先週私が気になった2つのニュースについてちょっと書いてみたいと思います。
まずは
こちらから。
><男女3遺体>親子が餓死か…死後2カ月程度 さいたま市
毎日新聞 2月20日(月)20時48分配信
20日午後0時半ごろ、さいたま市北区吉野町2のアパート1階で「ドアにチェーンがかかり応答がない部屋がある」と、管理会社の男性から埼玉県警に連絡があった。大宮署員が現場を確認し、布団の上で男性2人と女性1人の遺体を発見した。同署は、住んでいた60代の夫婦と、30代の建設作業員の息子とみて、身元の確認を進め、死因を調べる。
同署によると、3人はやせ細っており、死後2カ月程度とみられる。目立った外傷や遺書はなく、餓死や病死の可能性もあるという。男性1人は4畳半、残る2人は6畳の布団の中で見つかった。室内に現金はほとんどなく、昨年8月ごろから家賃を滞納。昨年末ごろから電気やガスも止まっているという。
昨年11月に管理会社の職員が訪問した際には、妻が対応し「息子は仕事で、夫は具合が悪くて寝ている」と話したという。
さいたま市によると03年以降、生活保護の受給記録はなく、相談もなかったという。
アパートの所有者の男性(59)は「約10年前に入居したが、一昨年ごろから『家賃が払えないから待ってほしい』と複数回言われた。昨年10月ごろから家族の姿を見かけなくなった」と話した。【飼手勇介】
こちらも。毎日新聞の記事より。
>さいたま餓死?:部屋に食べ物なく あめ玉、1円玉数枚
さいたま市で20日、男性2人と女性1人の遺体が見つかったアパートの室内や冷蔵庫の中に、食べ物がほとんどなかったことが埼玉県警への取材で分かった。一方、さいたま市の調査で、この部屋に入居していた60代の夫婦と30代の息子の住民票登録が同市にないことも判明した。【飼手勇介、平川昌範、林奈緒美】
アパートの所有者などによると、アパートは3階建てで9部屋あり、3人の遺体が見つかった1階の部屋は6畳と4畳半の和室のある2Kで家賃は共益費を含め6万3000円。01年2月に男性が1人で入居した後、妻、息子が同居するようになったという。
県警によると、この部屋に入居していたのは60代の夫婦と30代の息子の3人。息子は建設関係の仕事を個人でしていたという情報があるが、確認できていないという。3人がそれぞれ横たわっていた布団のそばにはコップや嘔吐(おうと)物の入ったバケツがあった。部屋にはあめ玉が数個と1円玉が数枚あったが、冷蔵庫は空だった。電気やガスは止まり、水道だけが利用できる状態だった。
さいたま市によると3人は住民票の登録がなかった。住民票の登録がなくとも生活保護や介護サービスを受けることは可能だが、3人は生活保護は受けておらず、同市も把握していなかった。国民健康保険は住民票がある自治体で保険料を支払わないと保険証が使えなくなるという。3人は自治会にも加入していなかった。
昨年末、妻から借金を申し込まれたという近所の男性は「アパートの大家か民生委員のところに行ったらいいよと場所を教えたが、『いいです』と言って帰っていった。そんなに困った様子には見えず、むしろ明るい感じだった。まさかこんなことになるとは」と悔やんだ。
近くの主婦(47)によると、作業着姿の夫と息子が荷台に工具を積んだ軽乗用車で出ていたという。約1年前からは息子が1人で出かけるようになり、昨年11月ごろには駐車場から軽乗用車もなくなったという。
現場はJR上尾駅から東に約2.5キロで、周辺に工場や畑が点在している。
毎日新聞 2012年2月21日 12時14分(最終更新 2月21日 13時52分)
また、こちらの
記事も。
>さいたま餓死?:相次ぐ悲劇 行政に限界
さいたま市で親子とみられる3人の遺体が見つかった事件。一家で孤立して死亡するケースは東京都や北海道でも相次いだ。現場はいずれも都市部の集合住宅で、近所の住人や管理会社が異変に気付いて発見された。専門家は、料金滞納の情報を業者と行政が共有するなどの仕組み作りが必要だと指摘する。
さいたま市で親子とみられる3人の遺体が見つかった20日、東京都台東区下谷3の3階建てアパート1階で90歳の父と63歳の娘がそれぞれベッドで死亡しているのが発見された。警視庁下谷署によると病死の可能性があり、父親が先に亡くなったとみられる。2人は父親の年金暮らし。郵便受けには2月7日以降の新聞がたまっており、近所の住人が大家に連絡した。
一方、札幌市白石区のマンションでは先月、無職の女性(42)と知的障害のある妹(40)が遺体で発見された。姉の死因は脳内血腫、妹は凍死で死後5日~2週間たっていた。2人の収入は妹の障害年金・月約7万円だけだったといい、料金滞納でガスは11月末に止められていた。姉は昨年6月に区役所を訪れ、生活保護の相談をしたが申請せず、職探しもしていたという。
東京都地域福祉推進課によると、民生委員による見回りは独居の高齢者や障害者などが優先されるという。「自身で支援を求めるのが救済措置の前提。支援を拒まれると介入するのは難しい」と話す。
貧困や生活保護の問題に詳しい尾藤廣喜弁護士は「韓国などでは公共料金が滞納された場合に行政に知らせるシステムがあり、日本でも行政がシグナルを把握する仕組みが必要だ」と訴える。北海道も同様の仕組み作りの検討を始めた。尾藤弁護士は北九州市で07年、独居男性が生活保護の打ち切り後に孤独死した事例に触れ「当時、地域住民が異変に気づき福祉事務所に訴えたが保護は打ち切られたままだった。住民同士の監視だけでは解決できず、地域ネットワークの問題として矮小(わいしょう)化すべきではない」と指摘する。【喜浦遊、田中龍士、中川聡子】
すいません、大変長い引用になりましたが、非常に事態が深刻であり、またきわめて悲惨な事例だと思いますので、詳細に知っておこうと考えて引用をしました。
過日の札幌白石区での事件(上にも記事があります)も大変気の毒な事例でしたが、こちらは(詳しい事情はわからない部分が多いとは言え)家族3人餓死となると、近年の中でも最悪かそれに匹敵するものだと思います。下の写真は、札幌のアパートです。
日本でどれくらいの人間が年間餓死しているかというと…。こちらの
サイトに興味深い数字がのっていました。
>平成20年 男48人 女15人 計63人
平成19年 男39人 女5人 計44人
平成18年 男47人 女9人 計56人
平成17年 男65人 女12人 計77人
平成16年 男55人 女13人 計68人
平成15年 男73人 女20人 計93人
平成14年 男56人 女11人 計67人
平成13年 男53人 女10人 計63人
平成12年 男66人 女21人 計87人
平成11年 男74人 女11人 計85人
(厚生労働省「人口動態調査」より。死因に「食糧の不足(X53)」が選択されたもの)
これちょっと数が少なすぎるんじゃないのって気がしますが、
wikipediaによると
>日本では第二次世界大戦を通して、戦死者よりも多い数の餓死者が発生した。終戦直後には法を守る立場からヤミ米を拒否し、配給だけで生活しようとして餓死した山口良忠判事が有名となった。 一方当時と比べ豊かな時代であるはずの平成になってからも、生活保護を受けず、あるいは受けられずに餓死する例、子供が保護者から虐待を受け食事を与えられずに餓死する事件等が発生している。前者の例は格差の増大の例とされることもある。 また、2009年度人口動態統計 [1]によると、、「栄養失調(症)(E40-E46)」と「その他の栄養欠乏症(E50-E64)」と「食糧の不足(X53)」の死亡者数は1,894人(男:1011人、女:883人)である。これは100万人当たり約14.9人である。
とあります。
さらに、産経新聞のこちらの
記事が非常に興味深いですね。
>餓死者、バブル崩壊後急増 セーフティーネット不備映す
産経新聞 2月26日(日)7時55分配信
さいたま市で親子3人が餓死とみられる状態で見つかった問題で、全国の餓死者はバブル崩壊後の平成7年に前年の約2・8倍の58人に急増、それ以降、高水準で推移していることが25日、分かった。22年までの30年間の餓死者数は1331人で、うち7年以降が8割以上を占めた。専門家はセーフティーネット(安全網)のあり方の見直しを呼びかけている。
厚生労働省の「人口動態統計」によると、死因が「食料の不足(餓死)」とされた死者は昭和56年から平成6年まで12~25人だったが、7年に58人、8年には80人を突破。それ以降、22年に36人となるまで毎年40人以上で推移し、過去30年間の最高は15年の93人だった。
50代の死者が多いのも特徴だ。22年までの16年間で50代の死者数は348人、60代が252人、40代が185人に上り、40~60代で全体(1084人)の72%を占めた。男女比は30年間で男性が女性の約4・5倍と圧倒的に多かった。
死亡場所は「家(庭)」が多く、59~85%(7~22年)を占める。このため、行政や地域社会のセーフティーネットから、何らかの理由でこぼれ落ちていた可能性も指摘されている。
貧困問題や生活保護に詳しい小久保哲郎弁護士は「餓死者の急増はバブル崩壊後、急速に景気が悪化した時期と重なっている。当時、雇用状況の悪化に伴ってリストラなどで失業者が増加した」と指摘する。
また、高齢者ではない「50代男性」の餓死者が多いことには、「稼働層といわれる働き手世代のうち、年齢的に再就職が難しいことから50代が突出したのではないか」と分析した。
女性よりも男性が多いことについては、「男性は自立できるはずという強い社会規範がある」とし、行政などから助けを受けることに心理的抵抗を感じている可能性があるとみている。
不況が続き、今後も餓死者が増える恐れがあることから、小久保弁護士は「労働と社会保障の仕組み全体を改善する必要がある」と話している。
餓死そのものと栄養失調を起因とする死因のグレーゾーンがありますのでなかなか難しいですが、ともかく年間何十人かは餓死しているということです。こんな豊かな国で。
それにしても、家族3人が餓死するって、いったい何がどうしてここまでひどい事態になってしまったのでしょうか。この家族は住民登録もしていなかったし、たぶん健康保険証も持っていなかったのでは。近所の人に金を借りようとするくらいならどうして生活保護を受けようとしなかったのでしょうか。
札幌の事例では、(水際作戦で追い返したかどうかはわかりませんが)なにはともあれ役所に相談にはいったみたいですが、この家族は相談すらしていなかったようなので、自治体側に落ち度があったわけではないでしょうが(しかしたぶん相談に行ったら、そうとう自治体側はいやな顔をしたと思います。30代の息子さんがいるからね)、なぜ生活保護を受けなかったのかな・・・と残念で仕方ありません。
どうしようもなくなったら、とりあえず生活保護を受ければいいのです。世の中ありがたいことに、生活保護受給のためのマニュアル本みたいなものもあります。これはかの名高い湯浅誠さんが書いた
本です。2005年でやや古いですが、とりあえず最悪の事態を招くにはいたらないための指針がいろいろ書かれている有用な本です。
あなたにもできる!本当に困った人のための生活保護申請マニュアル
世の中、人の迷惑に・・・とか、他人の世話・・・なんてことは考えない方がいい。アパートの中で死んじゃったらそっちのほうがはるかにいろんな人に迷惑がかかるし、人間私もあなたも生活保護受給を悩んでいる人も、どっちにしたって他人の世話にならなければ生きていけないんだから。
さいたま市の親子は、住民登録すらしていなかったそうで、あるいは夜逃げ(?)みたいな立場だったのかもしれませんが(すいません、これは言うまでもなく私の勝手な当て推量です)、上にもあるように住民登録をしていなくても生活保護は受けられます。心配はいりません。
人間、餓死するよりは、もうすこし世間並みの死に方をした方がよっぽどいいと私は思いますが、はて、読者の皆さまのご意見はいかに・・・?
もうひとつ、
これも私はショックを覚えました。
>顔や体に複数のあざ、事件前にも暴行か ロッキード判事殺害
産経新聞 2月23日(木)20時59分配信
ロッキード事件の裁判長を務めた元東京高裁判事で弁護士の半(はん)谷(や)恭一さん=当時(78)=が絞殺された事件で、半谷さんの遺体に複数のあざが残っていたことが23日、捜査関係者への取材で分かった。警視庁捜査1課は、殺人容疑で逮捕した妻の俊子容疑者(81)が、事件以前から継続的に半谷さんに暴行を加えていた疑いもあるとみて調べる。
ただ、長女らが「2人には認知症の兆候があった」と説明していることから、捜査1課は刑事責任能力についても慎重に調べ、俊子容疑者の精神鑑定を行う方針。
捜査関係者によると、昨年2月、東京都文京区の自宅で見つかった半谷さんの遺体を調べたところ、手や顔など、体の複数箇所にあざがあった。殺害時についたとみられるあざのほか、古いものも確認されたことから、以前から、繰り返し殴られるなどの暴行を受けた可能性があるという。
また、司法解剖の結果、半谷さんは殺害された際、5分以上の長時間にわたって、のどを圧迫されていたことも新たに判明。捜査1課は、俊子容疑者が半谷さんに対して強い殺意を抱いていたとみている。
当初、俊子容疑者は「お父さんは糖尿病だった」などと説明したが、捜査1課は病死を装おうとしたとみている。俊子容疑者は、逮捕後も一貫して「殺したりしていない」と容疑を否認している。
この事件も、正直真相はいまひとつ分かりにくい部分がありますし、したがってめったなことは書けませんが
>長女らが「2人には認知症の兆候があった」と説明していることから
という部分を読んで、私はとても痛い気持ちになりました。
奥さんのほうはどうだか知りませんが、半谷さんはかなりのエリート裁判官で(私もロッキード裁判の絡みで彼の名前は知っていました)非常に優秀な人だったわけで、そういう人でも認知症になっちゃうんだなあというのが(そんなことはわかってはいますが)ショックだったこと、そしてこの夫婦は2人暮らしでそして両方とも認知症だったということです。
日本はいうまでもなく高齢化社会をすごいスピードで突き進んでいますから、殺人という事態にはならずとも、このような夫婦というか家族は増えはしても減ることは当分考えられません。自分自身がならない保証は全くないし、家族がなる可能性はもっと高いから(家族は複数いる場合がおおいですよねえ)、こういったことと私たちも無縁ではあり得ません。お子さんはいたようですので、施設にいれるとか(経済的にはそれなりに裕福なご家庭でしょうから)そういう選択肢はどうだったのかなあ(すでに計画中だったのかもしれません)。
おそらくご家族も本当に困っていたと思うし、このような事態になったことは痛恨の極みだと思います。こちらの方もどうにかならなかったのかなとくりごとをしてしまいそうです。
真相は正直わかりませんが、家族3人の餓死、認知症同士の夫婦間の殺人、ほんとうに残念な事件です。そしてどちらもそんなに私たちの日常からかけ離れてはいないと思います。