今日は朝から騒がしい。 わが家の脇の道を、村人がゾロゾロと神社への坂道を登って行くのだ。
「おいクロ、元気か!」 などと拙者のことを呼び捨てにする失礼な輩もいる。 今日は鎮守の杜の春祭りだ。
桜が咲き、タケノコが出始め、田植えの準備に取り掛かる頃になると、五穀豊穣を願う村人達は神主さんを呼んで祈祷をしてもらう。このお祭りは、秋の収穫感謝祭と並んで、村の大事な行事である。
ご主人様が住むこの村(地区)には現在約20戸の家(農家)がある。以前は30戸あったらしいから三分の二に減少したことになる。そのほとんどの農家は60歳以上の高齢者によってなんとか維持されているが、この里山には休耕田や放棄農地が目立つ、いわゆる限界集落的里山である。若者の姿を見ることはほとんどない。
源頼朝伝説が語り継がれるこの自然豊かな里山を、イノシシやサルや鹿などのケモノと共生する「夢の楽園里山」とすることができるかどうか、利口で働き者と世界でも評判のニッポンジンの知恵と技の見せ所である。
桜吹雪の限界集落的里山の鎮守の杜に、よろずの神に祈りを捧げる神主の声が響き渡る。