高安ミツ子
高層ビルのレストランから見下ろす
林立したビル群は
人の英知が作った高さで並んでいる
ビルは風の気配さえも気づかず
乾いた姿で雨の中にあった
束ねた年齢が重くなったからだろうか
外の風景に結べない私の心
せめて一本大きな山桜が眼下に広がり揺れていたらと
むしょうに命ある花々が恋しくなる
レストランは都会の絵の具を絞り出し
時代背景をなぞっているように
華やいだ人物を描いている
テーブルは若さのドレスに包まれ
鮮やかな小旗がこぎれいに揺れている
満ち足りたこの空間に
座りごこちの悪さを感じながら
私の小旗を小さく振っていると
ふと私の涙を結ぶことが出来る記憶の風景
悠久さをみせた川や
川辺に咲くニセアカシアが蘇ってきた
人が涙を結べる記憶の風景は
粉雪ような淡い生き物になって
この国には長い間降り続けている
誰の心の片隅にもそして私にも届いていて
心が乾いているとき いつも涙を飲み込んでくれる
見下ろしたビル群は遠く曇天にそびえ
ひとり初夏のコーヒーを飲む私は
記憶の風景を重ねたレストランで
今日のページを繰ろうとしていた