おやじのつぶやき2

「おやじのつぶやき」続編。街道歩きや川歩き、散歩がてらの写真付きでお届けします。

歌舞伎鑑賞教室。その6。歌舞伎十八番のうち『暫』。つらね・見栄を切る・六方を踏む。・・・。観客を飽きさせないお芝居。

2023-07-05 18:44:09 | 歌舞伎鑑賞教室

舞台は鶴岡八幡宮、清原武衡が関白の宣下を受けるところ。天下を手中に収めたかのように思い上がった様子。鯰坊主の震斉、女鯰の照葉、成田五郎ら臣下たちが居並ぶ。

                           

そこへ加茂次郎義綱が許婚の桂の前たちを連れ立って登場する。朝廷の繁栄を祈願するため大福帳(商家で使われる帳簿)を掛額に収めて奉納にきた。

加茂家をかねてからこころよく思っていない武衡は義綱に難くせをつける。「商人が使う卑しきものを奉納するとは神社を冒涜するのか」と掛額を引きおろし、はては「桂の前を差し出して家臣になれ」などと無理難題を浴びせる。
うんと言わぬ「義綱」に腹を立て「ならぬなら首をはねてしまうぞ」と腹出したちに命じて義綱ら一同を斬り殺そうとする。

まさに絶体絶命の瞬間、花道の登場口、揚幕(あげまく)の向こうから「しばらく!」と大きな声。ムカデのようなカツラ(車鬢(くるまびん))、真紅の筋隅(すじくま)、柿色の凧のようなものがついた巨大な衣装をまとい、2mを超える大太刀を差した恐ろしげな大男が登場する。

「成田屋」の屋号。

               

驚く敵方が名前を尋ねると、男は花道の七三(しちさん)まで来て立ち止まり「鎌倉権五郎景政」と名乗る。

思わぬ邪魔者で苦々しい武衡は「追い払え」と命令する。家来たち(鯰坊主・腹出し・成田五郎など)が代わる代わる、おどしたりなだめたり、力づくでかかったりするが、男はびくともせず、ずんずん舞台中央まで進む。

           

そして鎌倉権五郎は武衡が奉納した宝剣はニセモノで朝廷を呪う仕掛けがしてあるとか、加茂家が探している「探題の印」を盗んだのは武衡の者だ、今すぐ返せと武衡の悪事を暴き立てて詰め寄る。

すると急に、女鯰の照葉が寝返る。

実は女鯰は始めからスパイ。いつの間にか「探題の印」を奪い、宝剣もホンモノを見つけ出していた。女鯰は印と宝剣を鎌倉権五郎に渡す。家宝が手元に戻り、御家は安泰と喜ぶ加茂家一同。

    

            

最後の悪あがきで討ちかかってくる敵方を、鎌倉権五郎は大太刀を一振りなで斬りにして、

             

                    

「弱虫めら」と捨てぜりふを残して、意気揚々と花道を引き上げて行く。

           

 「暫」はストーリー(筋書き)は単純だが、歌舞伎的に演出された様式とその迫力を楽しむ演目。

主人公・鎌倉権五郎が登場するとき、「しーばーらーくー!」という大音声が聞こえてくると、敵方はみな何事かと慌てふためきます。

登場した権五郎は、なかなか本舞台に上がってこないで、花道の上で威勢のいい「つらね」と呼ばれる長セリフを披露します。そして敵方の鯰坊主の要求に対して、「いーやーだー!」とまるで子供のような無邪気さで答えます。

敵方が「あーりゃ、こーりゃ」という、化粧声と呼ばれる荒事特有の掛け声をかけて、なぜかヒーローの登場を盛り上げるのも面白い趣向となっており、最後は敵を倒した権五郎の「よーわーむーしーめーらー!」という爽快な捨て台詞が舞台に響きわたり、「ヤットコトッチャ、ウントコナァ」という掛け声と共に花道を引き上げていく。

衣装の豪快さ

主人公の鎌倉権五郎の巨大な衣装の総重量は、なんと60キロ!とにかく動くのも大変そうな重装備ですが、上から順に説明していきます。

  1. 呪力を宿した力の象徴でもある白い「力紙ちからがみ
  2. 前髪は少年である印。本来は中心から分かれているが、「わけ櫛」で分け目にしている
  3. 車海老をイメージした「五本車鬢ごほんくるまびん」という髪型
  4. 隈取は荒事の典型的な最も力強い「筋隈すじぐま
  5. 結び目の先端や輪っかを上にピンと跳ね上げた「はねだすき
  6. 袖は成田屋の家紋の三升の紋を染め抜いた「大紋
  7. 7尺(2メートル)はあろうかという黒塗りの「大太刀
  8. 高さ30センチもある「継ぎ足

江戸歌舞伎の1年間の興行の始まりは11月の「顔見世(かおみせ)」だった。役者たちが舞台で一堂に会し、一座の新しい顔ぶれを観客に披露する年中行事で、「顔見世」では悪人に殺されそうになる善人を、「しばらく」の声とともに正義の味方が登場し、窮地を救う場面が組み込まれる習わしがあった。明治に入り、この場面を独立させて1幕ものとなったものが「暫」。

            


 つらね

主に荒事の主役が花道で長々と述べるせりふのことをいい、歌舞伎独特の闊達な雄弁術。歌舞伎十八番『暫』の鎌倉権五郎がもっとも代表的なところです。

江戸の芝居では毎年11月の顔見世狂言として必ず『暫』が上演され、その際のつらねは必ずその役者が書くというのが決まりでしたが、実はそれも名目上で実際は座付の作者が書いていたようです。

冒頭には「東夷南蛮北狄西戎(とういなんばんほくてきせいじゅう)、天地乾坤四夷八荒(てんちけんこんしいばっこう)の隅々まで、鳴り響いたる歌舞伎の華」といった少々難解な美文が並びますが、言葉の流れと勢いで観客を魅了します。

みえを切る

見得とは、演目の見せ場で役者がポーズを決めて静止し、首を回したり目玉を中央に寄せたりする動作全体を指す。これは、役者自身やその場面を客に印象付ける効果、舞台全体を美しく演出する効果がある。

六方を踏む

手足の動きを誇張して、歩いたり走ったりする様子を象徴的に表現した演出です。おもに「荒事(あらごと)」の役が「花道(はなみち)」を引込む時に演じられ、力強さと荒々しさを観客に強く印象付けます。


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