高安ミツ子
僕はもうすぐ15歳になります
毛並みも悪くなり
日がな一日寝ていることが多くなりました
でも朝の散歩は元気です
だって僕の眼が一番輝くときだから
今朝も道ばたに
子供が名付けたに違いない
赤まんまが色鮮やかに咲いていました
おままごとをする子供の脇に
僕がいるような あどけない気持ちになりました
やはり初冬の匂いは僕にはわかるのです
随分歩いた散歩道も
大分風景が変わりました
消えていくもの生まれて来るものの連続が
時代なのかと思えるのです
僕の命の連続はあるのだろうか
僕はどんな さよならをするのだろうか
「こむぎは自然界では生きていけないな」と
散歩するお父さんは僕の傍らでいいました
山道には野生の「むらさきしきぶ」や「葛」が
二人の心を清々しくしてくれます
僕とお父さんは影法師になって
それぞれの命の地図を歩いています
僕が言葉を話せないから
寄り添うから
お父さんお母さんは僕を愛おしいと思うのだろうか
もしかしたら
お寺の鐘が鳴った後の
あのえも言われぬ余韻が僕にはあって
僕が二人の心に灯りを付けているのかもしれない
庭には 冬空の張り絵のように咲く皇帝ダリアが
花火のように咲くネリネが
少しずつ陽ざしに赤く染められていく万両の実が
すきとおったソプラノの音色で
今日の一日を僕に知らせています
僕の心は隠れ家に住んでいるような静かさで
まどろんでいます
老いていく老犬の寂しさを感じながら
我家の匂いに溶けこみながら
僕は15歳の冬を迎えます