ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

203. リスボン首都圏のパスカード

2024-06-01 | 風物

 リスボンにはバスで出かけた。オリエント特急バスはセトゥーバルからリスボンのガレ・デ・オリエントまでノンストップ。昔はよく乗ったものだが、クルマを買ってからは乗ることがほとんどなかった。

 今回はリスボン首都圏の「老人割引パス」を買ったので、無料で行ける。パスカードは便利だ。毎月一ヶ月のパスを買うと、65歳までは一ヶ月40ユーロ、65歳以上は一ヶ月20ユーロ払うと、どこでもどの路線でも何回でも乗り放題。どこからでもどの路線にも乗れる。

 宮崎の老人割引パスも便利だと思っていたが、一回あたり100円かかり、乗り換えるごとにさらに100円支払う。たとえ100円でも気軽に乗り換えるとチャージしてある金額がどんどん減ってしまう。その点セトゥーバルのパスカードシステムは20ユーロ支払うとそれ以上はかからないので、安心だ。このごろバス停で待っている人がぐんと増えたようだ。しかもみんなパスを使っている。

 このパスで電車にも乗れる。メトロにも乗れる。渡船にも乗れる。先日はモイタの露店市に電車で行った。駅のチケット売り場で電車の時刻表をもらおうとしたら、あそこにあるよと指さしたのはデジタル時刻表。「あれは字が小さくて見えない、印刷した時刻表を下さい」というと、紙の時刻表はないという。係員は時計を見ながら、「あと3分でバレイロ行きの電車が来ますよ。1番ホームです」と教えてくれた。あわててホームに駆け上がったら、たくさんの人々が待っていた。

 やってきた電車は真新しく、3人掛けの対面シート、つまり6人掛けで、通路を挟んで4人掛けがある。空いている席に座ると、周りは若い旅行者でいっぱいだ。フランス語が飛び交っている。今からリスボンにでも出かけるようだ。セトゥーバルの街中でもツーリストだらけだ。リスボンはホテルが高いから、セトゥーバルの安い宿とレストランを求めて旅行者がやってくる。

 老人たちが住んでいて空き家になった古い長屋か、アパートをリメイクして、「IE」という民宿がポルトガル全域に爆発的に増えている。私のアパートにもリディアさん一家が住んでいた部屋をIEにして貸している。リディアさん一家は近くのパルメラに住んでいるらしい。リディアさんのIEは、時々、旅行者風のカップルが出入りしているのを見かけることがあるから、そこそこ流行っているのだろう。

 

モイタ駅のホームを結ぶ歩道橋と見上げるような階段。エレベーターは壊れている。

 電車がモイタに着いた。降りたのはわたしたちと数人だけ。ほとんどの人が降りない。電車が着いたのは2番ホーム、出口は1番ホームにしかないようだ。しかも見上げるような階段を昇り降りしなければならない。エレベーターを探したが、壊れている。誰かが蹴って壊した様だ。分厚いステンレス製の扉が歪んでいる。しかたなく一段一段昇って、そして降りた。駅員は一人も見当たらない。真新しいモダンな駅だが無人駅の様だ。しかもトイレもなさそうだ。駅前のカフェも閉まっている。やはりクルマできたらよかった。

 セトゥーバル市内やリスボン市内は無料の駐車場がほとんどないので、市バスや電車を利用するのがベストだが、モイタなど郊外に行くときは駐車場に困ることはほとんどない。しかも土曜日の午後から日曜日は無料になる。

 モイタに着いたら帰りの時刻を調べておこうと思っていたのだが、無人駅で聞く人も居ないし、張られた時刻表は日焼けして読むことが出来ない。

 帰りの電車の時間が判らないので、適当に駅に着いた。まずパスにパンチを入れなければならないのだが、そのパンチを入れる機械が壊れている。まわりに数台設置してあるのだが、ほとんど使えない。その時2番ホームで電車を待っていた家族ずれが「あっちがいいよ」と教えてくれる。その中でも未だ声変わりもしていない、小学校高学年程の甲高い声の男の子が親切に教えてくれて、何とかパンチを押すことができた。その子は学校で習ったばかりの英語が使いたくてしょうがなかったのだろう。「バレイロ行きは直ぐに来るけれど、セトゥーバル行きは10分前に行ったばかりだからあと50分待ちだよ」とも教えてくれた。

 乗り放題なのだからバレイロまで行き、渡船にでも乗って観光気分を味わってバレイロから引き返してくるのも悪くはないが、エレベーターが壊れているので長い階段を昇り降りして2番ホームまで行くのも大変だ。50分は少々長いと思ったが、そのままベンチで待つことにした。

 でもその子のお陰で助かった。パンチを押していなかったら、大変なことになっただろう。

 50分ほど待ってようやく姿を現した電車に乗った。ほぼ満席だったが丁度2人分の席が別々に空いていたので座った。

 そしてまもなく、検札がやってきたのだ。私たちが乗っている車両だけで3組の不正乗車が発覚した。最初の一人は若い男で、すぐに罰金を払っていた。もう一人は若い女性。何とか言い訳をしながら隣の車両に移っていった。もう一組はふたりの男たち。これは強制的に降ろされてしまった。車外に出ても、「知らなかっただけだろう。金を払うから乗せてくれョ」と検札官に毒づいていたが、無視されて、電車は動き出した。

 なにしろ次の電車はたぶん一時間後にしかない。しかも駅舎は郊外の原っぱに建っていて、周りは何もない。何もないベンチで1時間過ごすのも悪くはない。涼しい風が吹いている。

 

ポルトガルのえんと MUZの部屋 エッセイの本棚へ

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする