ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

101. きのこの季節、今日こそは!

2012-12-31 | エッセイ

 12月はほとんど雨ばかり。
 たまに晴れ間があるが、それも二日と続かない。
 そんな晴れた日は、それっとばかりに森に向う。

 持ち物はデジカメとゴム手袋、それに小さなカッターナイフ。
 デジカメは超必需品。これがないと、何のために森に入るのか分らない。
 ゴム手袋は医療用の極薄なので、キノコを掘り出したり、手に持って写真を撮るときに違和感なくつかめる。
 小さなカッターナイフは、掘り出したキノコの根元を切って、土の付いた部分を取り除くため。
 切り取った根元はキノコを引き抜いた穴に埋め戻しておく。
 そうしておけば、ひょっとするとその根からキノコが復活するかもしれないから、と、せめてもの罪滅ぼし、気休めに過ぎないが。

 森に通い始めて、気がついた。
 最初に勢いよく生えていたキノコたちは一ヶ月も経つと、いつのまにか姿を消し、新たに別の種類がにょきにょきと顔をだしている。
 初めのころは、キノコらしい姿をしたセップ(イグチ系)の種類が多かったが、12月の半ばを過ぎると、小さなものはまだ残っているが、10センチも20センチもあるセップはほとんど見かけなくなった。


1.大きなイグチ

 背丈が30センチほどもある巨大なキノコ、カラカサタケはほとんどの場合、ぽつんと一本だけ生えているのだが、ある日、一箇所に数本もかたまって生えているカラカサタケのファミリーに出会った。
 大中小といろいろな背丈だが、まだみんなかたく閉じて、開くまでに数日かかりそうだったので、いっせいに開いた姿を写したいと思って、数日後にまた出かけた。


2.カラカサタケ

 ところがびっくり!
 数本もあったカラカサタケはひとつ残らず、姿を消し、折り取られた足元部分だけ元の並びのまま残っている。
 カラカサタケの大きな傘の部分はフライにすれば、まるでナスのフライにそっくりで、美味しいのだそう。
 私たちはその姿から、ほとんど食指が動かないので、いつも写真に収めるだけだったが、今回は大家族がいっせいに傘を開いた姿を写真に撮ろうと楽しみにしていたビトシはかなりがっかりしていた。

 よく行く森はコルク樫と松の混ざったところで、キノコの種類がとても多い。
 ある日、松の大木が十数本立っているところの木の根元に、とても奇妙なものがあった。
 卵である。それもあちこちにあって、殻が割れてどろりとした中身が見えている。
 蛇のタマゴではないかと気味が悪かったが、そうではなく、そのうちのいくつかからにょきっと亀の頭の様なものが出ている。キノコ辞典で調べたら、「スッポンタケ」というキノコだそう。これは食べられるそうだが、とてもその気にはなれない。


3.スッポンタケ

 カラカサタケもスッポンタケもすっかり姿を消した今、ムラサキシメジはまだポツポツと若いものが出ている。
 淡い紫色の形の良い傘と、傘裏はもっと紫の濃い、美しいキノコだ。
 それに良い匂いがする。
 これは日本のキノコ掲示板で問い合わせたところ、ムラサキシメジにほぼ間違いないらしい。
 姿といい、匂いといい、食欲をそそる。


4.ムラサキシメジ

 今日こそは!と、思い切って挑戦してみた。
 まず塩水にしばらく浸けてキノコの中に潜む小さな虫を出し、それから湯がいて二回ほど湯でこぼし。
 こうするともし微量に毒があっても毒抜きができて、安心。
 それからもう一度火にかけて、味付けしてスープにした。
 これだけ火を通しても良い香りはなくならず、キノコ自体もしゃきしゃきして、とても美味しい。
 食べて一日以上経っても、身体に異常なし。
 ビトシは絶対に箸をつけず、横目で私を観察しているのだ~。
 「食べてから一週間以上経たないと、安心はできん」と言いながら。

 クリスマスは南のアルガルベで過し、ビーチ沿いの森に入り、キノコを観察した。
 でも種類はかなり少なく、しかも終わりかけているのが多い。
 かなりがっかりして、帰路についた。
 帰りももちろん道沿いの森に入り、キノコ探し。
 そのたびに初めてのキノコに出会った。
 でもビトシがどうしても写真に収めたいキノコは一本も見つからない。
 それはベニテングダケ!
 真っ赤な地色に白いぽちぽちが付いている、キノコの王様、童話で出て来るキノコ。
 なんの根拠もないのだが、今日こそはどうしてもベニテングダケに出会いたい!
とビトシは執念を燃やしている。
 いくつかの森に入ったり出たりしているうちに、巨大風車の下で、「やったあ~」というビトシの歓声。
 真っ赤な傘の上にぽちぽちの白い斑点、間違いなくベニテングダケ!
 ちょっと小ぶりのものが二つ並んでいる。でもそれ以上は見当たらない。
 絶対無いだろうと諦めていたものが見つかったのだから、驚きだ。

 それから本格的に帰ることにして、先を急いだ。
 時々松林を見かける。
 もう3時を過ぎて、家までかえりつくのに3時間以上かかる。 
 「これで最後にしよう」と言いながら、ビトシは松林の中にクルマを停めた。
 入り口にいきなり刈り取られたキノコがちょっとした山のようにかたまって捨てられていた。
 誰かが森に入って、毒キノコばかりを捨てていったらしい。白っぽいキノコばかりだ。
 森の奥に進んで行くと、白いキノコがまだあちこちに出ている。たぶんこれも毒キノコだ。
 この森は下枝が伐採され、下草も刈り取られて、良く手入れされて、遠くまで見通しが良い。
 その遠くに赤いキノコがぽつんと立っているのが見えた。
 急いで駆け寄ると、ベニテングダケがすっくと立っていたのだ。
 その周りにもあちこちに顔を出している。
 木漏れ日の中に立つ姿は美しい!
 ビトシはキノコの写真で、キノコの代表、ベニテングダケがまだ撮れていないことをずっと気にしていたので、これで念願がやっとかなった。
 しかもあちこちに大中小と、様々な姿で立っているから、たくさんの写真が撮れた。
 引き抜いたものはすべてもとの場所に埋め戻しておいたから、また来年も出てくるかもしれない。


5.ベニテングタケ

 帰宅してから、ネットで調べたら、ベニテングダケは毒キノコにもかかわらず、幸運のシンボルとしてクリスマスカードのイラストなどに使われているという。
 クリスマスの時期に出始めるのだろうか。
 そういえば、12月26日に初めて発見して、すべて若々しい新鮮なキノコばかりだった。
 
 それにしても執念で探し回ったあげく、たどり着いた森にベニテングダケが神々しい姿で立っていたとは、偶然にしては素晴らしい。


 

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