高安ミツ子
夏の終わりの夕顔は
探す秋風に首をゆすって
ひたむきに咲きだしました
宵闇に開花した純白の夕顔は
天に昇っていくようにも見え
天から降りてきたようにも思えます
ほのかな香りは
二人で歩いた半世紀を絡め
過ぎてきたいくつもの曲がり角や
くぐりぬけた思い出を連れてきて
二人に振りかけていくのです
青葉のように若やいでいたあのころ
はたまた暗い道すがら二人で木漏れ日の向こうへと
ひたすら歩んだあの時間は
この美しさに出会うための歩みだったのだろうか
ゆらゆらと一夜で散ってしまう夕顔のように
いつかは消えていく命だけれど
今宵の夕顔は生命の終わりをせき止めて
私の心を酔わせています
揺れ始めた秋の風は
人生の道すがらを涼やかに示しています
すだく虫の音に
やがて来る二人の終わりを背後に感じながらも
遠い一筋の道のりを互いに黙って飲み込んでゆきました
ふと夕顔と今日の名月を
宵闇のサーカスブランコに乗せて
大きく 大きくゆらしてみたくなりました
過去からの風を集めて 今日の思いを込めて揺すります
ゆらーん ゆららーん ゆらららーん