

拾った棒切れを杖代わりにして歩き
穴の開いた拾いもののブーツに
同じく拾いものの黒いニット帽子
服は着替えが無く毎日同じ物を着て
靴下は二枚履き替え無し!
頬は深くこけ髪は多くが抜け落ちて
足の匂いはかなり目に滲みるが
御歳数えて七十二歳…
加えて無一文!財産は紙袋一つのみ!
そんな人と掛川という土地で会った…
聞くところによると
道頓堀での飯場暮らしをしていたが
社長が夜逃げ
持ち物を取る間も無く
飯場は木っ端微塵に取り壊され
従業員はそのまま野に放り出された…
その話が
何処まで本当なのかは分からないが
その夜の寒さに震えて眠れぬ姿に
僕は唯一持っている長袖のシャツを
彼に手渡し
幾らかの食料と飲み物を差し入れた…
この先、上野にて路上生活を送るか
生まれ故郷の大宮に戻るか
しかし兄弟達とは遥か昔に絶縁状態…
人間の晩年とは
その人がどう生きてきたかの縮図だ…
ただ…
差し入れをした時のその喜んだ顔が
今も忘れられない…
二日前が誕生日だったと笑っていた…
