「草刈だ、草刈だ、クロちゃん草刈だ!」
ご主人様は朝からいつにもなく気合が入っている様子である。どうやら近々に客人の来訪がある気配だ。
ご主人様が住むこの隠居屋敷はとても広い。なにしろその敷地内には江戸時代に建てられたという長屋門(昔はこの建物の一角に若衆が住み、もう一方に牛小屋や納屋がある)があり、裏手の竹林の先の高台には家主の先祖代々の墓地がある。従って、その敷地はかなりの広さとなるわけであり、雑草が繁茂する面積も尋常ではない。気合を入れなければ、とても始められないのであろう。
納屋から草刈機を持ち出したご主人様は、「ブーーーン」という威勢のいい音と共に、敷地の雑草を刈り始めた。 まず拙者のテリトリーとなっている前庭からである。
その前庭は居間(客間)に面しており、日本庭園的風情のある庭であるが、最近ではクローバーやタンポポやその他雑多な雑草がはびこり、この時期になるとそれらが急激に成長しだし、風情を著しく損ねる。
従って客人が訪ねて来るとなると、風情をとても大事にするご主人様は、気合を入れて雑草退治に取り掛かからねばならないのだ。 最近の地球温暖化の影響で、この里山の雑草繁茂も尋常ではなくなってきたという。
これから暑い夏に向かって、雑草どもとのご主人様の苦闘の日々が始まる。