近くのTOHOシネマで映画「僕が宇宙に行った理由」を観た、シニア料金1,300円。2023年、監督平野陽三。今日はプレミアムシートの部屋だった。座席数が少なく、普通の部屋よりシートが大きく、となりのシートの間に20㎝くらいの幅のテーブルがある贅沢な部屋だ。20人くらいは入っていたか。
この映画は、日本の民間人として初めて宇宙旅行を成し遂げた実業家の前澤友作に密着したドキュメンタリー。前澤氏はご存知の通り、衣服の通販サイト(株)ZOZOの創業者で、ZOZOを上場会社まで発展させ、Yahooから買収提案を受けるとこれに応じ、持ち株を売却して2,400億円を手にし、経営者の地位を降りた人だ。
映画の中で前澤氏は「自分はゼロを1にする能力はあるが、1を100にする能力はないため、経営者を辞任した」と述べている。これは1つの見識であろう。ベンチャー企業を作り、新たなビズネスをはじめ、これを成功させるまでの能力と、個人企業から脱し東証一部に上場するほど大きくなった会社を維持・発展させていく能力とは別物であろう。その両方ができる人は少ないはずだ。その点で私は前澤氏に共感できる。
巨額の富を手にした前澤氏は、ベンチャー企業に投資するファンドを立上げ、もう既に10社以上のベンチャー企業に投資しているようだ。また、地元や災害地域に寄付をするなど慈善活動も多くされているようで感心だ。ワイン、高級車、現代アートのコレクターとしても知られている。これらのことをしてもまだまだ十分財産があるだろう。子供の頃からあこがれていた宇宙に行ってみたいという夢が叶う可能性があることを知り、実現に向けて計画を練り、一つずつ実行して、遂にその夢を実現させた。その過程をドキュメンタリーとして追ったものがこの映画である。
この映画を観ると、宇宙に行くための準備がいかに大変かよくわかる。先ずは宇宙に行けるだけの健康状態、精神状態になっているかの試験がある。これにパスしないとスタートラインに着けないが、これが簡単ではない。前澤氏は2回目で合格したが、同僚の平田氏は鼻の手術とか歯の手術とかをして何とか合格した。その後、無重力状態で活動ができるようになるための知識の習得、フィジカル面でのトレーニングが延々と続く。軽いノリで宇宙に行ってきます、というような簡単なものではなく、相当な覚悟と忍耐力、精神力、体力などが求められることがわかる。
今回、氏の宇宙旅行に協力したのはロシアのチームでロケットもロシア製のソユーズというのが皮肉だ。前澤氏が宇宙旅行に行ったのは2021年の12月、ウクライナ侵略がある2ヶ月前である。チームのリーダーはロシア人である。訓練の場所、サポートチームもロシア人中心だ。ZOZOの創業者だった頃から氏は戦争の無意味さを感じ、東証での上場セレモニーで鐘を叩くときも会社のメンバーとTシャツにNOWARと書いてアピールしていた。宇宙から美しい地球を観て、世界のリーダーはみんなここに来るべきだと訴えていたのに宇宙から戻ったら戦争が起こったとはなんたる皮肉か。
前澤氏のようなタイプの人間は一流会社に就職しても出世はできないであろう。しかし、氏が言うように、大会社で活躍する人とゼロから事業を起こして大きくする人は同じタイプの人間ではない。日本はもっと前澤氏のようなタイプの人もどんどんでてくるよう、考え方を変えていかなければいけないだろう。そのためにも前澤氏のような成功したベンチャー経営者の皆さんには、築いた財産を公益、慈善活動、その他世のため人のために積極的に使って、自らもその活動に従事するなどの貢献もし、世の中から尊敬を集め、若い人たちの憧れの存在になるよう活動してほしい。