ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

125. サロンゴ、サルモネッテ、ラスガッソ

2016-01-31 | エッセイ

 今まで「バラの花」の絵が掛かっていた壁に釘だけが出ている。ビトシはバラの絵に手を加えているのだろう。私は第2アトリエから「カンタリル」(赤魚の様な魚)の絵を探し出してきてその場所に掛けた。暫くしてビトシがその自分が描いた絵を眺めていたかと思うと「キンメダイでも描こうかな~」と言い出した。私はこれでキンメダイが食べられると密かに嬉しくなった。

 サド湾に漁船が無数に出ている。いつもはキッチンの窓から数を数えるのだが、今日は数えられないくらいたくさんだ。なにか魚が大量にやってきたのだろう。なにがやってきたのか確かめなければいけない!

 そういう訳で久しぶりにメルカドに出かけることにした。

 土曜日のせいか広い駐車場はすでに満杯。少し離れたところに空きがあって、そこに停めて歩いて行った。

 メルカドの中はワオンワオンと騒々しく、買い物客でいっぱいだ。今までよく買っていたデオドラの店は、しばらく来ないうちに店じまいをしたようだ。隣のマグロ屋がデオドラの売り台を使っている。デオドラの店は魚がいつも新しく、そのうえ安かった。いつもキンメダイを買っていたのだが、ほかのどの店よりも安かった。そんな店が消えてしまったのは残念だ。デオドラ夫婦は二人ともけっこう年だったから、年金をもらうようになって、店じまいをしたのかもしれない。

 メルカドの真ん中にある、以前はアジを専門に売っていた魚屋がすごい人だかりがしている。私たちも今まで時々買っていた店だ。今はあつかう魚種を大幅に増やしている。人だかりで、何を売っているのか見えないくらいだ。人の隙間からキンメダイの赤が見えた。目の前に太ったおばさんたちが陣取り、その後ろに並んだら、なかなか進まない。いろいろ魚を買って、しかもさばき方に細かく注文している。右隣のおばさんが先に終って、後ろの人がすっと前に進み、間髪をおかず、注文した。私の前のおばさんはなかなか終らない。

 魚屋は6人の人数で注文を聞き、魚をさばいているが、背びれや尾びれをハサミで切り取り、ウロコを取って、内臓を取り出し、切り身にする作業は時間がかかる。日本のように魚を二枚や三枚におろす手間のかかることはしてくれないが、それでもみんなてんてこ舞いだ。一人で魚を一尾、二尾買う人はいないし、まして今日は土曜日で、家族が集まって食事をするから、みんな大量に買う。

 やっと私たちの番がきて、二人暮らしで大量に買えない私たちはキンメダイとサルモネッテを2尾ずつ買った。キンメダイがどさっと並んでいる。少し小型だが、ぴかぴかと光って生きがよさそう。サド湾にはキンメダイが大量に押し寄せてきたのだろうか。

 ビトシが絵にするというので、下処理は何もしないでそのままでいいと言った。そんな客は他には居ないので、魚屋は驚いていた。

 

サロンゴ(キンメダイ)

 サルモネッテは小さいが高級魚だ。先日大衆レストランで注文したら、あまり鮮度が良くなかったので、今日は自分でコンロで焼いて御飯と一緒に食べよう。サルモネッテは口ひげが付いている。鯉のヒゲのようだ。カニやエビをエサにしているそうで、そのせいかとても美味しい。でも我家はマンションなので、炭火焼ができない。やはり電気コンロで焼くよりも炭火焼の方が格段に味が良い。レストランでは炭火焼だが、白い御飯がない。焼き魚とパンでは日本人としてはものたりない。さてどっちが良いか~。今日は久しぶりに電気コンロで焼き魚!

 

サルモネッテ

 

 ビトシがもう一尾買おうと言う。通りがかりに変った魚を見たそうだ。キンメダイよりむしろその魚の方に絵心を誘われた様だ。さっそくその店に行ってみた。それは赤いオコゼのようなごわごわした魚で、先程は二尾並んでいたのに、その間に一尾は売れたらしく、もう一尾しか残っていない。

 魚屋が計りにかけてから、さばこうとした。何もしなくていいと言うと、魚屋は「これは棘が鋭いから怪我をするよ」と忠告してくれた。

 ビトシはこの魚を絵に描くつもりなので、内臓やヒレを取られたら困るのだ。

 何もしなくて良かった魚屋は笑って喜んでいた。

 

 

ラスガッソ(オニカサゴ)

 

 その魚はRASGASSOと言う。さっそくネットで調べてみると、日本語ではオニカサゴという魚らしい。背びれや腹びれなどハリのようになった部分が毒を持っていて、刺されると猛烈に痛いそうだ。オニカサゴは見るからに棘とげで危険そうだ。エラの部分にも特にでかい棘がある。

 ビトシは持って帰って早速、3種類の魚ともさらさらとスケッチをした。

 今までこんな魚をさばいたことがなかったので、何も処理しないでそのまま焼くことにした。

 焼きあがってから、食べやすいようにハサミでカットした。

 頭の部分は塩焼きのあとスープにしたら、旨い出汁になった。なかなか美味しい魚だ。でも、ビトシが背びれについている皮が美味しいと食べたら、あとで唇がピリピリとしびれたという。危ないところだった。

 でもオニカサゴは刺身が美味しいらしい。次にまたあったら、試してみよう。

 オニカサゴの塩焼きやスープは既にお腹の中に入ってしまったが、アトリエではオニカサゴの油彩は未だ半ばである。仕上がりまでにはもう1尾必要かもしれない。  MUZ

 

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124. ゼのいる食堂

2016-01-01 | エッセイ

露店市にはたくさんの食堂が並んでいる。その中の一軒は私たちの行きつけの店だ。ここはずいぶん人気のある店で、かなり早めに行かないと席を確保できないから、12時前に行くようにしているのだが、うっかりするともう店の前には行列ができている。隣の店がまだがらがらなのに、だれもそこに座ろうとしない。

メニューはどこも同じ様なもので、チキンや豚の三枚肉の炭火焼や豆の煮込み料理など。それにサラダとバタータフリットと味付けした御飯が付く。魚好きの私としてはぜひ焼き魚をやってほしいのだが、それはどこの店もやっていない。チキンも三枚肉も仕入れた物をそのまま焼くから、さばく必要がないので、魚に比べて手軽なのだ。

チキンは一度に6匹ほどを一本の鉄の棒に刺し、それを10本ほど並べて炭火の上に置く。それが自動的にくるくる回りながら少しづつ焼けていくので、手がかからない。

お客が並び始めると、ゼは忙しくなる。並んでいるのは顔見知りの常連がほとんどだから、彼らと握手をしてふたことみこと話をして、席はすぐ空くから~と言いながら世話を焼く。声をかけられたお客は、そのあとずいぶん待たされるのだが、よその店に行くことはしない。

ようやく先客が立ち去って空席ができるとゼが手招きをする。でも先客の食べた後がそのままになっているから、これからがやっかいだ。従業員は10人以上いるが、みんなばたばたと動き回り、片付ける人がいない。

いつも思うのだが、片付ける人、そのあとテーブルに紙クロスを敷き、セットをして注文を聞く人をそれぞれ専門にしたら、ずいぶんスムーズにいくと思うのだが、なぜかそうはいかない。ゼが常に店内に目を配り、あれこれ指図しているが、みんな忙しい。

片付けていないテーブルに座ると、私たちはなるべく持って行きやすいように紙クロスで簡単に覆う。

ある日、特別に立て込んでいた時に、並びの席がふたつ空いた。その側でじっと待っていた中年の夫婦がやっとそこに座ったのだが、隣の席にはかなり老人の夫婦がこれまたやっと座った。老夫婦はずいぶん前から通路に待っていて、おとなしいので忘れられていたようだ。中年の夫婦はわりとぱりっとした服装で、この食堂には場違いな感じだ。しかし中年の夫が目の前のテーブルを片付けて洗い場に持っていき、新しい紙クロスとナイフ、フォークを持ってきてセットした。しかも隣の老人夫婦のテーブルまで片付けて、新しくセットした。こんなことをするお客は見たことがない。服装からみて、たぶんクルマは高級車に乗っているのだろう。普通はふんぞり返っているタイプに見えるのだが、見かけによらず親切なひとだ。

ゼがそれを見ていたのかどうかわからないが、しばらくして皿洗いのおばさんが表に出てきて、あちこちのテーブルの片づけを始めた。これで立っていたお客が数組はテーブルにつける。

私たちのテーブルにようやく料理が運ばれてきた。炭火焼のチキン一匹とサラダとバタータフリット(ポンフリ)とバターライス。飲物はノンアルコールビア、コップ一杯の赤ワイン。

他の人達もほとんどがチキンを食べているが、炭火焼のエントレメアーダ(三枚肉)をパンに挟んだものとソッパ(スープ)の人も多い。エントレメアーダを炭火で焼いているのは、フセインおじさん。イラクのフセインによく似ているから、フセインおじさんと呼んでいる。いつももくもくと三枚肉を焼いていて、パンにどっさり挟んでいる。

 

フセインおじさんがエントレメアーダを焼いている。

 

ゼはいつもにこにこして、どのお客にも愛想が良い。年齢は分らないが、たぶん30歳代だろうと思う。お客からの人気も良い。彼はこの店のオーナーかどうか分らないが、いつも店を采配しているから、支配人という感じだ。

 

 

七面鳥たち

 

年末の露店市は買い物客でごった返す。ことにクリスマス前となると、七面鳥が並ぶ。狭い囲いに入れられた七面鳥たちはいかにも窮屈そうに首を縮め、背中を丸めて、それでも抗議の声ひとつ上げずにおとなしい。

 

 

黒豚は2匹ともじっとして動かない。

 

別の檻には黒豚の子供が二匹押し込められている。七面鳥も黒豚も食べられる運命だ。

もう一つの囲いにはちょっと変わったウサギがいる。これはたぶんペットとして売っているのだろう。

 

 

うさぎが3匹

 

 ホロホロ鳥も籠の中に押し込まれている。これは「アフリカンチキン」と呼ばれている。以前にスーパーの鳥売り場で売っていたので、買ったのだが、臭みがあってあまり美味しくなかった。それ以来、買っていない。やはり畑や野原で歩いているのを見ているだけのほうが良い。

 

 

狭い籠の中に押し込められたホロホロ鳥

 

ごったがえす人の波をかき分けて歩いていると、ゼの食堂でやっと座れた老夫婦が衣料品の店で買物をしているのを見かけた。 MUZ

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