ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

193. 塩ダラ・バカリヤウ

2022-11-01 | 風物

ノルウェーの国旗をつけた大型帆船。手前の黒い船体は2本マスト大航海時代のカラベラ船(10月20日、我が家のベランダから望遠で撮影)

 

 10月半ば、サド湾に突然3本マストの大型帆船がやってきた 。あれはポルトガルの帆船サグレス号ではないだろうか?しばらくして別の3本マストの大型帆船も姿を現した。これはノルウェーの国旗をなびかせている。遠い北欧の国から海を越えてやってきたのだ。考えたら、はるか昔はバイキングの船がこの辺りまでやってきたし、ポルトガルからも帆船でタラを獲りに北欧の海まででかけていたのだから、驚くこともないか。

 

 今でもポルトガル料理はバカリヤウを使ったものが多い。塩漬けの乾燥したもので、それを水で戻して塩を抜いて調理する。

30年前に買ったセトゥーバルの絵ハガキ

 

 ポルトガルでは昔はわざわざ帆船で荒波を乗り越えてノルウェーまで出かけてタラを獲っていた。その頃の映像が残っているが、帆船から小舟に乗り換えてタラを獲って、ポルトガルの塩田で取れた塩でたっぷり塩漬けをして持ち帰っていた。

 

 私は日本では塩ダラはほとんどなじみがなかったが、そういえば祖母がたまに塩ダラの澄まし汁を作っていた。これは東北生れの祖父のためにつくっていたのだ。当時は子供の口には美味しいとは思わなかった。

 ところがポルトガルに住み始めて、塩ダラ料理が多いので魚好きのわたしは何度か食べるうちに病みつきになってしまった。そして疑問が生まれた。海に囲まれたポルトガルでは獲れる魚の種類が多いはずなのに、どうしてわざわざノルウェーの海までタラを獲りにいくのだろうか?不思議だった。

 数十年前になるが、内陸を旅している時、食堂でメニューを見ると、魚のコーナーには焼き魚などはなく、バカリヤウ料理しか載っていなかったと思う。しかたなくその中から一品を注文することになった。そのうちなかなか美味しいと思うようになり、やがて自分でも見様見まねでつくるようになった。

 そのころは流通システムが整っていなくて、内陸では新鮮な魚は手に入りにくかったのだ。その代わりに塩漬けのタラは前日に塩抜きをしたらいつでも使えるから、食堂にとっては便利だったのだろう。

スーパー『コンチネンテ』のちらし。ノルウエーブランドのバカリヤウと黒太刀魚などの広告。全てキロ単位の価格。二枚貝=1,99€。黒太刀魚=5,99€。クルマエビ=8,99€。バカリヤウが10,79€。高級食材なのが判る。

 このごろスーパーなどでも塩漬けの他に、冷凍したバカリヤウが売っている。それは塩漬けではないからいつものように料理すると、なんだか美味しくない。やはり塩漬けのタラの意味がここにあったのだ。

 たとえば生の椎茸より干した椎茸の方が味が良くなる。それと同じでバカリヤウは塩漬けして干すことによりグルタミンが増えて旨味が増すのだろう。

 昔、ノルウェーを最北端ノード・カップに向かって旅していた時に、家の軒先に大きな魚が干してあるのを何か所でも見かけたものだ。あれがバカリヤウだったのだ。でもノルウェーでは当時バカリヤウ料理は目につかなかった。

©2022/11/01 MUZ

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