Wind Letter

移りゆく季節の花の姿を
私の思いを
言葉でつづりお届けします。
そっとあなたの心に添えてください。

~私の72~ 寒九の雨

2020-01-18 11:50:24 | 詩作品

                                 高安ミツ子


              

                                                                                                                                                       ( 撮影  鷹取敏秋氏)

 

       

                                    新しい年の寒さは

                  紫陽花の葉をカサカサと枯らし

                  かすかな生命をのぞかせた水仙を

                  時間が止まっているように包んでいます


                  冬の歩みは遅く

                  私の歩みも遅くなっています


                  裸木の隙間から見える

                  どんよりとした空

                  案じられる友の病のようです


                  老いていく寂しさがあなたの心を壊したのか

                  見える風景は同じはずなのに

                  あなたの心の磁石はぐるぐる回って

                  方向が見えないまま

                   激しさとなって

                   不安の楔(くさび)を打ち込んでいるのでしょうか


                   あなたと4人で詩を書いたあの青春は

                   いくつもの時間に上書きされても

                   記憶の奥に今でもしっかりと座っています

                   時代の勢いの中で もまれながらも 

                   あの青春は指先でさえ記憶している場所でした


                   お伽噺のように

                   私が竜や白鳥になって

                   あの時の風景に連れていきたいけれど

                   あなたに手渡すものがないまま時は過ぎています


                   ふいに ジョウビタキが梅の枝にとまりました

                   あなたの意識が届いたように思われ

                   息をこらして祈るように見やると

                   ジョウビタキの細い鳴き声は

                   遠のいていくあなたの姿のようでした

                   寒九の雨を連れてくる前触れでしょうか

                   雪山かと思えるような白い雲が

                   街のかなたに広がっています


                   豊作の兆(きざ)しと喜ばれる寒九の雨よ

                   せめて 友の心にも優しく 穏やかな

                   雨音を聴かせてほしいのです

 
                   新しい年に生きる私の哀しみは

                   冬の影法師を踏みながら

                   最終バスに乗ったあなたを見送っています

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする