殴る蹴るの悪虐非道な新聞配達店
—新聞配達労働者から、お客さん、読者向けビラ―
大井・中延、東京日々新聞読者諸君に訴ふ
私達配達人は、この度大井の主任原口と中延の江上の酷使に堪えがたく断然共同でストライキをすることにしました。私達は今迄読者の方々に迷惑をかけるに忍びず、今日迄忍んでいましたが、元来ゴロツキ上がりの主任原口は益々暴虐をあえてし、給料は払わず、請求すればヒッパタキ、或いは蹴とばし、読者勧誘には朝のうちから叩き出して、お得意さんをつくってこないと飯も食わせない状態です。手向かい出来ない私達をこうして飽く迄いじめていたのです。
そこで私達は皆で主任に嘆願しましたところ、「生意気ぬかすとヒッパたくぞ」と言い、その上自分の兄き分のゴロツキを数名連れてきて、私達の代表者二名を暴力的に首切りました。こうなれば私達は自分等が生きる為にも戦わなければならなくなりなりました。
私達は両店共同し十一名が起って私達代表者二名の復職を嘆願しました。ところがいつもの手で脅してきました。けれども私達は最早その手にのってはいられません。仕方なく十八日の夕刊からストライキをはじめたのです。
私達の切ない要求をみて下さい。
一、解雇された二人に手当をやってください
一、給料はキチンと払ってください
一、おしつけ責任はいやです
一、現金の代わりの受け取り証はやめて下さい
こんな要求です。どうか皆様どちらが悪いか十分に御批判下さい
大井・中延東京日々出張所配達人
諸者各位
新聞配達労働者からの訴え ! 東京日々新聞社大井出張所労働争議―1928年の労働争議
参照・協調会史料
場所 品川荏原郡大井町東京日々新聞社大井出張所
争議参加者 男11人(大井と中延二店の新聞配達9人と本店2名)
応援 借家人同盟
争議発生 1928年6月18日
(労働組合を作ろうと呼びかけていた新聞配達労働者2名を解雇)
品川大井の東京日々新聞大井出張所では、上のビラにあるように新聞配達労働者に対して殴る蹴るの暴力支配や賃金不払いが続いていた。その頃荏原地方で「新聞代表者会議」が開催され、大井出張所の旧労農党員だった新聞配達の2人は、新聞配達労働組合を作ろうと地元の各新聞配達店を訪ねては、同僚たちに熱心に労働組合の宣伝をするなど奮闘していた。それを知った労働組合を嫌悪する東京日々新聞社大井出張所は1928年6月16日、2人を解雇してきた。解雇された2人は南品川の借家同盟に相談に行った。6月18日、東京日々新聞社大井と中延出張所の新聞配達労働者9人と本店員2名の計11名が以下の要求を提出しストライキに入った。その日の夕刊配達はストップした。
要求書
一、解雇絶対反対
一、最低賃金30円以上支給すること
一、強制勧誘の撤廃
(配達店)
配達店側は即日、ストライキ参加労働者全員を解雇し、新配達人の募集をした。
(配達店糾弾演説会)
6月26日荏原町下蛇窪不動尊で東京日々新聞社大井出張所の不当解雇糾弾演説会が開かれ聴衆約50名が集まった。弁士3名に「臨監」から中止命令がだされた。
*注
「労秘第683号」の報告はここまでです。この争議のその後の経過や結論の記載はありません。
(結果)
1928年9月22日の「労秘第1169号」の「東京日々新聞社大井出張所労働争議に関する件」に、
「組合組織を計画した配達人二名の解雇に基づき発生した標記争議に就ては、その後被解雇者の大部分は何れも他に就職せるも主謀者江草弥三郎及金子義次の両名は引き続き復職を要求中なりしが、両者とも客月中旬頃いずれにか転出し、その後何等の交渉等なく、本争議は自然消滅したるものと認められる」とだけありました。敗北していたことがわかりました。
以上