裸木は風に巻かれ
風は力むことなく
冬の輪郭をはっきりさせ
走り抜けていく
家ではストーブが燃え
母が眠りつづけている
顔が小さくなり
人間界の言葉をたくさん忘れ
時間が絡まって
いくつもの糸車がまわりだしている
こごった糸は直せないが
瑠璃色の母の記憶のいくつかを
意識の光になれるように
思い出させてあげたい
母の岸辺の一番近い場所で
嫁いだ三十年の年月のトレモロは
存在の重さで共鳴している
冬空はどんよりと沈黙し
久しく咲かなかった
アロエの花が
母の魂の色のように咲いている
隙間から吹いてくる風は
小さな渦になって
私の体内を冷たくかけぬけていった
冬の景色が
額縁になったガラス窓の向こうで
黙って座っていた