中小企業労働者の闘い ! ② 細井ヤスリ工場争議 1926年の労働争議(読書メモ)
参照「協調会史料」
東京豊多摩郡代々幡(よよはた)の細井鑢(ヤスリ)工場には労働者約200名が働いていた。1926年7月22日、工場側は2割から1割の賃下げを発表してきた。細井工場には日本労働組合評議会・関東金属労働組合に加盟していた約30名の労働者がいた。関東金属労働組合は賃下反対運動を展開した。23日全従業員代表数名が会社に賃下げ撤回の嘆願書を提出した。会社は会社の経営困難を理由に値下げはやむを得ないと拒絶してきた。27日には、組合本部役員も会社に来て賃下げ撤回を要請したが工場は同じように拒絶した。
(関東金属労組の細井工場労働者向けビラ「勇敢に戦え」)
細井鑢工場の兄弟諸君!!
わが細井工場の兄弟諸君が、このたび賃金値下げに対し、労働階級の利益を擁護するために勇敢に抗議せられたることは感激に堪えない。この諸君の必死な抗議に対して、もしも兄弟諸君のうちに行動を共にせず裏切り的行動に出る者があったならば、それは正に死せんとする兄弟の首を抜かんとするものであり、我ら正義の戦線を乱す人非人である。
兄弟諸君、勇敢に戦え!! それは諸君自身の生活を擁護することであり、全労働者階級を救うことである。
横暴なる細井資本家の賃金値下げに反対して立った諸君のこの正義の要求を、我が関東金属労働組合は全力を挙げて応援するものである。
大正十五年七月二十七日
日本労働組合評議会関東金属労働組合
(応援)
8月6日には、評議会の出版労働組合や無産青年同盟等も団交に出席したが、会社は拒絶し続けた。
(会社糾弾演説会)
8月7日午後7時より幡ヶ谷豊幡倶楽部において細井工場糾弾演説会が開かれ、組合員と付近の住民の約450名もの多くの人が駆け付けた。争議団員や関東金属労働組合員18名が演説し、資本家の賃下げという横暴を糾弾し、細井のような残虐な資本家をこの世から葬らねばならぬと次々に糾弾した。当日官憲は正服・私服警官を百数十名も動員し、4名の弁士が臨監警察官から「弁士中止」が命じられ、最後には演説会を解散させられた。警察は完全に会社側の手先であった。
(40名スト突入)
8月8日から約40名がストライキに突入し、淀橋の無産者新聞支局に争議団本部を設置した。
9日午前6時半、工場前に争議団約50名が集合し、出勤してくる労働者にストライキへの合流を呼び掛けた。争議団は工場内に入ろうとしてこれを拒もうとする工場側と烈しく衝突し警官隊が介入してきた。
(15名の検束弾圧に負けない)
10日朝6時半、争議団と応援部隊約60名は工場門前で前日と同じ様に出勤してくる労働者に呼びかけた。代々幡警察の不当な介入で組合員15名が検束されてしまった。しかしこの弾圧に決して揺るがない争議団員と応援部隊は、翌日11日には前日より多い約80名が工場前と更に労働者の家庭を一軒一軒訪ねては、共に立ち上がろうと呼びかけた。
(スト参加者86名に増加)
8月14日、ついに新たに46名の職場の労働者が決起した。ストライキ参加者は86名に増えた。要求書を提出した。
要求書
一、賃金値下絶対反対
一、争議中の賃金全額支給
一、争議費用は全額会社負担
一、本争議で絶対に犠牲者をださぬ事
(金属労働組合の応援)
本争議に評議会の関東金属労働組合本部は、執行委員を派遣し、各支部に対して以下の動員指令を発した。15日に大々的な大衆行動を計画したが代々幡警察署はこれを許可しなかった。
動員指令
細井工場争議に動員せよ
ー資本家と官憲の暴圧に墳起せよー
(・・・略・・)争議団の幹部十名と応援者三名その他が途を歩いている者等十数名が検束された。
我等はあくまで戦ふ!
同志諸君強力応援送れ!
大正十五年八月十五日
日本労働組合評議会関東金属労働組合
(事件)
①8月19日午後10時半頃に工場事務員宅を襲い暴行を働いたとして警察は争議団4名を検挙した。
②8月21日、組合員が工場裏山林に秘かに集合したと争議団3名が検挙され、拘留10日間に処された。
③8月23日、8月12日の工場内で起きた火事は争議団の一人が争議を有利に導こうと単独の意思で放火したものだと19歳の花井宗吉が検挙され、東京地方裁判所検事局に送致された。
(地域住民にビラ配布)
8月25日、争議団は地域住民に3度目のビラを配布した。
(会社回答)
30日、会社は「争議団全員解雇と解雇手当総額4,250円の支払い」とする争議解決案なる覚書を発表してきた。争議団はただちに絶対反対を決議し、あくまで初志貫徹を申し合わせた。
(解決)
9月3日午後4時、代々幡警察署長による以下の調停案を労資共に受け入れて争議は解決した。
調停案
一、解雇者は40名を限度とすること。ただし復職も認める事
一、解雇手当日給22日間支給する事
一、賃金引下は2割は1割に、1割は5分とする事
一、争議中の日給支給は、解雇者には22日分、その他は15日分を支給する事
一、争議費用として金500円を支給する事