高安ミツ子
満開の桜は
お国なまりに包まれて
晴れやかです
人の視線は柔らかく
人の心も弾んで
桜は風に ゆれて ゆれています
四組の兄弟夫婦の今年の旅は
それぞれが過ぎた日々の物語を掬(すく)い
年月の風に慎ましく吹かれています
どんな時をくぐろうとも
どんな美酒を味わおうとも
今は誰もが
花びらの行方の奥に潜む
虚しい伴奏を近くに聞きながら
老いた分だけ血縁の
陽だまりのような安らぎに いやされています
花吹雪は
命の伝達式のように
空に舞い上がり
花霞を突き抜け
春の弱い陽ざしに踊りながら
ぐんぐん空に昇って行きました
旅の証のように
皆の肩にも花びらが舞い落ちています
湖に舞い落ちた花びらは
花いかだになって たゆたっています
鶴が頭上を飛びたったように見えたのは
花吹雪が私達を湖の伝説に誘っているのでしょうか
それとも 木漏れ日からのぞく空の青さに
五人の子供を育てた
義父母の気配が感じられるからでしょうか
私達は 湖の周りの桜並木を歩いています
町は少し淋しくみえますが
桜は静かに平成の終わりを祈るように咲いています