ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

104. スーパー油汚れ落し

2013-07-22 | エッセイ

 ずいぶん前の話だが、テレビの買い替えで家に来てもらった電気屋さんにガス湯沸かし器もついでに見てもらったことがある。その店は電気製品の他にパラポラアンテナやガス器具など、なんでも取り扱っていたからだ。

 新しいテレビを設置したあと、ガス湯沸かし器の点検でカバーを取り外した電気屋は、「油まみれだね~」と驚愕の声を上げた。

 ガス湯沸かし器はガスレンジのすぐ横に取り付けてあるから、料理中の油煙がいつのまにかこびり付いていたのだ。カバーの中まで見たことがなかったから、私も驚いたが、こんな管の入り組んだ複雑なものをどうやって掃除するのだ。

 私がよほど困った顔をしていたと見えて、「中華雑貨の店にいったら油汚れ落としの洗剤が売ってるよ~」と言って電気屋は帰っていった。

 せっかく教えてくれたのに、すぐには買いに行かなかった。

 中華雑貨店は街中に数え切れないほどあふれている。セトゥーバルの町の出入り口のどの道路も中華雑貨店が押さえている。元々はクルマの展示販売店だった店舗や元スーパーだった場所だから、建物も駐車場も広大だ。町の立地条件の良い場所にいつのまにか大型スーパーなみの店ができて、その名も「メガチャイナ」とか、「ハイパーチャイナ」とか付いている。

 尖閣諸島の中国の理不尽な要求のニュースを見るたびに、中華食品店に行く頻度が極端に減った。中華レストランはもうずいぶん行ったことがない。

 

 油汚れ落し洗剤がいよいよ必要になってきた。キッチンの壁やタイルの床がかなり汚れてきたのだ。

 それまでもポルトガルのスーパーで油汚れに効くという重曹をさがしていたのだが、ぜんぜん目に付かない。

 日本の百円ショップでは1キロ入りの物が売っていたので、来年は日本からそれを持ってくるしかないかな~、でも1キロの重曹をわざわざ日本からもってくるのも芸がない。

 もし日本で買っても製造元は中国という物が多いから、どうしようもない。だったらその前に一度、メガチャイナに行ってみよう。

 

 数あるメガショップの中で、パルメラ方面にある店に行った。ここは元クルマの展示場だった所で、周りにはホンダやシトロエンなどの販売、修理工場が集まっている。

 商品名も何も分からずに探すのは難しいが、とりあえず洗剤などのコーナーに行けばあるかもしれない。

 一階が衣料品、二階に上がると様々な雑貨がずらーっと並んでいて、品数が多い。

 しかしこの広い二階にいるのは数人のポルトガル人のお客とたった一人の中国人の店員。その男の店員は背が低く、がっしりした体格で、しかも目つきが鋭い。なんだか声をかけると蹴られそうな危ない雰囲気だ。

 しかたがないのであれこれ手に取って説明書を見たが、よく判らない。そのうちのひとつに、油がどうのこうの~と書いてあったので、とりあえずそれを買うことにしてカゴに入れた。

 そのとき背の高いポルトガル人の男が二人やって来て、私が選んだスプレー洗剤と同じものを手に取って見ていたが、「これじゃないな」と言いながら奥のほうに行き、さっきの店員を連れてきた。

 中国人の店員は、「ここにあるじゃないか~」と床に箱積みにされたスプレー洗剤を足で強く蹴ったのだ。

 なんという態度! やっぱり蹴った!

 でも背の高い男達は気にすることもなく、その12本入りをひと箱かかえて下に降りて行った。

 そのスプレー洗剤はさっきビトシが「これじゃないかな?」と手に取って見ていたものだ。これも油落し用の説明があるし、値段もかなり安い。さっきの二人の男達は職人風だったから、プロの掃除屋か、塗装屋かもしれない。

 私たちもこのスプレーを買うことにした。

 

我が家のベランダの手すりに置いたスーパー油汚れ落し

 一階のレジでは中国人の若い女性がいて、無表情な態度で会計をしている。ポルトガル人の女性客が何か尋ねても硬い表情のまま。

 私の番になって、ポルトガル語で「これは油の汚れ落しの洗剤ですか?」と念のため、尋ねてみた。

 彼女は「そうです」と言って、私に「どうしてポルトガル語で喋るの?」と不思議そうに問いかけてきた。

 「私は日本人なのよ」と言うと、

 「でも顔は同じなのにね」と、にっこりした。

 見たところ、彼女はまだ二十歳そこそこ。ひょっとしたらポルトガル生まれかもしれない。祖国の排日運動などぜんぜん意識にないようだ。

 先日行ったサンタクルスで、ワインを買いたいと店を探したが、どうしたわけか店がほとんど閉まっていて、ただ一軒だけ中華雑貨屋が開いていた。その店は雑貨と食料を売っていて、ワインとセンヌキを買おうとすると、「センヌキは買わなくても、ここで開けてあげるよ」と言うので、そうしてもらった。

 そのとき「中国人?」と尋ねるので、「日本人よ」と言うと、「私はここで12年も住んでるのよ」とけらけら笑いながら言う。

 30歳以上に見える彼女だが、日本人に対して何のわだかまりもなさそうで、気持ち良かった。

 異国に住むと、中国人、日本人の区別など無しに、気持ちよく付き合わなくちゃ。

 

 家に帰ってさっそくタイルの壁と床にスプレーしてみた。しばらく置いて、モップで拭くと、油汚れが綺麗に取れた。黒ずんでいたタイルの目地も真っ白くなった。すごい効き目である。

 こんなことならもっと早く買いにいけば良かった。

 

 

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