初夏の風
高安ミツ子
オードラ姫(オーロラ姫)みたいにきれいと
舌足らずの幼子は
ふんわりと揺れる京鹿子とポーズをとっている
初夏の風は愛おしい思いを
むずがゆそうに染めている
「京鹿子」はピンク色のつぶつぶの小さい花を集めて、
梅雨空にハッとさせるほどの鮮やかさで咲いています。
緑の葉と花の色彩のコントラストは美しいです。
「京鹿子」とは京都で染める絞り染め一種に似ている
ことから名付けられたようです。
テイカカズラ
高安ミツ子
荒れ果てた家の垣根を
テイカカズラが
人の思い出を
絡めるように咲いている
陽に照らされた
雨上がりのテイカカズラは
子供たちの笑い声を蘇らせ
小さな風車の花は
群れになって涼やかに揺れている
空には薄く虹がかかり
少女たちが晴れがましく
通り過ぎていったように思えてくる
このひととき
花のほのかな香りに
私の不安は沈んでいく
初夏の風はおおらかに吹いている
定家鬘(テイカカズラ)は万葉植物であります。つる性の木で初夏の頃
5弁の可愛い花を咲かせ、香りもあります。きっと万葉人も心が動いた花なのでしょう。
我が家では大きな鉢に植えてありますが、いま満開です。亡くなった義母が残したものです。義母が他界し、6年目を迎えますが、花は義母の思いを咲いているように思えます。
定家鬘という花の由来は、藤原定家の定家から命名されたようです。藤原定家は後醍醐天皇の皇女「式内親王」に恋情を抱いていたようです。かなわなかったその思いは、「式内親王」の死後も忘れられず、彼女のお墓に定家の執念がまつわりついて花になったという言い伝えがあります。
色んな種類の薔薇(バラ)がさいています。梅雨時に豪華さを味わわせてくれます。薔薇には一つずつ名前があり、何かドラマさえ感じます。
こよなく薔薇に情熱を傾けたのが、ナポレオンの妃だったジョゼフィーヌであります。薔薇を愛でたジョゼフィーヌは、マルメゾン城の庭で世界中から薔薇を集め品種を改良し、育てたそうです。今、世界中に数々の薔薇があるのは、この妃の薔薇への深い思いがあったからといえましょう。
ナポレオンと離婚したジョゼフィーヌの生きる力になったのが薔薇の美しさとの出会いであったのでしょうか。信じられるものをそこに求めたようにも思えるのです。
ちなみに日本でも京成バラ園が生み出した新種の薔薇が、昨年ローマバラ国際コンクールで金賞を受賞と知りました。どんな薔薇かぜひ見たいと思っています。
我が家も薔薇が咲きました。中でも薔薇の「紅」(くれない)は丈夫で花もちがいい花です。梅雨にぬれながらも、たくましく紅色に咲いています。
年齢を重ねるにつれ、鋭い刃に刺されるような寂しい時間がどこかに潜んでいるように思えるときがあります。しかし、美しく咲いた薔薇を見ていると生きるための甘い雫をすすらせてもらった思いに駆られます。
どくだみは「ジュウヤク(十薬)」と呼ばれ、10の薬を合わせた位、薬としての効能があることから名づけられたようです。
薬草としての名前は聞いたことがあると思います。我が家の庭にもたくさん出ていて、その生命力は並みのものではありません。
清潔な白い襟を4枚そっとひろげ少女ように咲いていますが、これは花ではなく葉が変化した「苞(ほう)」であり、本当の花は、中心部分の黄色い穂であるそうです。
花言葉は「白い追憶」だそうですがなぜか、どくだみの花が好きという人に巡り合いません。
時々、私はどくだみをコップに挿し、冷蔵庫に入れます。 消臭剤の役目をしてくれます。
どくだみはいくつもの時代を超え人々に薬として恩恵を与えたようですが、見た目を気にする現代には、あまり植物としては可愛がれていないようです。
アジサイと並ぶ梅雨時の花です。目立たない花ですが、雨にぬれて咲いているどくだみをみると何故か懐かしさを感じます。