雷をともなった春の嵐は
あの世とこの世の境界線を描くように
花吹雪を空に舞い上がらせ
花びらを湖面にまき散らせていった
湖の底から
誰かが落とした記憶の声が
誰かと約束をしている女の声が
聞こえてくるのは
やはり伝説の龍が住んでいるのだろうか
見上げると
けなげに桜が咲いている
あのとき あなたが
桜の下で誰も映っていない写真を
私に見せたのは
叶わなかった恋情への
影踏みだったのか
あなたが逝ってしまった今年の桜を見上げると
辛い恋をしていたあなたの
呑み込んでいた言葉が蘇り
花影のどこかに
あなたが潜んでいるように思えてくる
湖の龍よ
激しく散った花吹雪を集め
花の龍になって
日差しが見えてきた空を突き抜けてほしい
桜色に染めた彼女を連れて
遠くで雷がかすかに鳴っている
湖面では希望と悲しみを束ねるように
花筏が静かに揺れていた