ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

119. 空き地の猫族

2015-07-31 | エッセイ

我家のアパートの玄関前にはグレーぶちの猫(グレ猫)が住み着いている。

その一匹の猫に三人のセニョーラたちが御飯を与えている。

一階に住むマリアさんと2階のマダレナおばさん、そして隣の棟の黒犬セニョーラ。

マリアさんは以前は小さな犬を飼っていた。その犬はまるでタスマニアンデビルのような醜い犬だったが、飼い主にとっては可愛くてしょうがないようで、自分の子供のように可愛がっていた。でも数年後に老衰で死んでしまって、そのあとはなにもペットは飼わないようだ。

そのうち、玄関の前にグレ猫が住み着くようになった。

首輪をはめているので、どこかの飼い猫だろうと思っていたが、マダレナおばさんの話では、飼い主はいないが、避妊手術はしているという。どういうこと?

 

玄関前の石畳で御飯が来るのを待っているグレ猫

 

マダレナおばさんは以前は猫を飼っていたが、2匹とも次々に死んでしまった。それから健康そのものだった御主人も亡くなった。今は一人暮らしである。マリアさんの御主人も癌で亡くなって、彼女も一人暮らしである。隣の棟の黒犬セニョーラは御主人は健在だが、黒犬は死んでしまった。

みんな淋しいのだ。

 

グレ猫は一日中玄関前で寝そべっている。

暑いときは日陰や車の下に逃れ、寒いときは日当たりの良い場所にいる。

玄関前は北向きなので、日当りはあまり良くない。そういう時は、高いところ、つまりクルマの屋根に寝そべっている。どこから上るかというと、フロントグラスからである。れっきとした証拠に、フロントグラスに点々と猫の足跡が付いている。困ったものだ。

「こら、グレ猫、たまには掃除をしろ!」と、毎日車の掃除をしているビトシは言いたいことだろう。

私が外に出て行くと、グレ猫はうっすらと目を開けてジロッと横目で見ている。

たまにはなでてやろうかなと思って近づくと、パッと逃げていく。可愛くない!

ところが、マダレナおばさんが出て行くと、グレ猫は「にゃんにゃんにゃん~」と可愛い鳴き声を出しながらいそいそと近づいていく。ほんとに同じ猫だろうか?どういう性格や!

このグレ猫の態度の差はなんなのだ~と、考えると、ただ単に「えさをくれる人か、くれない人か」の違いだけ。

それがグレ猫にとっては最大の関心事なのだ。

 

 

「わ~い、猫だ」と双子の男の子達に指さされて、緊張しているグレ猫

 

三人の女性たちが適当に御飯をくれるから、グレ猫はいつもぷっくり太っている。御飯も残っている場合が多い。

ある日、痩せた黒猫が少し離れた所にいて、グレ猫を食い入るように見ていた。そしてグレ猫が御飯を食べ終わるのを待ちかねたように走りよってきて、御飯の上を横っ飛びにかすめて、あっという間に残っていた小あじの頭をくわえて逃げていった。まるでバスケット選手のようにすばやい。

 

私の部屋の南側は水道局のタンクがあり、周りは草の生えた空き地で、全体が金網のフェンスで囲まれている。

そこに野良猫たちが住み着いている。散歩に来た犬たちは中に入れないから、野良猫たちにとっては天国だ。

そのうえ、猫にとってありがたいことに、斜め向いの4階に住む老夫婦が朝、晩、窓から猫たちにえさを投げ与えていた。

猫たちはその時間になると、ぞろぞろと集まって、じっと上を向いて待っていた。

老夫婦は4階に住んでいるが、東側には一階の住人の庭があるので、猫たちにえさを投げ与えるには技術がいる。

まっすぐ下に投げたら一階の庭に落ちてしまうので、4階から斜め右に勢い良く投げ、確実に一階の庭のフェンスの外、つまり水道局のフェンスの中に入るようにする技術が必要だ。勢い余って、猫の身体に命中するときもあるし、一階の庭にこぼれ落ちることもあるようだ。

 一階の住人にとったら迷惑な話だ。とうとう4階の老夫婦に苦情を言ったとみえて、ぷっつりとえさを投げなくなった。たぶん老夫婦は西側のベランダから投げ与えているのだろう。

 

野良猫たちは多いときは12匹もいた。

子猫たちも時々生れる。だいたい4匹ぐらい生れるが、自分で歩きまわれるようになると、親猫が子猫たちを引き連れて、空き地デビューする。でも他の大人猫を警戒して、母猫は常に監視をおこたらないようだ。子猫たちがいつでも草むらにさっと隠れられる場所にいる。

6月に4匹の子猫と母猫が姿をあらわした。

黒猫が3匹、白黒が一匹。このごろ空き地には黒猫ばかりが増え続けているから、こんどの子猫の中に白黒子猫が一匹でもいたことは、うれしい。

ところがこの一家はすぐに姿が見えなくなった。だいぶ日にちが経ってから、姿を現わした時には、子猫が2匹だけになっていた。それも2匹とも黒猫。白黒の子猫の姿が見えない。

ある日、空き地の草陰に黒い小さな物が見えた。黒いビニール袋が風に舞って落ちてきたのだろうか?

でもどうしても子猫がうずくまっているように見えてしかたがない。

しかし子猫にしてはぜんぜん動かないし、しかも太陽ががんがん当っている。ひょっとして生き残った2匹の子猫の一匹だろうか?

その状態が3日も続いたので、あれは子猫ではなくてやっぱり黒いビニール袋だろうと思った。

 水道局の空き地は時々草刈をする。

いつも1週間以上掛かって二人の男が草刈をするのだが、四日目にいよいよ黒いビニール袋と思われる場所に迫ってきた。すると、母猫がその黒いものを口にくわえてすたすたと歩きだした。だらんとぶら下がった黒いものは、母猫が口から外すと、よろよろと歩き始めた。

やっぱり子猫だったのだ!

それにしてもなぜ直射日光にさらされて何日もじっと動かなかったのだろうか?

不思議なことがあるものだ。

 翌日、母猫は子猫を従えて空き地にやってきた。でも子猫は一匹しかいない。昨日の子猫はやはり駄目だったのだろう。かなり弱っていた様子だったから~。

それから二日後、母猫はまたやって来た。今度は二匹の子猫が元気な足取りで母猫のあとを付いている。

その一匹は、あの弱っていた子猫に違いない。

 

 南側の隣の一軒家との境にはゴムノキがおおきく枝を伸ばしてこんもりとした茂みを作っている。

ベランダから下を見ていたビトシが、「子猫が遊んでるわ。5匹もいるで~」と感心したように言った。

覗いてみると、なるほど小さな子猫たちがもごもごと動いている。

白黒が3匹、黄色の縞々が一匹、薄いグレーと黒のツートンカラーが一匹。

黒猫は一匹もいない。

これからは多彩な猫たちが見られそうだ。

空き地の猫族は賑やかになるだろう。  MUZ

 

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