルによれば、治療回数20期ほどまではバランスを保持できそうだという。

根絶が無理なら、がんを同じ円の上をぐるぐると回らせ続けよう。観察し、待ち、薬で治療し、観察し、待ち、薬で治療する……これを場合によっては数十年続ける。この方法はこれまで私たちが追い求めてきた「完治」のイメージとは違うかもしれないが、それでもかなり似たものになるだろう。
 

コメント by SERENDIP

たとえばオセロゲームで、序盤に相手のコマを返しすぎると、終盤に大逆転を許すことがある。相手の残りコマが1~2個まで追い詰めながら、結果として大敗を喫するのは、ひっくり返す対象の相手のコマがなくなり、逆に相手が返すことのできる自分のコマを大量に残しているからだ。序盤は大量にひっくり返すチャンスがあったとしても我慢し、ある程度相手のコマを残しながら、自分が優位になるようなコマの配置を探っていくのが必勝法の一つだ。本文にあるがんの「適応療法」も、これと似た考え方なのだと思う。社会や組織についても同様に、少数の「異分子」「非主流派」「反対派」などを排除せず、多様性を維持することがレジリエンスを高めることにつながるのだろう。


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ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究

2024年05月15日 15時05分20秒 | 医学と生物学の研究のこと



ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース 


3本ある21番染色体のうち、1本の働きを丸ごと抑える技術の開発も進む。ただ、いずれも、まだ十分に確立されている治療法ではない。 

これが、可能になるとダウン症も一挙に解決ですね。着実に進んでいると思います。



ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究
3/21(火) 9:30配信
196コメント196件

ダウン症候群のある響稀くん=静岡市内

 3月21日は世界ダウン症の日。ダウン症候群のある人は、日本に約8万人いると推定されている。この50年間で寿命が50歳延び、日々の生活や合併症への理解が深まってきた。さまざまなデータが集まり、治療につながる研究も進んでいる。

 【写真】ダウン症の息子「かわいい」と思えなかった私 心のバリア消えた瞬間  

ダウン症は、21番染色体が1本多い3本あることで発症する。大阪大学の北畠康司准教授(小児科学)によると、21番染色体には約300の遺伝子があり、遺伝子の働きが1・5倍になることで、様々な症状が表れるという。

  たとえば21番染色体には、血液の増殖にかかわる重要な遺伝子があると考えられている。そのためダウン症の赤ちゃんのおよそ10%には、「一過性骨髄異常増殖症」という白血病のような合併症がみられる。 

 40代以降にアルツハイマー病を発症する人も少なくない。21番染色体にある「APP」という遺伝子によって、アルツハイマー病の発症にかかわるアミロイドβが、脳内にたまりやすいためと考えられている。 

 また、脳内の神経細胞が少ない一方で、神経細胞の働きを支える「アストロサイト」という細胞は多い。21番染色体にある「DYRK1A」という遺伝子の働きが強まっていることが原因とされる。

  こうしたデータが集まってきたことで、ダウン症の根本的な治療や、さまざまな合併症に対する治療の研究が進んでいる。 

 北畠さんらの研究チームは、ゲノム編集により神経症状を改善することをめざしている。  

難しいのは、ダウン症の人では神経の発達に関するDYRK1A遺伝子が過剰に働いているが、逆に遺伝子の働きを抑えすぎると、自閉症のリスクにつながることだ。北畠さんらは、ダウン症のある人から作ったiPS細胞を使って、遺伝子の数を正確に減らす技術の開発に挑戦している。  

海外でも研究が進む。 

 2016年には、茶のカテキン成分で認知機能が上がったという研究結果が報告された(https://doi.org/10.1016/S1474-4422(16)30034-5)。 

 3本ある21番染色体のうち、1本の働きを丸ごと抑える技術の開発も進む。  ただ、いずれも、まだ十分に確立されている治療法ではない。  

ダウン症のある人は、およそ15~30歳の頃に、話さなくなる、動かなくなる、好きだったものに興味がなくなるといった「退行様症状」が出ることがある。 

 米国の研究チームは、「免疫グロブリン」を投与することで、こうした症状が改善するという結果を発表した(https://doi.org/10.1186/s11689-022-09446-w)。今年から臨床試験を始める。 


 北畠さんは「自分の子がダウン症だと知ると、治療法がないことや将来に対する情報が少ないことから、ほとんどの親は漠然とした不安を抱える。医療者もダウン症のことを知らない人が多く、これまでは研究が進まなかった」と話す。



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殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?

2024年05月14日 00時05分09秒 | 医学と生物学の研究のこと

殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】 (msn.com) 



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殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
© ラブすぽ
殺人と関連する前頭前皮質
近年、脳機能と犯罪の関係についての研究が注目されています。これは、脳の作りや障害によって、暴力的になるなどの影響が見られないかを調べたものです。


レインは、41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどのような違いがあるかの実験を行いました。これは、見ている画面に◯印が現れると反応ボタンを押すという単純なもので、これを32分間行い、その間の脳の活動を調査したのです。その結果、殺人犯は脳の前頭前皮質と言われる部位の働きが弱いことがわかりました。


前頭前皮質は、脳の前側にある部位で、事前に計画を立て、行動を調整し、衝動を抑制。さらには集中力を維持する機能のある部分です。この部位が十分に働かないことによって、怒りがコントロールできなくなり、衝動的な暴力、ひいては殺人に発展していくメカニズムがあるのではないかと考えられます。
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殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
殺人犯の脳は他の人とは違う?41人の殺人犯と同数の非犯罪者に対して、脳にどんな違いがあるか実験した結果?【図解 犯罪心理学】
© ラブすぽ
この前頭前皮質の障害については、事故でこの部位を損傷した人が、その後、攻撃的で衝動的な性格に変わってしまったという事例も見られます。


なお、冷静沈着で計画的に犯罪を遂行する連続殺人犯の中には、前頭前皮質に損傷や異常が見られないケースもあります。


出典:『図解 眠れなくなるほど面白い 犯罪心理学』

以下はリンクで






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100歳まで生きられるのは1600人に1人>100歳まで生きる人に共通する性格は?>慶應大・百寿総合研究センター長

2024年05月13日 21時23分06秒 | 医学と生物学の研究のこと
100歳まで生きる人に共通する性格傾向、なってはいけない疾患は? 慶應大・百寿総合研究センター長が明かす





>その慢性疾患を病気別に見てみると、百寿者における糖尿病の有病率は6.0%で、一般の高齢者の3分の1程度と非常に低かった。また、がんや脳梗塞といった致死率の高い疾患の罹患率も比較的低い

>五つの性格要素を分析。すると、百寿者は誠実性と外向性が高い水準にある

>百寿者は総人口の1600分の1いますが、超百寿者は2万分の1とガクンと少なくなり、極めて稀少な集団です。スーパーセンチナリアンに至っては90万分の1にまで減ります。

>超百寿者は、心臓と腎臓、そして全身を巡っている血管、この三つの機能の衰え方が非常に緩(ゆる)やかである

>百寿者の心の中で幸せを感じるレベルが自然と変わっていくのだと思います。動けないなら動けないなりの楽しみを見出しているのでしょう。



人生100年時代、どうせ長生きするのなら死ぬまで元気でいたい。そんな願いを実現すべく、慶應義塾大学医学部「百寿総合研究センター」は、30年間にわたって健康長寿を研究し続けてきた。

「百寿者」の秘密、そして「超百寿者」の謎。「100歳の壁」に迫る。

【新井康通/慶應大学医学部「百寿総合研究センター」センター長】 【写真を見る】

「百寿の秘密」を研究する慶應大学病院  ***

 人生100年時代を迎え、「百寿」を夢ではなく現実のものとして捉える方が増えてきていると思います。なんとか100歳まで元気で健康に生きたい。そう願い、日々、心身の健康を良好に保とうと頑張っている方も少なくないでしょう。 

 しかし、もし「百寿者(センチナリアン)=健康長寿のお手本」というイメージを持っているとすれば、それは必ずしも正しい百寿者像ではありません。なぜなら、私たちが共同で行った研究では、百寿者の中でADL(日常生活動作)が高く、自立している方は全体の2割にとどまっていたからです。 


〈こう解説するのは、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターのセンター長を務める新井康通(やすみち)教授だ。

  老年医学や百寿者研究を専門とする新井教授が属する慶大および同大病院は、1992年以来、30年にわたって百寿者の研究を続けてきた。2014年に正式に組織化された百寿総合研究センターが積み重ねてきた知見のひとつが、「百寿者=健康長寿のお手本」という“常識”に関する意外な真実である。〉


百寿者は30年で20倍


〈慶大が百寿者研究を始めた92年の平均寿命は男性76.09歳、女性82.22歳。それが最新のデータでは男性81.47歳、女性87.57歳にまで延びている。 

 百寿者の数も92年には4152人だったものが、2021年の厚労省の発表によると8万6510人と、実に20倍超に増えている。 

 確実に長寿化している日本人。だが、「スーパーセンチナリアン」と呼ばれる110歳以上の人数は、2010年の78人から15年には146人と倍増したものの、20年には141人と減っている。
奥深き100歳超の世界――。 

 新井教授が30年にわたる研究史と、その知見を続ける。〉


「100歳の人なんか調べてどうするの?」


〈きんは100歳、100歳。ぎんも100歳、100歳。ダスキン呼ぶなら100番、100番〉  

広瀬信義元特別招聘教授が中心となって慶應大学が百寿者研究を始めた1992年は、このCMが話題を呼び、「きんさん、ぎんさん」が新語・流行語大賞を受賞した年です。「100歳姉妹」が大注目を集めていたわけです。私はその3年後から研究チームに加わることになります。 

 とはいえ、まだまだ世間全体では、百寿者の存在は身近なものではありませんでした。学内でも私たちの研究への関心は非常に薄かったですし、他分野の研究者からは、「君たち、100歳の人なんか調べてどうするの?」と言われたこともあります。正直に言って、百寿者研究に対する視線はかなり冷ややかなものでした。当時はやはり、百寿は「夢」であり、「我が事」として捉えるのは難しかったのでしょう。

当時は名簿から百寿者を探して手紙を


 広瀬先生を中心とした百寿者研究グループの特徴は、医学にとどまらず心理社会学、栄養学、遺伝学など、さまざまな分野の専門家が集まり、多角的な視点から100歳以上の方々の研究を行った点にありました。そこに魅力を感じて私も一員として加わったわけですが、当時は細々と研究を進めていたというのが実情です。 

 その頃は厚生労働省が「全国高齢者名簿」をまだ出していたため、それをもとに百寿の方々に手紙をお送りし、研究への協力に快諾していただけた場合、血液検査と簡単なインタビューをさせてもらう。対象者は年間20~30人程度にとどまっていました。

97%が慢性疾患


 私たち慶應の百寿者研究グループにとって転機となったのは、2000年から02年にかけて、東京都の健康長寿医療センターと共同で行った「東京百寿者研究」でした。住民基本台帳をもとに、東京23区に住んでいる百寿者にアンケートで514人、実際に訪問したのが304人と、飛躍的に多くの百寿者を調査することができた。そして、この東京百寿者研究から、百寿者に関するさまざまな特徴が浮かび上がってきたのです。

  その一つが、冒頭で紹介した話です。私たち自身も、調査を行うまでは百寿者は他の方と比べて病気になりにくいのであろう、だからこその百寿なのだと考えていました。ところが調査の結果、実際は百寿者の97%が何らかの慢性疾患を抱えていることが分かった。つまり、百寿者といえども病気と無縁ではいられなかったのです。


百寿者の性格傾向とは? 

 ただし、その慢性疾患を病気別に見てみると、百寿者における糖尿病の有病率は6.0%で、一般の高齢者の3分の1程度と非常に低かった。また、がんや脳梗塞といった致死率の高い疾患の罹患率も比較的低いことが分かりました。

  さらに遺伝的な傾向としては、百寿者はアポリポタンパク質E4(ApoE4)という遺伝子を保有している方が少ないことも明らかになりました。ApoE4はアルツハイマー病のリスクが高まる遺伝子として知られています。このことから、百寿と認知症には何らかの関係があると推察されます。

  そして東京百寿者研究では、百寿者の性格傾向も調査し、やはりある特徴が見られました。具体的には、開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向と、「ビッグファイブ」と呼ばれる五つの性格要素を分析。すると、百寿者は誠実性と外向性が高い水準にあることが分かったのです。 

 誠実性が高いということは、責任感があり、勤勉で真面目であることを意味します。つまり百寿者は、自らを律する力が強く、決まり事をしっかり守る方が多いといえる。おそらく、医師からの指示や薬の用量・用法を厳守し、朝は6時に起きて夜10時には必ず寝る、運動をルーティンとして行うといったような生活習慣を守ることができるので、自然と長寿につながっているのではないかと考えられます。

高齢者にこそ必要な「コミュ力」


 もうひとつの外向性の高さは、要するに人付き合いが良いことを意味します。人の輪の中にちゅうちょなく入っていけたり、コミュニケーションをとったりするのが苦にならない方が、百寿者の中には多かったのです。 

 例えば平均寿命を超えて90歳になると、同じ年の方々との友だち付き合いはどうしても減り、困難になっていきます。こうした環境で、外向性が高い方は、年下のグループにも積極的に入っていける。そうやって人付き合いを維持し、孤立を防ぐ。その結果、認知機能も高いレベルにとどまることができているのではないでしょうか。

105歳以上は激減

  そして何よりも驚いたのは、先に述べたように百寿者でADLが高く、自立している方は2割に過ぎないという調査結果でした。「百寿者=健康長寿のお手本」とは言い切れないことになります。しかも、その後の追跡調査の結果、100歳の時点で自立できている方は、105歳以上まで長生きされる可能性が高いことが分かったのです。 

 なお、110歳まで到達された方を「スーパーセンチナリアン」、105歳まで到達された方を「超百寿者(セミスーパーセンチナリアン)」と分類していますが、ADLに関する調査結果は何を物語っているのでしょうか。それは、健康長寿の生きる見本としては、百寿者より超百寿者のほうがふさわしいのではないかということです。つまり長寿を分析するには、百寿者研究に加え、「超百寿者研究」が必要となるわけです。

  ちなみに、百寿者は総人口の1600分の1いますが、超百寿者は2万分の1とガクンと少なくなり、極めて稀少な集団です。スーパーセンチナリアンに至っては90万分の1にまで減ります。


85歳時点の生活習慣も調査


 このように、東京百寿者研究では百寿者のさまざまな特徴・傾向を抽出するのには成功したものの、ではなぜ、そのような特徴・傾向を獲得するに至ったのかは判然としませんでした。そこで、100歳になる少し前の85歳の時点での生活習慣等も調査することになったのです。 

 なぜなら、百寿の方々は、かつてはいろいろな趣味や運動、社会的活動をされていたケースが多い。それが健康長寿につながっていると考えられます。

  しかし、例えば85歳までウオーキングを続けていた方でも、さすがに100歳の頃にはやめてしまっている場合がほとんどです。同時に、100歳になると程度の差はあれ認知機能は衰えていますから、85歳の頃、自分がどんな生活習慣を心掛けていたか、実践していたかを明瞭に記憶されている方も多くはありません。

枝分かれした二つの研究で分かったこと

 そこで85歳の方にアンケート調査を行い、その時点での生活習慣などを記録しておく。その後、追跡調査をすることで、結果的にどのような方が百寿者になるのかがはっきりとします。  

こうした経緯をたどって、東京百寿者研究以降、私たちは百寿者研究を「超百寿者研究」と「85歳以上の後期高齢者研究」へと枝分かれさせていきました。

  枝分かれした二つの研究から、健康長寿のお手本というべき「百寿者以上の方」は、二つのバイオマーカー(指標となる物質)において優れた数値であることが判明しました。 

 まず、心臓から分泌されるホルモンの一種である「NT-proBNP」の値です。これは心不全の診断に使われる検査数値で、心臓から全身へ血液を送るポンプ機能が低下するほど多く分泌され、数値は高くなります。一般的に、加齢とともにこの数値は高くなっていくのですが、100歳の時点で測定した値を比較してみると、百寿者よりもスーパーセンチナリアンのほうが顕著に値が低かったのです。


アルブミンの濃度が低いほど、死亡率が高い


 次に、体内で合成されるたんぱく質の「アルブミン」に関してです。アルブミンは、血液や体内の水分量を調節し、血管内の物質の運搬を助ける役割を果たしています。そして、85歳以上の高齢者1427人の血液データを解析した結果、血液中のアルブミンの濃度が低いほど、死亡率が高いことが分かりました。平たく言うと、85歳以上長生きする方の体内には、アルブミンが多くあるということになります。 

 これら二つの結果から、こう考えることができるでしょう。 

 超百寿者は、心臓と腎臓、そして全身を巡っている血管、この三つの機能の衰え方が非常に緩(ゆる)やかである――。  

私たちの心臓と腎臓は、互いに密接に協調して血圧や体液などの量を調節し、全身に万遍なく血液を行き渡らせています。そのため、心不全や心筋梗塞などを発症し、心臓の機能が低下すると腎臓の働きも落ちます。逆に、糖尿病や高血圧等で腎臓が弱っていると、次第に心臓の働きも低下していきます。これを「心腎循環システム」と言いますが、このシステムを高い水準で維持すること、すなわちいかに心臓と腎臓の機能を保つか、それが健康長寿につながる道であると考えられるのです。

「老年的超越」

 この分析結果を参考にしつつ、誰もが健康長寿を享受できる社会が理想ではあります。しかし、残念ながら現実はそうではありません。繰り返しになりますが、百寿者で自立した生活ができているのは2割に過ぎず、残りの8割は何らかの形で介助・介護を必要としています。 

 以前の自分と比べて思うように体を動かすことができないと、一般の高齢者は「幸福感」が落ちます。自分は不幸である、悲しいと感じる傾向が強まるわけです。高齢者に限らず、生活上の不自由さが強まれば、幸福感が低下するのはある意味で自然といえるでしょう。  

しかし、不自由さを悲観する必要はないのではないかと私は考えています。ADLが低く、必ずしも健康長寿とはいえない状況で、100歳まで生きながらえるのはむしろ不幸なのではないか――そんなふうに考えなくてもいいと思うのです。  

なぜなら、百寿の方々は、思うように体を動かせなくても、周りが想像するよりもご自身の中では幸福感が高く保たれているからです。寝たきりの高齢者を見ると、周囲は勝手に「この人、生きていて楽しいのだろうか」などと思ってしまいがちです。ところが、寝たきりの当人にしてみれば、その生活がさして苦ではなかったりするのです。これを「老年的超越」と言います。


生きる意味」を持てるかどうか


 おそらく、百寿者の心の中で幸せを感じるレベルが自然と変わっていくのだと思います。動けないなら動けないなりの楽しみを見出しているのでしょう。若い頃は何か目標を掲げてそれをクリアする達成感が幸福感に結びついていることが多い。ところが百寿者は、それとは違った形で喜びを感じることができる。例えば、介護してくれるヘルパーさんとのつながりの中に幸せを感じるといったような具合に。

  もちろん、体が思うように動かない百寿者の中に、「死にたい」「早くお迎えが来てほしい」と訴える方がいないわけではありません。

しかし、「今、幸せですか?」と聞くと、「幸せです」と答える方が多い。「あとどれくらい生きたいですか?」と尋ねられて、「もう十分です」と仰(おっしゃ)る方はまずいません。少し前ですと「東京オリンピックを見たい」、あるいは「ひ孫の結婚式までは」などと、いろいろとできないことが増えていくなかでも、百寿者なりの「生きる意味」をしっかりと見つけているのです。これが、「健康長寿」とはまた異なる「幸せ」の秘訣(ひけつ)なのではないかと考えています。 


新井康通(あらいやすみち) 慶應義塾大学看護医療学部教授。1966年生まれ。専門は老年医学、百寿者研究、脂質代謝。100歳以上の高齢者に関する疫学調査や長寿遺伝子等の研究を続けている。日本老年医学会専門医・指導医。現在、同医学部百寿総合研究センターのセンター長を務める。 「週刊新潮」2022年9月8日号 掲載







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夢に侵入し、睡眠者との「リアルタイム対話」に成功!/米独仏蘭研究チーム

2024年05月11日 22時05分57秒 | 医学と生物学の研究のこと


ついに夢世界とのコンタクトに成功しました。

アメリカ、ドイツ、フランス、オランダの研究チームは、睡眠中の被験者とコミュニケーションを取る夢実験をそれぞれ実施。

その中で、夢に侵入することで、被験者とリアルタイムで対話することに成功したとのことです。

実験は、明晰夢(夢の中にいることを自覚し、自らの意思で行動できる夢)をコントロールできる被験者を対象としています。

研究は、2月18日付けで『Current Biology』に掲載されました。


2/19/2021

※中略

実験では、明晰夢を操れる被験者36名(4つの実験の合計人数)を対象として、夢を見るレム睡眠時に、外界からのサインに反応できるよう訓練を受けてもらっています。

具体的に、外界からのサインは、実験者が直接かける話し言葉、光の点滅、ビープ音、肩や腕へのタップなどです。

それに対し、被験者は、目の動きやその回数、顔の表情の動きなどで合図します。

被験者の脳波と応答は、頭部につけた電極と、アゴ下のモーショントラッキング装置で記録されました。

その結果、36名中6名が、夢の中で外界のサインに応答したり、質問にイエス・ノーで答えたり、簡単な計算問題に正解したのです。

驚くべきはその応答の仕方で、被験者からは次のように報告されています。

「夢の中で友人とパーティーをしていた。そこに実験者の話しかける声が、映画のナレーションのように聞こえてきた。それに対し、決まった合図で”NO”と返答した」(下図の左)


4/14/2021

「夢の中で電灯のついた部屋にいる。すると、天井の電灯が点滅を始めた。これを外界からのモールス信号と判断し、その点滅回数を目の動きで合図した」(下図の中央)

まるで映画の世界です。


※引用ここまで。全文や参考文献、元論文等は下記よりお願いいたします。


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