ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

175. 屋根の上のフクロウ

2021-05-01 | 風物

  2年近く続いた階下の工事がやっと終わり、老人が住み始めた。家族は見かけないから、どうやら一人暮らしの女性らしい。

 それと同時ぐらいに、鳩が大勢やって来るようになった。不思議に思って見ていると、階下の東側の電線にずらりと鳩が並んでいる。階下の女性が餌を投げるのを待っているのだ。

 我が家のベランダにもこのごろ鳩の糞がべったりついている。生々しいので、乾くまで待って掃除をする。北側に駐車してある我が家のクルマにも屋根やフロントグラスの上にボトボトと鳩の糞。困ったものだ。

 鳩の糞には困ったものだが、一人暮らし老人のささやかな楽しみを奪ってもいけない。鳩の糞は雑巾で拭けば綺麗になる。

 西側のアパートはもうずいぶん長いこと外壁の塗り替えをしていないので、ボロボロになっている。鳩がいつも止まっているので壁が糞で汚れて汚らしい。塗装工事は住民らの話し合いで決まる。西側のアパートは住人が老人ばかりだったので、塗り替え工事の費用を出せない人が多かったのだろう。ある日、最上階のベランダのひさしがそこだけべっとりと朱色に塗られていた。そこはいつも鳩がたくさん寄り集まっていた場所だ。不思議に思っていると、少しずつ鳩が少なくなっていた。鳩は朱色が嫌いなのかもしれない。でもその上の屋根にはどっさり止まっている。

 ある日、二人の男たちがやってきて、金属の足場を組み始めた。塗装工事が始まりそうだ。

 二人は70代くらいの年齢で、二人とも片足を引きずっている。足が悪いのに高い壁に昇って塗装ができるのだろうかと心配したが、何の苦労もなく足場を下から順番に積み上げていく。滑車を使って重い鉄パイプを上に運び、その上に渡す分厚い板を2枚ずつ持ち上げて、次は塗料の入った大きなバケツを吊り上げる。この作業をすべて滑車を使ってやるからわりと楽なのかもしれない。二人は長年一緒に仕事をしてきたのか、阿吽の呼吸で淡々と仕事をこなしていく。ポルトガル人には珍しいことに、ほとんど喋らない。毎日朝8時にやってきて、昼休みまで黙々と働き、午後もほとんど無言で夕方5時まで仕事をする。

 塗装工事は日に日に進んで、1週間ほどで終わってしまった。

 もう終わりかなと思っていると、翌週には屋根の上に二人の姿が見えた。屋根の上に廊下の明り取りの天窓がある。ガラス張りだから、隙間ができて雨漏りがするようだ。我が家のアパートもやはり階段に雨漏りがするから、判る。老人たちはガラスのコウキング工事をして、帰って行った。これで一件落着。無事に完了。

 西側のアパートは見違えるようになり、まるでぴかぴかの新築マンションのようになった。

 ある日、アパートの屋根の縁に見慣れない大型の鳥が止まっているのが見えた。じっと動かない。フクロウのように見える。しかも5箇所に五羽も止まっている。あまりにも動かないので、不思議に思って双眼鏡を取り出した。動かないはずだ。それは陶器で作られたフクロウだ。

 

 

 それから2週間ほど経つが、西側のアパートには鳩の姿が一羽も見えない。あのフクロウが威力を発揮しているのだ。きっと。

MUZ 2021/04/30

 

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